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運動関連消化器症状Ex-GISのアスリートであっても炭水化物の重要性を理解している

運動、とくに持久系の運動を開始後に発生する消化器症状は、パフォーマンスを大きく低下させる。そのため、消化器症状を惹起しやすい炭水化物の摂取を控えるという戦略がとられることがある。そのような行動をとるアスリートは、エネルギー基質としての炭水化物の重要性を、きちんと理解しているのだろうか? このような疑問について調査した結果が報告された。

運動関連消化器症状Ex-GISのアスリートであっても炭水化物の重要性を理解している

消化器症状を抑えるためにはどうするかという悩ましい問題

持久系アスリートの中には、運動開始後に、腹部膨満、逆流、排便衝動などの「運動関連消化器症状(exercise-associated gastrointestinal symptoms;Ex-GIS)」が生じてしまう選手が少なくない。その症状を抑えるために、穀物やパンなどの炭水化物が豊富な食品の摂取を控えるという戦略がとられることがある。

炭水化物は持久系スポーツのパフォーマンスの維持にとって重要なエネルギー基質であり、スポーツ栄養関連のガイドラインなどではその摂取が推奨されている。炭水化物の摂取を控えることは、パフォーマンスを犠牲にすることにもつながりかねない。

これを背景として本論文の著者らは、運動関連消化器症状(Ex-GIS)を経験している持久系アスリートの炭水化物に関する知識、考え方、実際の行動を、Ex-GISを経験していない持久系アスリートと比較するという研究を行った。研究仮説は、Ex-GISを経験している持久系アスリートは炭水化物の摂取に関して、ガイドラインの推奨とは異なる考え方をもち、摂取を控えるなどの行動をとっていることが多い、というものだった。

なお、論文中の研究背景に「興味深いこと」として述べられている情報として、Ex-GISを経験するアスリートは運動中に炭水化物を摂取することで、門脈血流の増加が生じて内臓、腸上皮への血流も増え、消化管のダメージが抑制され、消化器症状が緩和されるというメリットが生じる可能性もあるという。ただし、個人の許容レベルを超えた場合は、運動強度・時間にかかわらず、Ex-GISが悪化し、またこの反応を生かすにはトレーニングが必要とのことだ。

約200人の持久系アスリートにアンケート調査

この調査の対象は、18歳以上で競技時間が60分以上のイベントに参加している持久系アスリート201人。57%が長距離選手、21%がトライアスリート、21%はランナー以外の持久系アスリート。競技レベルは、レクリエーションレベルが37%、競技会参加レベルが32%、国内・国際大会などへの参加レベルが31%。

炭水化物に関する知識は、15の食品・飲料を、炭水化物か否かに分ける質問により判定した。また、パフォーマンスのために炭水化物を摂取することの重要性への同意の程度を、1点(全く同意しない)~5点(強く同意する)という5段階のリッカートスコアで回答してもらった。このほか、運動中の炭水化物摂取に対する同意の程度なども質問した。

運動関連消化器症状を経験しているアスリートも知識は十分

201人のうち137人(68.2%)が、運動関連消化器症状(Ex-GIS)を経験すると回答した。Ex-GISの有無で二分し比較すると、平均年齢や性別の分布に有意差はなかった。平均年齢は、Ex-GISあり群が42±11歳、Ex-GISなし群は40±11歳(p=0.3)。

Ex-GIS経験の有無にかかわらず、アスリートの大半は、炭水化物食品と非炭水化物食品をほぼ正しく分類した(88~95%の正答率)。この結果は、性別、行っている競技、競技レベルによる有意差がなかった。

持久系パフォーマンスのために炭水化物を摂取することの重要性に対して、大半のアスリートは、「強く同意(リッカートスコアの5)」または「同意(同4)」を選択した。この結果に、Ex-GIS経験の有無は有意な影響を及ぼしていなかった。

Ex-GISのあるアスリートも、炭水化物摂取を積極的に行っている

続いて、Ex-GIS経験の有無にかかわらず、実際に採用している栄養戦略を問うと、アスリート全体の75%が、運動に関する特定の栄養戦略を実施していると報告した。自由回答のトップは炭水化物の摂取を増やす(58%)であり、続いて食物繊維の摂取を減らす、タンパク質、水分、電解質を増やすだった。Ex-GIS経験の有無で比較しても、この結果は異ならなかった。

実際の炭水化物摂取量の把握を含めた検討が必要

著者らはこの結果について、「われわれの研究仮説とは対照的に、Ex-GIS経験を有する持久系アスリートの大多数は、炭水化物を摂取すると運動パフォーマンスが向上することに同意し、かつ、実際にその目的のために、炭水化物を運動にあわせて多く摂取していた」とまとめている。

一方、本研究の限界点として、実際の炭水化物摂取量を把握していない点を挙げ、「パフォーマンスのために炭水化物の摂取量を増やすと回答したアスリートの炭水化物摂取量が、スポーツ栄養のガイドラインの推奨を満たすものであるか否かは不明。既報研究では、持久系アスリートの炭水化物摂取量はガイドライン推奨値を下回っていることが報告されており、本研究の対象もその可能性がある」と述べ、さらなる検討の必要性を指摘している。

文献情報

原題のタイトルは、「Carbohydrate knowledge, beliefs, and intended practices, of endurance athletes who report exercise-associated gastrointestinal symptoms」。〔Front Nutr. 2023 Apr 12;10:1133022〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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