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ビーガン・アスリートのパフォーマンスを上げるための栄養学的な配慮

今回は、「ビーガンアスリートのための栄養学的配慮(Nutritional Considerations for the Vegan Athlete)」というタイトルのレビュー論文の要旨を紹介する。米国栄養学会の「Advances in Nutrition」に掲載された、英国の研究者らによるもの。

ビーガン・アスリートのパフォーマンスを上げるための栄養学的な配慮

摂取エネルギー量

現在のエビデンスは、ビーガンのアスリートもその食事スタイルを継続可能であることを示している。ただし、ビーガン食が、アスリートのパフォーマンスやトレーニング後の回復に有利であるというエビデンスもない。また、ビーガンアスリートが注意すべき明確な点として、重要な栄養素、とくにタンパク質やいくつかの微量栄養素(鉄、カルシウム、ビタミンB12、ビタミンDなど)の量の不足、および質の低下の可能性があることだ。このレビューの目的は、ビーガン食のそのような影響を明らかにし、影響があるのであれば、それに対するエビデンスに基づく実用的な栄養上の推奨事項を検討することにある。

まず、ビーガンと雑食者の摂取エネルギー量や摂取栄養素などを比較した20件の研究(解析対象者数の合計は同順に7,315人、16万5,594人)のデータを統合すると、摂取エネギー量は2,101 vs 1,991kcal/日、タンパク質は89.4 vs 63.24g/日、炭水化物は260.1 vs 269.9g/日、脂質は82.0 vs 66.4g/日であり、BMIは24.1 vs 22.0となる。これは一般人口のデータであるため、アスリート集団にもこのような差が存在する可能性があると推測する必要があるだろう。

エネルギー要件はスポーツ栄養学の実践において、最も重視される基盤と言える。筋力アスリートの摂取エネルギー量の43%は動物性食品であることが報告されている。ビーガンではこれを植物性食品によって得なければ、エネルギー要件を満たすことができない。

植物ベースの食品は一般に食物繊維含有量が高く、満腹感が生じやすい。この点は体重を意図的に減らそうとする場合に役立つ可能性があるが、アスリートの高いエネルギー要件の達成を困難にする可能性もある。また、食物繊維が豊富な食品は、運動中および運動後の消化管のストレスを増強する可能性がある。

食事から動物由来の食品を除いた場合のアスリートの摂取エネルギー量への影響を包括的に検討した報告は少ないが、最近の系統的レビューは、一般集団において、最大日差が602kcalに上るものの、研究全体を平均すると、わずか5%少ない程度だという。よって、ビーガンアスリートもエネルギー要件を満たすことが可能と考えられるが、とくにエネルギー需要が高い状況では、対策を考慮すべきだろう。

主要栄養素

タンパク質

摂取エネルギー量はビーガンにとって大きな懸念材料ではないかもしれないが、タンパク質摂取量には雑食者と顕著な差がみられる。

摂取量

英国や米国の一般集団での摂取タンパク質の推奨量または摂取量は0.75~0.8g/kgだが、アスリートが筋力を維持するには、1.2~1.6g/kgまたはそれ以上が必要なことがある。ただし、これらの数値は研究対象の大半が雑食者であるため、ビーガンアスリートにもこれと同量のタンパク質が必要か、あるいは、それ以上の摂取が必要かという点が検討されなければならない。

一般に、植物ベースのタンパク質源となる食材は通常、動物ベースのものに比べて、はるかにタンパク質の割合が低い。つまり、同量のタンパク質を得るために、より多い量を摂取しなければならない。このような戦略は、一般的なスポーツ栄養戦略からは最適とは言えない。しかし、ビーガンやベジタリアンでも、タンパク質の要件を達成可能であるとする研究報告も複数みられる。

品質

「タンパク質の品質」の定義は単純ではないが、例えば運動後の筋タンパク質合成(MPS)刺激作用が一つの評価尺度になる。牛乳、卵、肉由来のタンパク質はすべて、MPSを強力に刺激する。対照的に、非動物由来タンパク質のMPS刺激に関するin vivoのデータは限定的だ。

植物ベースのタンパク質源をブレンドすることが、必須アミノ酸欠乏を回避する一つ方法として提案されている。例えば、玄米(穀物など)はリジンが少ないがメチオニンが多いのに対し、エンドウ豆はメチオニンが少なくリジンが多く、これらを組み合わせると完全な必須アミノ酸プロファイルが得られる。

炭水化物

ビーガンのタンパク質摂取量が少ないことによる摂取エネルギー量の低下は、もっぱら炭水化物摂取量の増加によって補われている。よって、ビーガンの炭水化物摂取量の不足リスクはあまり考えられない。しかし、植物源に存在しない特定の種類の炭水化物、具体的には乳製品に多く含まれるラクトースとガラクトースが、ビーガンアスリートの食事に不足している可能性を指摘する研究もある。

脂質

脂質は、その過剰摂取に伴う健康への悪影響のため、否定的に認識されることが多い。しかし、脂質は体内で多くの重要な役割を果たしており、とくにアスリートの高いエネルギー要件を満たすためにも重要である。

大多数の研究は、ビーガンは雑食者と比較して、脂質摂取量が少ないと結論づけている。実際、ビーガン食による健康上のメリットの多くは、飽和脂肪摂取量の抑制に起因すると考えられている。脂質は炭水化物とは異なり、通常の条件下では脂肪組織に無限のエネルギー貯蔵があると考えられ、その点はビーガンも同じであって、体脂肪が少ないことがパフォーマンスの低下をもたらす可能性は低い。

上記に続いて論文では、ビーガンアスリートのエルゴジェニックエイドの必要性や微量栄養素不足の可能性を考察。例えばエルゴジェニックエイドのうちクレアチンについては、ビーガンアスリートはその摂取が有益な可能性があるとしている。クレアチンは動物性食品、主に肉(筋肉組織)、または肉ほどではないが乳製品からのみ摂取可能。ビーガンで観察されるクレアチン濃度の低下が、パフォーマンスの低下につながるかという点は現時点では不明だが、クレアチンの補給により効果が得られることが実証されているため、ビーガンがこの点でメリットを得られると考えられるという。

また、アスリートは微量栄養素不足のリスクが高く、とくにビーガン食の実践によってそのリスクが上昇するリスクがあるため、モニタリングが重要になるとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional Considerations for the Vegan Athlete」。〔Adv Nutr. 2023 Apr 29;S2161-8313(23)00297-1〕
原文はこちら(Elsevier)

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