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「学校での食育には大きな可能性が秘められている」北欧研究者らのメッセージ

食育の現状と可能性、課題について考察したレビュー論文が報告された。ノルウェー、スウェーデン、フィンランドという北欧3国の研究者らによる論文で、食と健康を正式な教科として設定することなどを提案している。要旨を紹介する。

「子どもたちへの食育には大きな可能性が秘められている」北欧研究者らのメッセージ"

食についての学習をめぐる社会的課題

不健康な食生活は、疾患発症と早期死亡の主要なリスク因子の一つであり、世界中でその懸念が高まっている。それに加えて、環境負荷の少ない持続可能な食料システムの確立の緊急性も高まってきた。世界の人々がこれらの問題を認識し主体的な行動を起こすことが求められている。

生涯を通じた食行動の多くは成人までに身につくとする報告が多い。大半の子どもたちは基本的な食事のスキルや習慣を自宅で学ぶ。しかし、親の生活パターンの変化などによって家庭で調理をする機会や家族とともに食事をとる機会が減っており、子どもたちが食について学ぶ機会も減っている。親に子どもたちの健康を増進する食習慣を確立する主な責任がある一方、初等中等教育には、食品や食事に関するより正式な学習環境を用意し、生徒たちに必須の知識、スキルを身につけさせるという役割を担う。

体系的な食育の場としての学校

教育は健康関連行動を変更可能な決定要因であり、すべての年齢層に必須のスキルと能力を習得する可能性を与え得る。そのため学校教育は、戦略的公衆衛生アプローチの一部とみなすこともできる。食と健康の体系的な教育は、おそらく次世代の不平等な社会条件を是正すると考えられる。

中央ヨーロッパのほとんどの国、および多くの世界の他の地域のように、学校制度において食育の科目の役割が確立されていない国では、食に関連する重要なライフスキルは、親または介護者がそのような能力を持っているかどうかにかかわらず、親・介護者によってカバーされる必要がある。つい最近では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴う学校閉鎖によって、子どもたちの肥満と社会的不平等の増加が生じたことが、各国から報告された。デンマークでも最初のCOVID-19関連ロックダウン中に、生徒の約20%が喪失感を感じていることが判明した。

学校カリキュラムの一部として義務的な食育の必要性を強調する論調が増加している。学校制度からの十分な支援がなければ、食に関する重要なスキルが将来の世代で失われる可能性があるとの主張もみられる。

教師の能力と学校組織、食育の優先順位

ノルウェーでは驚くべきことに、食育を担当している教師のうちその正式な資格を有している教師は半数未満である。すべての学校科目全体で、資格のある教師の割合が最も低いという。研究報告によると、食育を担当する教師は料理の経験や食べ物に対する興味が重要と捉えられる傾向があるとのことだ。

現在、8~10年生にあたる中学校で教える教師のみが、その科目を教えるための必修単位を修める必要がある。低学年で食育を担当する教師には、正式な能力に関する要件がない。これは、ノルウェーの学校制度における食育の低い地位を浮き彫りにする、学校組織上の重大な問題である。

ある研究では、食育の授業を担当する資格のある教師の割合が高いほど、授業内容が濃いことが報告されている。現在、教師の食育のスキル向上が必要とされており、低学年である1~7年生も含めて食育の授業を行う教師に資格を求める施策も提案されている。

食育における実践的な教育アプローチが人気

実用的なスタイルの授業は生徒の間で人気があり、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、それぞれでの研究で報告されている。ただし、食育の授業を、休憩として捉えている生徒が多いという事実も指摘されており、この点には注意を要する。評価が伴わない授業は、価値のある知識構築の場とならない可能性がある。また、生徒と教師の双方が食育の授業に調理の実践的な作業を重視していることが明らかにされているが、教師はより、栄養学などの理論を教えることの必要性を指摘している。ただし、多くの教師は、食育の時間枠が限られているためにそれが困難と感じているという。

食品と持続可能な食事に関する知識を伝えることに関して、その大半は家庭やメディアによって行われており、学校はほんの一部しか提供していない。これは、教育の場で食育に割り当てられる時間が最小限のものであることで部分的に説明できるのではないか。一方、スウェーデンからは、食育に重点を置き過ぎると、その他の科目の位置づけが低下する可能性が指摘されている。

食育には未開発の大きな可能性がある

論文の結論には、「将来の公衆衛生と生徒、地域社会、そして地球の持続可能性に大きな関連性があることを考えると、食育には未開発の大きな可能性が秘められている。よって、政府レベル、学校当局、個々の教師に対して、生徒の毎日の食事の選択の重要性への関心を高め、健康上のメリットを理解する動機を与える努力が求められる」と述べられている。

最後に、論文のキーポイントとして掲げられている要点を引用する。

  • 食育は、公衆衛生、持続可能性、幸福に関連しており、食品に関する大きな可能性をもたらす。
  • 食育の可能性を広げるには、正式な教師資格と教科としての優先順位付けが必要。
  • 調理(という実技)に集中するのではなく、理論と実践をうまく組み合わせ、議論や考察の時間を増やすことで、食育のより高い学習レベルに到達する可能性がある。
  • 適切な食育カリキュラム指導があれば、学校は体系的な食教育に適した環境となる可能性がある。

文献情報

原題のタイトルは、「Harnessing the untapped potential of food education in schools: Nurturing the school subject Food and Health」。〔Matern Child Nutr. 2023 Apr 28;e13521〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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