炭水化物・タンパク質の摂取量が多いほど体脂肪率が低くなりパフォーマンスが向上する
女子クロスカントリースキー選手を対象に、日常の栄養素摂取量およびトレーニング量と、体組成およびパフォーマンスとの関連を調査した、1年間の観察研究の結果が報告された。パフォーマンスを決定づける重要な因子はトレーニング量の多さ、および、体脂肪率が高くないことであり、体脂肪率は炭水化物やタンパク質の摂取量が少ないほど高いという関連が認められたという。著者は、「若年女性アスリートが体組成を修正しようとする際に、栄養摂取を制限するという方法は良い戦略ではないと考えられる」としている。フィンランドからの報告。
エネルギー可用性(EA)が低いとパフォーマンスが低下するのか?
エネルギー可用性(energy availability;EA)が低い状態(low energy availability;LEA)は、アスリート、なかでも女性アスリートの健康に悪影響を及ぼす状態であり、回避が重要とされている。ただ、本論文に研究背景として述べられているところによると、LEAとパフォーマンスとの関連については、一般的にはパフォーマンス低下に結びつくと理解されているものの、リアルワールドでの知見は限られているという。とくに、LEAが短期的に生じた場合と、長期間継続した場合のパフォーマンスへの影響について、報告間に大きなギャップがあるとのことだ。
この状況を背景として本論文の著者らは、若年女子クロスカントリースキー選手を対象として、エネルギー可用性(EA)および主要栄養素の摂取量を1年間にわたって断続的に評価し、体組成やパフォーマンスとどのような関連があるのかを検討。あわせて、パフォーマンスの高さを最もよく説明可能な因子は何かを検討した。
フィンランドの若年女子スキーヤーを1年間追跡
研究対象は、フィンランドのスポーツアカデミーに所属し、クロスカントリースキーまたはバイアスロンを行っている女子高校生アスリート27人(17.1±1.0歳、VO2max54.1±3.8mL/kg/分)。2020年8月~翌2021年8月を4期に分けて、1期につき3日間、食事とトレーニング状況を記録してもらい合計12日間のデータを得たうえで、それを平均して栄養素摂取量とトレーニング量を評価した。
観察開始時点および終了時点に、体組成測定、採血検査、カウンタームーブメントジャンプ(腕の反動を使わないジャンプ力)、有酸素能力、乳酸閾値と、トレッドミル上でのローラースキーによるダブルポーリング(左右のスキーポールを同時に振り出す推進法)のパフォーマンス測定、および、エネルギー可用性が低下していないか(LEAに該当しないか)の評価を行った。LEAは、「女性のエネルギー可用性低下質問票(low energy availability in females questionnaire;LEAF-Q)」のスコアが8点以上の場合、またはし自己申告による無月経状態(90日以上に及ぶ月経の欠如)の場合と定義した。
トレーニングと炭水化物とタンパク質の摂取量がパフォーマンスを決める可能性
エネルギー可用性(EA)と炭水化物摂取量が推奨を満たさず
結果についてまず、エネルギーの出納や主要栄養素摂取量をみると以下のとおり、エネルギー可用性(EA)と炭水化物摂取量が一般的な推奨を下回っていた。
1日あたりの摂取エネルギー量50.3±7.7kcal/kg除脂肪体重〈FFM〉、消費エネルギー量12.8±4.5kcal/kgFFM、エネルギー可用性(EA)37.4±9.1kcal/kgFFM(推奨は45以上)、炭水化物4.8±0.8g/kg(同6~10)、タンパク質1.8±0.3(同1.2~2.0)、脂質31±4%エネルギー(同20~35)。
BMIは観察開始時点が21.8±2.2、観察終了時点が22.4±2.3であり、観察期間1年で有意に上昇していた(p=0.001)。ただし、除脂肪体重も同順に51.2±5.2gから52.6±4.9kgへと有意に増加していた(p<0.001)。体脂肪率は17.0±4.3、18.1±4.9%であって有意な変化はなかった(p=0.10)。
VO2maxは54.1±3.8から52.1±4.3mL/kg/分へと有意な低下が観察された(p=0.006)。カウンタームーブメントジャンプの高さ、およびダブルポーリングのタイムには有意な変化は生じていなかった。
LEAF-Qスコアは5.5±3.6から7.3±4.5へと上昇していたが、統計的にはこの変化は非有意だった(p=0.08)。
炭水化物摂取量が多い選手ほど体脂肪率が低い
続いて、トレーニング量や栄養素摂取量とパフォーマンス指標との関連をみていこう。おもに有意な関連が認められた項目を中心に紹介する。 トレーニング量が多いほど観察終了時点のパフォーマンスが高い:
トレーニング量は601±101時間/年だった。トレーニング量と体組成や栄養素摂取量との有意な関連はみられなかった。ただし、トレーニング量が多い選手ほど、観察終了時点のダブルポーリングの記録が有意に良好で(r=0.57、p=0.18)で、統計的には非有意ながら相対VO2maxが高い傾向や(r=0.42、p=0.092)、観察期間中のダブルポーリングの記録向上傾向(r=0.43、p=0.069)が認められた。
VO2maxは炭水化物摂取量が多いほど高く、体脂肪率が低いほど低い
VO2maxは炭水化物摂取量と有意な正相関が認められ(r=0.61、p=0.005)、体脂肪率とは有意な負の相関が認められた(r=-0.67、p=0.001)。
また、炭水化物摂取量が多い選手ほど体脂肪率が低いという逆相関も明らかになった(r=-0.50、p=0.017)。この点を著者らは「注目すべきこと」として強調している。そして、観察期間中の体脂肪率の変化とダブルポーリングの記録の変化とが逆相関する(体脂肪率が低下した選手ほどパフォーマンスが向上した)こともわかった(r=-0.54、p=0.009)。
パフォーマンスとの直接的で有意な相関はタンパク質摂取量のみで認められる
最後に、栄養素摂取量とパフォーマンス指標との関連を検討すると、タンパク質摂取量が多いほどダブルポーリングのタイムが良好という有意な関連が認められた(r=0.44、p=0.039)。炭水化物摂取量については前述のようにVO2maxとは有意な関連が認められたが、ダブルポーリングのタイムとの相関は非有意だった。エネルギー可用性(EA)や脂質摂取量は、VO2maxおよびダブルポーリングのタイムともに、関連が認められなかった。
カウンタームーブメントジャンプの高さについては、いずれの栄養素摂取量も有意な関連がなく、関連を検討した指標の中でBMIが唯一の負の関連因子だった。
以上をまとめると、若年女性クロスカントリースキー選手のパフォーマンスを説明する最も重要な因子は体脂肪率とトレーニング量であり、体脂肪率は炭水化物とタンパク質の摂取量が多いほど低い。著者らは、「栄養摂取を制限することが、若年女性アスリートの体組成を変えるための良い戦略ではない可能性があることを示唆している」と結論で述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutritional intake and anthropometric characteristics are associated with endurance performance and markers of low energy availability in young female cross-country skiers」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2023 Dec;20(1):2226639〕
原文はこちら(Informa UK)