食事・運動・睡眠などのライフスタイル改善に、チャットボットが有効 メタ解析で有意な結果
コンピュータープログラムにより人間的な会話を行うチャットボットを、生活習慣の改善のための介入に利用した研究論文のメタ解析結果が報告された。食事や運動、睡眠時間や睡眠の質などの有意な改善が認められたという。また、野菜や果物の摂取量などに対しては、音声よりもテキストベースのほうが効果的である可能性も示されたとのことだ。
チャットボット介入の効果をメタ解析
つい数年前まで、患者または疾患リスクのある人への生活習慣改善指導と言えば、看護師や栄養士、理学療法士などの医療スタッフの業務の範囲であることを、ほとんどの人が当然のように考えていただろう。しかしテクノロジーが加速度的に進歩しており、そのような療養指導の領域も急速に変化しているようだ。
テクノロジーを用いた一つのツールがチャットボットだ。チャットボットは、テキストや音声、または視覚的なコミュニケーション形式を通じて、人間の対話を再現するようにコンピュータープログラムであり、多くは人工知能(AI)を利用している。既に、チャットボットが、うつ病、不安、ストレス、服薬アドヒアランス、禁煙、薬物乱用などの治療介入に用いられ、有効性が報告されている。ただし、それらの研究のメタ解析はまだ行われていなかった。
チャットボットとは
チャットボットの定義や歴史、仕組みを解説!(RICOH)14件の文献データベースを用いてシステマティックレビュー
この研究では、PRISMA(システマティックレビューとメタ解析のための優先報告事項)に即して、2022年9月1日までにPubMedなど14件の文献データベースに収載された、英語で執筆されている論文を対象とするシステマティックレビューが行われた。包括基準は、チャットボットによるライフスタイルへの介入が行われた比較対照のある研究または前後比較試験。検索キーワードとして、チャットボット、身体活動、座位行動、睡眠、ダイエットなどを用いた。
一次検索で2,514報がヒットし、重複削除後に10名の研究者が独立してタイトルと抄録に基づくスクリーニングを実施。74報を全文精査の対象とした。採否の意見の不一致は上級研究員を含む討議により解決した。
メタ解析の対象とした研究の特徴
最終的にメタ解析の対象として、11件の無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)を含む19件の研究報告を抽出した。
それらの研究の参加者数は25~958人の範囲で合計3,567人、平均年齢は9~71(中央値44)歳で、介入期間は2週間~1年(中央値6週間)だった。介入対象は、健康成人、高齢者、身体的に不活発な成人、過体重・肥満者、担癌者、睡眠障害患者などだった。
チャットボットは、食生活への介入で7件、睡眠への介入で5件、座位行動の改善で3件の研究が行われ、8件の研究は複数の因子への介入にチャットボットが利用されていた。また、11件の研究はチャットボットのみを用いた介入が行われ、他の8件はチャットボット以外の介入手段も併用されていた。
8件の研究でチャットボットはテキストベースのみで使われ、3件は音声ベースのみ、8件はテキストや音声、画像、アバターなどの視覚的表現が使われていた。
運動・食事・睡眠のすべてに有意な効果
メタ解析の結果、以下のように、身体活動量、歩数、中~高強度身体活動(moderate-to-vigorous physical activity;MVPA)、野菜や果物の摂取量、睡眠時間・質という、評価したすべての指標で有意な介入効果が認められた。
身体活動関係の結果
身体活動量については10件の研究があり、研究参加者数は計1,603人で、標準化平均差(standardized mean difference;SMD)=0.28(95%CI;0.16~0.40)、異質性(I2統計量)=12%。1日の歩数については6件の研究があり、参加者数は1,276人で、SMD=0.28(95%CI;0.17~0.39)、I2=0%。中~高強度身体活動(MVPA)については2件の研究があり参加者数184人、SMD=0.53(0.24~0.83)、I2=0%。
食事や睡眠に関する結果
野菜や果物の摂取量については4件の研究があり参加者数289人、SMD=0.59(0.25~0.93)、I2=42%。睡眠時間については3件の研究があり1,184人、SMD=0.44(0.32~0.55)、I2=0%。睡眠の質は4件1,302人、SMD=0.50(0.32~0.55)、I2=80%。サブグループ解析では、若干の差異
介入方法別のサブグループ解析の結果、若干の差異が認められたものもあった。
介入期間の長短による違い
介入期間を6週間以下か6週間を上回るかで層別化したサブグループ解析では、睡眠に対しては介入期間が長い3件の研究でSMD=0.14(-0.05~0.33)であり非有意、介入期間が短い3件の研究は全体解析同様に有意だった。一方、野菜や果物の摂取量に対しては逆に、介入期間が短い2件の研究でSMD=0.16(-0.63~0.96)であり非有意、介入期間が長い2件の研究は全体解析同様に有意だった。
テキストベースか否かによる違い
音声を用いたチャットボットによる介入を行った2件の研究では、睡眠への影響がSMD=0.17(-0.05~0.39)であり非有意、テキストによる介入を行った4件の研究は全体解析同様に有意だった。また野菜や果物の摂取量に対しても同様に、音声を用いた介入を行った2件の研究ではSMD=0.16(-0.34~0.66)であり非有意、テキストによる介入を行った2件の研究は全体解析同様に有意だった。
評価手法による違い
身体活動量に対する有効性を、研究参加者の自覚的な評価で判定した3件の研究は、SMD=0.29(-0.02~0.44)であり非有意だった。一方、自覚的でない手法により評価した7件の研究は、全体解析同様に有意だった。以上を基に著者は、「システマティックレビューとメタ解析の結果、チャットボットによる介入が身体活動、野菜と果物の摂取量、睡眠時間、睡眠の質の向上に効果的であることが示された。チャットボット介入はさまざまな年齢層にわたって効果があるようだ。ただし、これらの結果を確認するには、厳密な研究デザインと評価による、今後の大規模な長期の追跡調査が必要」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Systematic review and meta-analysis of the effectiveness of chatbots on lifestyle behaviours」。〔NPJ Digit Med. 2023 Jun 23;6(1):118〕
原文はこちら(Springer Nature)