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経済的環境に恵まれている人ほどスポーツ実施率が高く、とくに個人競技でその傾向が強い

スポーツへの参加と社会経済的状況との関連を調査した結果が、スイスから報告された。全体的に、経済的に恵まれた環境にある人ほどスポーツを行っている割合が高く、競技別にみた場合、テニス、ダイビング、ゴルフなどの個人で参加できる競技でその傾向が強い一方、フットボールなどの団体競技では有意な関連が認められないものが多いという。また、経年的にみた場合には、女性および高年齢層において、スポーツ参加の不平等が拡大する傾向がみられたとのことだ。

経済的環境に恵まれている人ほどスポーツ実施率が高く、とくに個人競技でその傾向が強い

スポーツへの参加を阻む経済的困難の実態を探る

スポーツへの参加は健康的なライフスタイルの重要な要素であることは論を俟たない。すべての人にスポーツへの参加が推奨されるが、参加の意思のある人のすべてが実施できるわけでもない。その理由の一つとして、社会経済的な状況による制約が挙げられ、実際にその関連を示した研究結果も複数報告されている。ただ、年齢や性別などを考慮したデータや経年的変化を示したデータはみられず、どのような人に社会経済的状況の影響が強く現れているのか、そのような状況が改善しているのか悪化しているのかは明らかでない。

これに対して今回紹介する論文の研究では、スペインのジュネーブの一般市民を対象に毎年実施されている横断研究(Bus Santé研究)を用いて、個人の属性を考慮しながら、社会経済的状況とスポーツへの参加の関連を経年的に検討している点が特徴。

ジュネーブ市民を対象とした連続横断研究

Bus Santé研究は、1993年に始まった年1回の横断調査。対象はジュネーブ市内の施設居住者を除く一般市民であり、毎年約千人。年齢と性別を人口構成にマッチさせたうえで無作為にサンプルを抽出し、調査への回答協力を依頼。回答のない人には電話で7回、郵便で2回督促している。全体として、毎年同市の人口構成とほぼ一致した有効回答を得ているという。

この論文の研究では、Bus Santé研究の2002~2019年の結果を用いて、連続横断研究を行い、経年的な変化も把握した。研究目的に即して、身体的にスポーツを行える状況ではないと判断される人、具体的には「過去4週間で、入浴やトイレ、着替え、買い物、家事などに困難があったか」という質問に「はい」と回答した人は、解析対象から除外されている。

社会経済的不平等の評価指標について

社会経済的地位は、教育歴、世帯収入、勤務先での職位によって判定した。また、スポーツへの参加に関する社会経済的不平等の評価には、相対的な評価指標(relative index of inequality;RII)と絶対的な評価指標(slope index of inequality;SII)を用いた。

相対的な評価指標(RII)が「1.1」であるとき、社会経済的に恵まれている群は恵まれていない群に比べて、アウトカムの有病率(本研究においてはスポーツ参加率)が10%高いことを意味する。絶対的な評価指標(SII)が「0.1」であるとき、社会経済的に恵まれている群は恵まれていない群に比べて、アウトカムの有病率(本研究においてはスポーツ参加率)が10パーセントポイント高いことを意味する。

一部のサブグループでは、社会経済的状況による不平等が拡大している

最終的な解析対象者数は7,769人(46±14.2歳、女性50.8%)だった。そのうち4,660人(60.0%)が、調査に回答した前の週に少なくとも1回、スポーツ活動に参加したと回答した。

解析の結果、相対的な評価指標(RII)および絶対的な評価指標(SII)は、社会経済的状況に恵まれているほど、スポーツの競技に関係なく、参加率が高いことが示された(p<0.05)。年齢、性別および出身国の影響を統計学的に調整後、スポーツ参加率には1.78倍の差があることが明らかになった(RII=1.78〈95%CI;1.64~1.92〉、SII=0.33〈同0.29~0.37〉)。

調整因子として、年齢、性別、出身国のほかに健康関連指標(BMI、喫煙習慣、慢性疾患〈高血圧、糖尿病、心血管疾患〉、主観的健康観)を加えた解析では、不平等性は縮小したが引き続き有意だった(RII=1.56〈1.45~1.69〉、SII=0.26〈0.21~0.30〉)。社会経済的状況の指標として、世帯収入または勤務先での職位を使用した場合も、結果は同様だった。

団体競技では不平等性が低く、個人競技で高い

競技別にみた場合、団体競技(RII=1.79〈1.53~2.09〉)よりも、個人競技で不平等性が強く(ラケット競技〈テニス、バトミントン、スカッシュ〉ではRII=3.69〈2.41~5.64〉)、また、実施に際して長距離の移動を要する競技(本論文では「特別な競技」と呼んでいる)も不平等性が強かった(ゴルフ、スキー、ダイビングなどでRII=4.47〈3.20~6.25〉)。

性別で層別化した場合、女性よりも男性で、ラケット競技と特別な競技で不平等性がより強かった。また、教育歴が長いほど、スポーツ参加率が高いことも示された。

一方、団体競技のうち、フットボールは非有意ながら、社会経済的に恵まれていない群で参加率が高い傾向にあった(RII=0.68〈0.44~1.07〉)。

女性と高年齢層で不平等が拡大

次に、経年的な変化をみると、まず、所得格差は有意に拡大し(β=0.01、p=0.024)、とくに女性(β=0.02、p=0.012)、および55~75歳(β=0.02、p=0.003)でその傾向が強く認められた。

続いて、所得格差がスポーツ参加に及ぼす影響を解析した結果、やはり女性(RIIのβ値が1.03、SIIのβ値が0.02)と高齢者(同順に1.04、0.02)は、経年的に影響が増大していることが明らかになった。

社会的弱者のスポーツ参加を促進する施策が求められる

著者らは、「本研究から、スポーツの種類によって不平等の強さは異なるものの、社会経済的に有利な状況にある人ほどスポーツへの参加率が一貫して高いことが示された。団体競技では相対的に不平等性が低く、ラケットスポーツや特別な競技では強い不平等性が認められた。これらの結果は、社会的に恵まれない人々のスポーツ参加を促進するために、何らかの対策が必要であることを意味している」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Socioeconomic inequalities in sport participation: pattern per sport and time trends – a repeated cross-sectional study」。〔BMC Public Health. 2023 Apr 28;23(1):785〕
原文はこちら(Springer Nature)

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