幼児の睡眠時間と体力に逆U字型の関連 中国で2万人以上の横断研究
3~6歳の幼児を対象とする調査から、睡眠時間と体力との関連は逆U字型であることが報告された。夜間の睡眠時間と昼寝の時間の合計が10時間未満の群と13時間以上の群で、有意に体力が低いという。
幼児期の睡眠時間が体力を決定づける?
幼児期は、その子どもが成人した以降にも続く行動や習慣が身につく重要な時期であり、また基礎体力を高めるためにも幼児期の行動や習慣が重要と考えられる。実際に子どもの体力はライフスタイルと高い相関があることが報告されている。
子どもの体力に影響を及ぼす可能性のあるライフスタイル関連因子の一つとして、睡眠が想定されているが近年、世界的に子どもの睡眠時間が減少しており、公衆衛生上の懸念となっている。これを背景として本論文の著者らは、2万人以上の幼児の睡眠時間と体力との関連を横断的に検討した。
2万人以上の横断調査
この研究には、中国体育総局が行っている全国規模の体力調査のデータが用いられた。2018~19年に広東省において、都市部と農村部からの割合が実態に一致するように層別化したうえで、3~6歳の幼児2万6,105人を無作為にサンプリング。調査項目の回答内容が85%未満のものと、体力測定の結果が極端なもの(±3SDの範囲を超過する幼児)、および疾患を有する幼児を除外した2万1,857人を解析対象とした。
体力は、体格(body morphology)と運動能力(motor ability)を評価。
体格の指標は体重と身長であり、運動能力の評価項目は、立ち幅跳び、テニスボール投げ、長座体前屈、10mシャトルラン、平均台歩行、ダブルレッグホップ。これらの項目の評価は、2003年に同国の体力モニタリング当局(China Physical Fitness Surveillance Center)が公表した基準に基づき4段階に分けて判定され、統計解析に際しては、最低ランクを「失格」、それ以外の三つのカテゴリーを「合格」と定義した。
睡眠時間は保護者へのアンケートにより夜間睡眠時間を把握、幼稚園のスタッフへのアンケートにより昼間の睡眠(昼寝)の時間を把握して合計した。同国の国家衛生計画生育委員会(National Health and Family Planning Commission of the People's Republic of China)のガイドラインでは、幼児の睡眠時間を10~13時間としていることから、10時間未満を短時間睡眠、13時間超を長時間睡眠と定義した。
短時間睡眠と長時間睡眠の双方の子どもが低体力
解析対象2万1,857人の幼児は、年齢が4.45±1.04歳、男児51.45%であり、51.4%が都市部に居住していた。
体力テストの結果は平均26.14±4.33点であり、93.6%は4段階の分類の上位三つのカテゴリーに含まれていた(合格と判定された)。性別にみた場合、合格と判定された割合は、女児が95.0%、男児は92.3%だった。
都市部の子どもは短時間睡眠が多い
睡眠時間は平均10.33±1.12時間であり、同国のガイドラインの10~13時間の範囲を逸脱していた割合は19.7%で、18.4%が短時間睡眠、1.3%が長時間睡眠だった。
性別および、体格で判断した栄養状態は、睡眠時間による三つの状態の分布に有意な関連がなかった。
一方、農村部の幼児は都市部の幼児よりも睡眠時間が適切な範囲にあることが多く、両者間で分布に有意差があり(p<0.01)、都市部の子どもは短時間睡眠が多かった。また、年長であるほど睡眠時間は短くなり、カテゴリーの分布に年齢による有意差が観察された(p<0.01)。
体力テストが「失格」となるオッズ比は1.1未満ながらも有意
体力テストの結果を従属変数として、解析結果に影響を及ぼし得る、年齢、性別、居住地、栄養状態を調整し、睡眠時間との関連を検討。すると、睡眠時間が短い場合と長い場合に体力テストの合格率が有意に低下するという、逆U字型の関連のあることが明らかになった(p<0.0001)。短時間睡眠の幼児は体力テスト失格のオッズ比が1.077(95%CI;1.023~1.133)であり、長時間睡眠の幼児は同1.035(1.008~1.062)だった。
次に、睡眠時間が推奨範囲を逸脱している幼児(短時間睡眠と長時間睡眠の双方)が、体力テスト失格に該当するリスクを、前記と同様の因子で調整して検討すると、やはり有意なリスク上昇が観察された(OR1.077〈95%CI;1.023~1.333〉)。
体格(body morphology)と運動能力(motor ability)に分けて検討した場合も同様に、睡眠時間が推奨範囲を逸脱している幼児は、それらが4段階評価の最低カテゴリーに該当する割合が有意に高かった(体格はOR1.077〈1.046~1.142〉、運動能力はOR1.035〈1.008~1.062〉)。
さらに、運動能力の評価項目である、立ち幅跳び、テニスボール投げ、長座体前屈、10mシャトルラン、平均台歩行などを個々に睡眠時間との関連を検討した場合も、ほとんどの項目について、推奨範囲を逸脱している幼児は4段階評価の最低カテゴリーに該当する割合が有意に高いことがわかった。
子どもの睡眠時間を適切にすることで、体力に影響を及ぼし得るのではないか
著者らは本研究が横断研究のため因果関係は不明であること、睡眠時間は客観的に把握されたものではなく保護者と幼稚園スタッフが観察したものであること、睡眠障害の有無や睡眠の質が評価されていないことなどを限界点として挙げている。
そのうえで、「3~6歳の幼児の睡眠時間は体力テストの総合スコアおよびその構成要素の双方と強い相関関係があることが示された。子どもの睡眠時間を改善することで、体力を高められるのではないか」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association between Sleep Duration and Physical Fitness in Children Aged 3-6 Years: A Cross-Sectional Study from China」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Jun 4;19(11):6902〕
原文はこちら(MDPI)