アスリートがビタミンやミネラルのサプリメントを利用する際に考慮すべきこと
アスリートがビタミンやミネラルのサプリメントの摂取する際に考慮すべきことをまとめた、オーストラリアの研究者によるレビュー論文が発表された。要旨を紹介する。
アスリートは微量栄養素が欠乏するリスクが高い?
ビタミンやミネラルは、それ自体がエネルギー源として使われることはないものの、エネルギー代謝に不可欠であり、かつ、免疫能や筋肉の合成・修復、骨代謝など、健康や運動にかかわるほぼすべての機能に何らかの関連がある。また、多くの微量栄養素は内因性に産生されないため、外因性に摂り入れる必要がある。
アスリートは、高度な身体活動に伴う栄養素の需要が高く、汗や尿、便中への排泄が増加しており代謝回転が速い。また、トレーニング負荷のために消化管での吸収が低下していたり、疲労困憊のために十分な食事を摂取できないことがあって、栄養素が不足するリスクがある。
このようなリスクに対して、例えばエネルギー補充用の食品(スポーツバーやジェルなど)を摂取した場合、エネルギー量の帳尻を合わせることは可能かもしれない。ただし、栄養素の組成バランスが最適でなくなり、微量栄養素については不足が補正されない可能性がある。これらに加えて、審美系スポーツのアスリートの場合は、体型の維持のために摂取量自体が少なすぎることが珍しくなく、当然のように微量栄養素の欠乏リスクが上昇する。
微量栄養素が不足し始めると、アスリートではまず、無気力、易疲労といった症状が現れやすい。それらの症状はトレーニングの量や質の低下につながり、ひいてはパフォーマンスの低下につながる。
これらの問題に対処する手段として、ビタミンやミネラルのサプリメントの利用が考慮される。
サプリメント利用に際して考慮すべきこと
サプリメントの利用に際しては、以下の諸点を考慮する必要がある
- 摂取する量。欠乏により生じている問題を修正するには、推奨摂取量(recommended daily intake;RDI)よりも高用量必要である可能性が高い(RDIは欠乏を回避するための推奨量であるため)
- いつ摂取すべきか(運動または食事との関連)
- サプリメントと他の食品との相互作用(例えば、鉄とカルシウムの同時摂取は鉄の吸収を低下させる可能性がある一方、鉄とビタミンCの同時摂取は吸収を高める可能性がある)
- 医薬品との相互作用(例えば、葉酸代謝に悪影響を与える経口避妊薬など)
- 摂取期間(健康な状態に回復するまでの所要期間)
- どのように効果を評価するか(摂取の有効性を判断するためのモニタリングの頻度)
血液、骨代謝、免疫能に重要なビタミンとミネラル
これに引き続き論文では、「われわれの食事中に存在する多数のビタミンやミネラルが果たす無数の機能を考慮すると、それらすべてを包括的にレビューすることは非現実的であることは明らか」と述べ、アスリートの健康と適応能力に共通の重要な因子である、血液学、骨の健康、免疫機能に不可欠な栄養素をピックアップして解説を加えている。具体的には、ビタミンC、D、B12、B9、鉄、カルシウム、亜鉛であり、それらの推奨摂取量(RDI)、血液検査での基準範囲、サプリメント以外でそれらを豊富に含む食品が、以下のようにまとめられている。
※1:RDI;オーストラリア国立保健医療研究評議会(National Health and Medical Research Council;NHMRC)の推奨値
※2:基準範囲;西オーストラリア州保健省のデータ
ビタミンC
- RDI ※1
- 男性90mg、女性75mg
- 基準範囲 ※2
- 4~14mg/L
- 豊富な食品
- 柑橘類(オレンジ、キウイ、レモン、グレープフルーツ)、ピーマン、アブラナ科野菜(ブロッコリー、芽キャベツ)
ビタミンB12
- RDI ※1
- 男性・女性とも2.4μg
- 基準範囲 ※2
- 140~1,000pmol/L
- 豊富な食品
- 魚、レバー、赤身肉、卵、鶏肉、牛乳、チーズ、ヨーグルト
ビタミンB9(葉酸)
- RDI ※1
- 男性・女性とも400μg
- 基準範囲 ※2
- 7nmol/L以上
- 豊富な食品
- 緑黄色野菜(ほうれん草、アスパラガス、芽キャベツ)、豆、ピーナッツ、レバー、魚、卵
鉄
- RDI ※1
- 男性8mg、女性18mg、基準範囲(フェリチン);30~300μg/L
- 豊富な食品
- 赤身肉、鶏肉、緑黄色野菜(ほうれん草、チンゲンサイ)、ナッツ、種子
カルシウム
- RDI ※1
- 男性・女性とも1,000mg
- 基準範囲 ※2
- 210~260mmol/L
- 豊富な食品
- 牛乳、チーズ、ヨーグルト、大豆、緑黄色野菜(ほうれん草、チンゲンサイ)、アーモンド
亜鉛
- RDI ※1
- 男性14mg、女性8mg
- 基準範囲 ※2
- 9~16μmol/L
- 豊富な食品
- 貝類、牛肉、鶏肉、豆類、ナッツ、種子
女性アスリートに対する特別な配慮
このほかに、「女性アスリートに対する特別な配慮」という章が設けられている。女性は月経周期によって、体温調節、代謝、認知機能、自律神経調節能などのさまざまな生理学的な側面に影響が生じる可能性があり、また女性アスリートは、微量栄養素欠乏症の有病率が高いことは確かであって、女性アスリート特有のニーズを考慮した栄養学的アプローチが必要と述べられている。
例えば鉄は女性アスリートでの欠乏リスクの高い微量栄養素であり、RDIは男性の8mgに対して女性は18mgと2倍以上に設定されている。それにもかかわらず一般に女性は男性よりも食事摂取量自体が少ないため、鉄欠乏が生じやすい。さらにこの問題はベジタリアンやビーガンでは顕著となり、サプリメントによる鉄摂取をより重視する必要がある。
鉄のほかにも、妊娠との関連で葉酸欠乏の予防、疲労骨折や引退後の骨粗鬆症リスク抑制のためにカルシウムやビタミンDサプリメントの積極的な摂取が必要なケースがあるとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Considerations for the Consumption of Vitamin and Mineral Supplements in Athlete Populations」。〔Sports Med. 2023 Jun 26〕
原文はこちら(Springer Nature)