食事と運動で脳の老化と認知機能低下をどこまで抑制できるか? ナラティブレビュー
食事と運動が身体的健康の維持・向上に有用であることは確固たるエビデンスに裏付けられており、実際、それによる介入指導が臨床において重要なパートとして位置づけられている。では、脳の老化や認知機能はどうだろうか? この点に焦点をあてたナラティブレビュー論文を紹介する。
イントロダクション
認知機能の低下が顕著に認められるようになるのは、一般的には65歳以上の高齢者とされる年齢以降のことだ。現在、世界的に人口の高齢化が進んでおり、認知症への対策は世界共通の急務となっている。脳の健康や認知機能を低下させる要因として現状では、大きく血管性の要因と神経学的な要因があるとされており、前者については食事や運動により心血管疾患イベントの抑制を介して脳の健康にも寄与する可能性が想定されるが、後者の経路については今一つ影響の有無やメカニズムがはっきりしない。
今回紹介する論文は、既報研究に基づきこれらの点について、叙述的なレビューとして考察をまとめたもの。食事介入として、地中海食(Mediterranean diet;MeDi)、高血圧予防食(dietary approaches to stop hypertension;DASH)、神経変性遅延を意図した地中海式-DASH食事療法(Mediterranean-DASH intervention for neurodegenerative delay;MIND)、ケトジェニック食、断続的絶食、および減量管理を取り上げ、運動介入として、持久力運動、レジスタンス運動、複合運動プログラム、ヨガ、太極拳、および高強度インターバルトレーニングを取り上げている。食事に関する記載を中心に抜粋して紹介する。
加齢に伴う脳の健康と認知機能に対する食事の影響
認知機能の低下や認知症の発症リスクを遅らせたり軽減したりするのに最も効果的な食しスタイルは、包括的な自然食であることを示唆するエビデンスが増えている。一般的には、多彩な自然食を摂取することで、個々の食品の栄養素が相乗効果をもたらすと理解されている。例えば、野菜をオリーブオイルや酢とともに食べるとビタミンの吸収が向上するといったことだ。
最近、地中海食(MeDi)、高血圧予防食(DASH)、神経変性遅延を意図した地中海式-DASH食事療法(MIND)に焦点をあてたいくつかのレビューが報告されている。
地中海食(MeDi)
地中海食(MeDi)は地中海沿岸諸国の伝統的な食事パターンとされる、果物、野菜、ナッツ・種子、低脂肪乳製品が豊富なことを特徴とする。地中海食は心臓血管の健康に良いと高く評価されている。
高血圧予防食(DASH)
高血圧予防食(DASH)は、高血圧患者の血圧改善のためにナトリウム摂取量を減らすことを主眼として開発され、果物、野菜、全粒穀物、ナッツを増やすことに重点を置いている。また、肉は主として家禽とし、魚の摂取を増やし、乳製品は低脂肪であるべきとされる。文献的にDASH食は、心血管疾患のリスクを軽減する効果的なアプローチとして示されている。
神経変性遅延を意図した地中海式-DASH食事療法(MIND)
地中海食とDASH食のエビデンスに基づき開発されたもので、野菜、とくに緑黄色野菜の摂取に重点を置き、果物の代わりにベリーを摂り、ナッツ、豆類、全粒穀物、赤身の肉、ワインの摂取も推奨される。調理用としてはオリーブオイルの使用が重視される。MeDi、DASH、MINDの共通栄養成分と脳への影響
上記3パターンの食事スタイルが推奨する共通の食品や栄養成分として、野菜、フルーツとベリー、ナッツとオリーブオイ、全粒穀物と豆、魚介が挙げられ、揚げ物、ファストフード、スイーツは制限される。
これらの成分は、細胞膜と血管の機能維持、炎症や酸化抑制、神経伝達物質の機能性などにかかわり、脳の健康と認知機能に影響を及ぼす可能性がある。地中海食、DASH食、MIND食の遵守度が高いほど、認知スコアが高いという関連がレビューの結果として示されている。
ケトジェニック食、断続的断食、減量のための食事
ケトジェニック食は、ケトーシス状態とすることでエネルギー基質としてグルコースの代わりにケトン体を利用するように切り替えるとされている。10件の無作為化対照試験のレビューでは、ケトジェニック食の遵守は、軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)と認知症のエピソード記憶の改善と関連していた。
断続的断食に関しては、最近の研究で健康な成人および認知症患者の認知力の向上と関連付けられている。このほかに、認知機能の改善が意図的な減量と関連していることも指摘されている。
加齢に伴う脳の健康と認知機能に対する運動の影響
動物実験では、運動が脳の健康にプラスの影響を与えることが示唆されている。例えば、運動療法によりニューロンの数の増加や神経細胞の生存率の向上、脳損傷に対する抵抗性の向上などが報告されている。また、運動は脳の血管新生を促進し、可塑性という点でもメリットとなると考えられる。
持久力運動: 脳の健康に対する運動の影響に関する研究のほとんどは、持久力運動に焦点を当てている。観察研究からは、自己報告された身体活動が認知機能と正相関することなどが示されている。無作為化比較試験の結果は一貫性が欠けるが、全体的には、健康な高齢者の認知能力に対して有益な影響を及ぼすことが示唆されている。 レジスタンス運動: レジスタンストレーニングについても、有望の可能性が示唆される。ただし、大規模で適切に設計された無作為化比較対照試験はごく少ない。レジスタンストレーニングの実行機能や記憶力、総合的な認知力への影響を示した研究もあるが、認知機能の低下とアルツハイマー病を予防できるとする結果は、一貫性が欠けている。
文献情報
原題のタイトルは、「Impact of Diet and Exercise Interventions on Cognition and Brain Health in Older Adults: A Narrative Review」。〔Nutrients. 2023 May 27;15(11):2495〕
原文はこちら(MDPI)