トレーニングに最適な時間帯は? 予定されている試合と同じ時間帯が良い可能性
トレーニングを行う時間帯によって、トレーニング効果は異なるのだろうか? この疑問の答をシステマティックレビューとメタ解析により検討した研究結果が報告された。とくに効果的な時間帯というのは特定されなかったが、トレーニングを行っている時間帯と、パフォーマンスの評価を行った時間帯が一致している場合には、より良好な成績を期待できる可能性がみつかったという。
時間運動学の視点でトレーニングに最適な方法を探る
近年、栄養に関しては時間栄養学の研究が進んでおり、同量の栄養素を摂取したとしてもそれをいつ摂るかによって体重などへの影響が異なることが分かってきている。代謝性疾患の治療などにおいては、1日の遅い時間帯ではなく、午前中の早い時間帯、主に朝食に多くの栄養素を摂ることが推奨されるようになった。
運動についても時間運動学に関する報告が増えつつある。ただしエビデンスはいまだ十分でなく、疾患の治療・予防という臨床を想定したガイドライン、およびスポーツ領域でのパフォーマンスの維持・向上を想定したガイドラインの推奨事項は通常、運動の強度、頻度、種類、期間のみであって、1日のどの時間帯に運動をすべきかについての言及はみられない。
今回紹介する論文は、このトピックについて行ったシステマティックレビューとメタ解析の報告であり、PRISMA(システマティックレビューとメタ解析のための優先報告事項)に即して行われている。
システマティックレビューの包括基準
EMBASE、PubMed、Cochrane Library、SPORTDiscusという4種類の文献データベースに、それぞれの開始から2023年1月4日までに収載された論文を対象として、検索を実施。包括条件は、ヒトを対象として筋力または持久力トレーニングの効果を検討した無作為化クロスオーバー試験か無作為化並行群間比較試験であり、少なくとも1日に異なる二つの時間帯で、週に2回以上、2週間以上の介入を行った研究の報告。研究参加者の年齢、性別、運動レベル、健康状態、介入方法、報告年については制限を設けなかった。学会発表や評価に必要な情報が示されていない報告は除外した。
4件のデータベースの検索で重複削除後のヒット数は1万4,125報であり、これを2名の研究者が独立して、タイトルとアブストラクトに基づくスクリーニングを行い、55報が残った。採否に関する意見の不一致は、3人目の研究者との協議により解決した。
全文精査によって、26報、22件がレビューの対象として抽出された。3報の論文は一つの同じ研究データを用いた異なる解析を行った報告だった。22件の研究のうち7件の研究がメタ解析により定量的に検討され、その他も含めて定性的な検討が行われた。
解析対象研究の特徴
定性的検討の対象も含む22件の研究の参加者数は、合計713人(男性62%、女性35%、性別未報告3%)。8件は体育学部の学生(サンプルサイズ加重平均年齢が22歳〈範囲19~24〉)を対象としており、2件は小児(同10歳〈9~11〉)、1件は健康な高齢者(平均年齢66歳)、3件は2型糖尿病の成人(加重平均年齢53歳〈49~60〉)、8件は活動的な成人(38歳〈21~54〉)、1件は非活動的な成人を対象としていた。介入に用いた運動の種類については、持久系トレーニングが8件、筋力トレーニングが11件であり、3件は双方による介入を行っていた。
メタ解析の対象とした7件の研究の参加者は合計191人(男性98%、女性2%)で、体育学生が74%、加重平均年齢は25歳(19~33歳)。
22件の研究のうち13件では、参加者のクロノタイプ(朝型か夜型か)が評価されており、朝型が9%、中程度の朝型が12%、中間型6が9%、夕方型が7%などと報告されていた。
トレーニングを行う時間帯は無関係ではないがエビデンスが弱い
以下、メタ解析の結果について述べられている部分を中心に紹介する。
評価を「朝」行った場合の筋力・ジャンプパフォーマンスの違い
介入効果を評価するためのパフォーマンステストを「朝」行い、トレーニングを朝に行ったか夜に行ったかによる「筋力」の違いは5件の研究で検討されており、それらのすべてで有意差がなかった。メタ解析の結果は、標準化平均差(standardized mean difference;SMD)=-0.14(95%CI;-0.60~0.32)で、異質性(inconsistency index;I2)=31.7%だった。
一方、介入効果を評価するためのパフォーマンステストを「朝」行い、トレーニングを朝に行ったか夜に行ったかによる「ジャンプパフォーマンス」の違いは4件の研究で検討されており、そのうち1件は「朝」トレーニングを行う介入で有意にジャンプの高さが高いと報告していた。メタ解析の結果は、SMD=-0.11(95%CI;-2.18~-0.03)。ただしI2=79.4%であり、異質性が高かった。
評価を「夜」行った場合の筋力・ジャンプパフォーマンスの違い
介入効果を評価するためのパフォーマンステストを「夜」行い、トレーニングを朝に行ったか夜に行ったかによる「筋力」の違いは5件の研究で検討されており、それらのすべてで有意差がなかった。メタ解析の結果は、SMD=0.34(95%CI;-0.03~0.71)であり、I2=0.0%と異質性が認められなかった。
同様に、介入効果を評価するためのパフォーマンステストを「夜」行い、トレーニングを朝に行ったか夜に行ったかによる「ジャンプパフォーマンス」の違いは4件の研究で検討されており、それらのすべてで有意差がなかった。メタ解析の結果は、SMD=0.33(95%CI;-0.12~0.77)であり、I2=0.0%と異質性が認められなかった。
トレーニングとテストの時間帯の一致/不一致によるパフォーマンスの違い
介入期間中にトレーニングを行った時間帯と、介入効果を評価するためのパフォーマンステストを行った時間帯が一致している場合と一致しない場合とで、「筋力」を比較した研究は6件あり、それらのすべてで有意差がなかった。メタ解析の結果は、SMD=0.22(95%CI;-0.15~0.59)であり、I2=0.0%と異質性が認められなかった。
一方、介入期間中にトレーニングを行った時間帯と、介入効果を評価するためのパフォーマンステストを行った時間帯が一致している場合と一致しない場合とで、「ジャンプパフォーマンス」を比較した研究は4件あり、そのうち1件は時間帯が一致していた場合に有意にジャンプの高さが高いと報告していた。メタ解析の結果は、SMD=0.71(95%CI;-0.00~1.42)で、信頼区間に0は含まれていない。ただし、I2=57.0%であり、比較的高い異質性が認められた。
以上のまとめとして著者らは、「特定の時間帯のトレーニングが、ほかの時間帯と比較してパフォーマンスや健康関連の評価によりメリットがあることを支持する、または否定するエビデンスはほとんどない。ただし、トレーニングとパフォーマンステストを同じ時間帯に行うと、メリットを得られることを示すいくつかの報告がある。現時点では、運動介入に際して頻度、強度、種類のほかに、運動を行う時間帯を推奨するほどの根拠はない。とはいえ、運動する時間帯が無関係ではないことは明確に示されており、今後のさらなる研究が求められる」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Best Time of Day for Strength and Endurance Training to Improve Health and Performance? A Systematic Review with Meta-analysis」。〔Sports Med Open. 2023 May 19;9(1):34〕
原文はこちら(Springer Nature)