持久系アスリートは、運動関連消化器症状をどのようにコントロールしているのか
持久系スポーツでは、スタートしてからしばらくすると、腹痛や吐き気などを生じてしまうことがある。トレーニング中に同じようなことが起きることもある。運動関連消化器症状(exercise-associated gastrointestinal symptoms;Ex-GIS)と呼ばれるものだが、これに対して各アスリートは、どのような対策を立てているのだろうか? オンラインアンケートでその点を調査した結果が報告されている。
運動関連消化器症状(Ex-GIS)に悩まされているアスリートの実像を探る
運動関連消化器症状(Ex-GIS)が起きてしまうと、当然のようにパフォーマンスが低下する。ときにはレースを中断したり、場合によっては棄権ということにもなる。これまでに行われてきたEx-GISの発生率に関する調査からは、その結果が4~96%と極めて広い範囲に分布していて、調査対象に依存し異なる結果となることが示されている。またEx-GISのリスク因子としては、食物不耐症、女性の月経周期、水分摂取不足、高温、夜間、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などが挙げられている。
一方、Ex-GISリスクを低下させる戦略は、主として栄養戦略と非栄養戦略に大別され、前者に該当するものとしては、低FODMAP食のほか、適量の炭水化物またはタンパク質、および水分摂取などが候補に挙がっている。後者に該当するものとしては、薬剤の服用のほかに、リラクゼーションや瞑想などの有効性を示唆する研究もある。
ただし、実際にどのような戦略が有効なのかは十分明らかになっているわけでなく、また多くの持久系アスリートがどのような対策を立てているのかという点の報告も少ない。今回紹介する論文の著者は、運動関連消化器症状(Ex-GIS)を経験している持久系アスリートのEx-GIS予防戦略とその有効性をオンラインアンケートで調査した。また、Ex-GISに関する情報が少ないという現状を鑑み、アスリートがEx-GIS関連情報をどのように入手しているのかも調査した。
アンケートの対象と方法
この調査は、スポーツ領域の学術的ネットワークを通じて、世界各国の運動関連消化器症状(Ex-GIS)を経験したことのある18歳以上の持久系アスリートに対して回答協力を呼び掛けた。競技レベルは問わなかった。回答は匿名で受け付けた。
アンケートの内容は、性別、年齢、競技レベル、運動関連消化器症状(Ex-GIS)の発症頻度、重症度、情報源、消化器疾患の有無、採用している対策などだった。Ex-GISの重症度は、0~10点のアナログビジュアルスケール(VAS)で判定してもらい、0点は症状なし、1~4点は軽度(症状はあるが運動負荷を下げるほどではない)、5~9点は中等度(症状のために運動負荷を下げる必要がある)、10点は極めて重度(運動の中止)と判定した。採用している対策については、栄養戦略、非栄養戦略ともにオープンアンサーで答えてもらった。
アスリートのさまざまなEx-GIS対策の実態が明らかに
有効回答は137件だった。年齢41.6±11.1歳、女性63%であり、平均年齢に性別による差はなかった。行っている競技は、ランニングが55%、トライアスロンが22%で、23%はランニング以外のスポーツだった。
運動関連消化器症状(Ex-GIS)の発生率は、トレーニングにおいてのみ経験するとの回答が21%、競技会においてのみ経験するとの回答が30%、トレーニングと競技会の両方で経験するとの回答が49%だった。性別や競技レベル、行っている競技による有意な差はみられなかった。
最も深刻なEx-GISは排便衝動
Ex-GISの発生率および重症度は正規分布をとらなかったが、発症のタイミングは、トレーニングや競技の前後よりも、トレーニングや競技の最中のほうが有意に高かった。
Ex-GISの症状としては、げっぷ、胸焼け、膨満感、下痢、軟便、排便の衝動、左腹の痛み、胃の痛み、嘔気、嘔吐、めまいなどが挙げられた。それらの症状は軽度のものが多く、VASの中央値は5点未満だった。唯一、排便の衝動のみは重度の症状と判定された。
アスリートの3分の2が何らかの対策を立てている
Ex-GISに対して67%のアスリートが、栄養戦略または非栄養戦略を用いていると回答した。オープンアンサーで記入してもらった回答は、合計277種類に上り、アスリート1人あたり平均3.0±1.6の手法を用いていた。
何らかの対策を行っているアスリートのうち、77%は栄養戦略のみを採用していた。ただし多くのアスリートは、複数の食事療法を組み合わせて行っていた。非栄養療法を採用していたのは5%であり、17%は双方を採用していた。
Ex-GIS対策の情報源として最も重視されていたのは栄養士
栄養戦略で最も一般的な手法は高FODMAP食品の除外を含む、特定の食品の回避であり、食物繊維や乳製品、二糖類を回避するとの回答が多かった。採用後にEx-GISのVASが有意に低下していたのは、食物繊維の回避と脂質の回避、および水分の摂取だった。
非栄養戦略としては、薬剤の使用、リラクゼーション/瞑想が多かった。
Ex-GIS対策を行うに際して入手した情報源は、栄養士がトップであり24%が栄養士を挙げた。次いで自分自身の経験がやや少ない割合で挙げられていた。
文献情報
原題のタイトルは、「An exploratory study of the management strategies reported by endurance athletes with exercise-associated gastrointestinal symptoms」。〔Front Nutr. 2022 Nov 9;9:1003445〕
原文はこちら(Frontiers Media)