高校球児の慢性腰痛には、運動恐怖症や腰椎分離症が関与 福井県の高校でのパイロット研究
野球を頑張っている高校生が長引く腰痛を訴えた場合、運動恐怖症や腰椎に疾患がないか確認したほうが良いかもしれない。城西国際大学福祉総合学部理学療法学科の中尾英俊氏らが、福井県の高校球児を対象に行ったパイロット研究から明らかになった知見であり、「PLOS ONE」に論文が掲載された。同氏らは、慢性腰痛のある高校野球選手の運動プログラム作成時には、運動恐怖症と腰椎分離症などの整形外科的疾患の存在を考慮する必要があると述べている。
腰痛を抱えている高校球児は少なくない
腰痛は高齢者に多い症状ではあるが、若年者が発症しないわけではなく、アスリートの発症も少なくない。とくに野球では、打撃や投球動作の際に、腰椎に大きな回転力が加わるため、そのリスクを高める可能性がある。海外からは12~15.5歳の野球選手の腰痛有病率は8.3~15%との報告があり、国内からも大学野球選手の最大48%が腰痛を訴えているとの報告がある。
高校球児の腰痛が一時的なものであれば、選手としての活躍や将来の可能性への影響は限定的かもしれない。しかし、症状が3カ月以上に及ぶ「慢性腰痛」となると、トレーニングや試合出場の機会が奪われたり、場合によっては野球をあきらめなければならないケースも生じかねない。そのような事態を避けるためには、高校球児の慢性腰痛に関連する因子を明らかにして対策を講じる必要がある。しかしこれまでのところ、そのような視点での研究報告は見られない。中尾氏らの研究は、このような背景のもとで行われた。
球児の慢性疼痛の5割は1年後にも痛みが持続
研究対象は、福井県内の高校に在学中の生徒のうち、慢性腰痛を有しているものの練習には参加可能な野球部員。腰痛手術や神経系疾患の既往のある生徒は除外した。1年生の時に行ったベースライン調査で慢性腰痛があり、かつ1年後の2年生の時に行った追跡調査にも参加した59人を解析対象とした。
主な調査項目について
腰痛の症状、および症状に関連する可能性のある因子を把握するため、以下のアンケート調査を行った。
痛みの強さと、痛みに対する消極的思考
0点(痛みなし)~10点(想像できる最悪の痛み)のスコア(numerical rating scale;NRS)により、主観的な痛みの程度を評価した。また、Pain Catastrophizing Scale(PCS)というスケールによって、痛みに対する消極的感情の程度を評価した。PCSスコアは0~52の範囲で評価され、スコアが高いほど痛みを消極的に捉えていると判定される。
運動に対する恐怖感
Tampa Scale for Kinesiophobia(TSK)というスケールによって、運動を行うことに関する恐怖感の強さを評価した。TSKは17の質問で構成されているが、本研究では11問の簡易版を用いた。
中枢性感作関連症状
Central Sensitization Inventory(CSI)というスケールによって、痛みに対する過敏さを評価した。CSIスコアは、痛みの広がりや強さ、障害の程度、QOLの低下などと関連のあることが知られている。
その他
これらのほかに、BMI、骨格筋量指数(skeletal muscle mass index;SMI)、腰椎椎間板ヘルニアや腰椎分離症の既往の有無、野球プレー中の動き(打撃、投球、捕球、ランニング)およびバーベルスクワットと痛みとの関連などを評価した。慢性疼痛の消失・改善・持続していた3群で、身長や体重、体組成に有意差なし
解析対象59人の平均年齢は15.8±0.3歳、野球経験は9.5±1.4年であり、練習頻度は週6日で1日あたり平均4~5時間だった。
1年次のベースライン調査時にみられた慢性腰痛が、2年次の追跡調査では消失していた選手が30人(50.8%)であり、痛みが改善していた選手が17人(28.8%)で、他の12人(20.3%)は改善することなく慢性腰痛が続いていた。
この3群の身長や体重、BMI、骨格筋量指数(SMI)は、ベースライン時および追跡調査時ともに、有意な群間差はなかった。
慢性腰痛群では整形外科的疾患の既往者が多い
ベースライン時点における腰椎分離症の既往者率は、追跡調査で痛みが消失していた群は13.3%、痛みが改善していた群は5.9%と低値であるのに対して、慢性腰痛が続いていた群ではその半数(50.0%)に上った(p=0.002)。また、腰椎椎間板ヘルニアの既往者率は、痛みが消失していた群と痛みが改善していた群では0%であり、慢性腰痛が続いていた群では8.3%だった。
痛みの発生と野球プレー中の動きとバーベルスクワットとの関連の検討からは、3群間で痛みに関連する動作が異なることが明らかになった。全体的に、追跡調査時点で慢性腰痛が続いていた群では、打撃、投球、捕球、ランニングに伴い痛みが発生する割合が高かった。
慢性腰痛が続いている群では、運動に対する恐怖感が増大
次に、追跡調査時点で慢性腰痛が続いていた群における、各評価指標の変化を検討。その結果、ベースラインから追跡調査にかけて、痛みに対する消極的な感情(PCS)、および痛みに対する過敏さ(CSI)のスコアは、有意に低下していた。
その一方で、TSKスケールで評価した運動を行うことに関する恐怖感が、11.7±4.7点から21.1±6.3点へと、有意に上昇していた。その他、痛みの程度(NRS)などの評価指標の変化は有意でなかった。
著者らは、本研究がパイロット研究であり、サンプル数が少ないこと、運動負荷量を評価していないことなどの限界点があるとしたうえで、「高校球児の慢性腰痛に関連のある因子として、腰椎分離症や運動恐怖症が特定された。慢性腰痛のある高校野球選手のトレーニングでは、これらの点に留意する必要がある」と結論づけている。
文献情報
原題のタイトルは、「Factors affecting chronic low back pain among high school baseball players in Japan: A pilot study」。〔PLoS One. 2023 Jan 26;18(1):e0280453〕
原文はこちら(PLOS)