国内6~15歳のスポーツ選手の膝の痛みの実態 競技別ではバスケやハンドボールで有病率が高値
国内でスポーツを行っている小児から思春期の子どもたちの膝の痛みの有病率が明らかになった。東北大学スポーツ医科学コアセンターの萩原嘉廣氏らが宮城県内で行った調査の結果であり、「BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation」に論文が掲載された。競技別に比較した場合に有病率が最も高いのはバスケットボールで、交絡因子を調整するとハンドボールで最も高いオッズ比が示されたという。
子どもの頃に生じる膝の痛みは、アスリート人生に影響するかもしれない
一般人口では膝の痛みは高齢者に多いが、比較的若年者が多いアスリートにおいても高い有病率が報告されている。例えば、競技によって5~26%という報告がある。
アスリートの膝の痛みの原因として、トレーニング等による膝関節の酷使が挙げられる。症状は一過性であることが多いものの、再発率が高く一部は慢性化し、長期にわたってアスリートとしての活躍に影響を及ぼすこともある。より若年の時期に膝の痛みが発生した場合、その後の長い競技人生への影響がより大きくなる可能性が考えられるが、スポーツを行っている子どもたちの膝の痛みの有病率は、これまでほとんど調査されていない。これを背景として萩原氏らは、小児期のアスリートの膝の痛みの有病率と関連因子に関する横断研究を行った。
宮城県の7千人以上の子どもたちが調査に回答
この研究は、宮城県体育協会(現在は宮城県スポーツ協会)に加盟している団体の所属選手のうち、6~15歳の2万5,469人を対象として、2014年10月に郵送によるアンケート調査として実施された。アンケートの質問項目は年齢や体重、身長、行っている競技、トレーニング量などのほかに、「体のどこかに痛みはあるか?」という質問が含まれていて、「ある」と回答した場合はその箇所をヒトのイラスト上にマル印で示してもらった。必要に応じて保護者が回答を手伝って良いこととした。
7,333人(28.8%)が回答し、データ欠落のあるものを除外して、最終的に7,234人の回答を解析対象とした。平均年齢は10.8±1.9歳で、男児70.3%。
行っている競技としては14種類挙げられた。最も多いのは野球で1,748人、次いでフットボールが1,477人、ミニバスケットボール797人、バレーボール681人、バスケットボール680人、剣道525人、柔道242人、空手236人、陸上競技137人などが続いた。
子どもアスリートの膝の痛みの有病率は1割強
膝の痛みの有病率は、10.9%だった。性別にみると男子が9.8%、女子は13.3%で後者に多く、年齢別にみると13歳の19.1%が最多であり、6歳は0%だった。9歳以上では、女子の有病率が男子よりも1~8パーセントポイントの範囲で高いという差がみられた。
競技別の有病率
膝の痛みの有病率を競技別にみると、バスケットボールが25.1%で最も高かった。次いでハンドボールが19.5%であり、ミニバスケットボール16.4%、バドミントン13.0%が続いた。これを性別にみた場合、男児ではバスケットボール、ハンドボール、ミニバスケットボール、バレーボールの順であり、女児も3位までは同じくバスケットボール、ハンドボール、ミニバスケットボールの順だったが、4位に水泳が挙げられた。
反対に有病率が低い競技は、空手(3.8%)、水泳(4.9%)、野球(6.3%)、剣道(6.9%)などだった。水泳は女児でのみ上記のように比較的高い有病率が観察され、男児は0%だった。
交絡因子調整後のオッズ比
年齢、性別、BMI、トレーニング日数・時間を調整後、フットボールを基準として膝の痛みを有する選手の割合を比較すると、ハンドボールで最も高いオッズ比が認められた(OR2.42〈95%CI1.01~5.81〉)。ハンドボール以外では、ミニバスケットボール(OR1.85〈1.38~2.47〉)とバスケットボール(1.66〈1.23~2.26〉)で有意なオッズ比上昇がみられ、反対に、空手(OR0.38〈0.16~0.89〉)、野球(OR0.47〈0.35~0.64〉)、剣道(OR0.62〈0.40~0.96〉)は、有意なオッズ比低下がみられた。水泳はオッズ比が最も低いながら有意でなかった(OR0.34〈0.05~2.54〉)。
そのほかの競技(バドミントン、バレーボール、陸上競技、柔道、卓球、ソフトテニス)は、フットボールと有意差がなかった。
以上より著者らは、「スポーツを行っている子どもの膝の痛みの有病率は、年齢、性別、競技によって異なる。とくに、ハンドボール、バスケットボール、ミニバスケットボールとの関連が強い」と結論づけるとともに、膝の痛みに対する早期介入が将来の機能制限やQOL低下の抑止につながる可能性があることから、「保護者や臨床医がこの知見を認識することで、若年アスリートの膝の痛みの予防や早期診断に結び付けられるのではないか」と述べている。
なお、本研究の限界点としては、アンケート回答率が高いとは言えないこと、膝の痛みの強さや持続期間を把握していないこと、スポーツを行っていない比較対照群を設けていないこと、スポーツとは関連のない膝の痛みも含まれている可能性が挙げられるとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Knee pain in young sports players aged 6–15 years: a cross-sectional study in Japan」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2023 Feb 7;15(1):16〕
原文はこちら(Springer Nature)