アスリートは何を基準に食べる物を決めているか? スコーピングレビュー
自分以外のアスリートが、何を基準に食べる物を決めているのか、気になったことがないだろうか? そのような疑問の答となるかもしれない論文が昨年発表されているので紹介する。オーストラリアの研究者によるスコーピングレビューの報告だ。
一般集団と異なり、アスリートの食事選択決定因子はわかっていない
人々がどのように食べるものを決めているのかということについて、一般集団では比較的よく研究が行われている。これまでの研究から、細かく分けると400以上の因子が食品の選択に関連していると報告されており、ポリシーや食事の状況など、四つのカテゴリーに大別可能だという。
一方、アスリート集団ではこのような研究がまだ少なく、知見は限られている。とはいえ、少ないながらも、国際大会の選手村でのアスリートの食事選択決定要因の調査結果などの報告がある。
関連情報
国際大会に参加中のアスリートは何を基準に食べる物を選んでいるのか?
今回紹介する論文の著者らは、それらの既報論文を検索したうえで、全体的な傾向などを考察する、スコーピングレビューを行った。なお、スコーピングレビューとは、メタ解析などの詳細な検討をするほど十分な研究報告がない、比較的新しいトピックについて、全体像を把握するために行うレビューのこと。
スコーピングレビューの手法について
スコーピングレビューのガイドライン(PRISMA-ScR)に基づき、PubMed、Web of Science、SPORTDiscusなど11件の文献データベースを用いて、2020年9~11月に検索。2021年3月に新たな論文の有無を確認した。
包括条件は、アスリートの食品選択の決定要因について報告している論文であり、研究対象が16歳以上であること。スポーツの種類、国、性別、競技レベルは問わずに収集した。各データベースでの検索と重複削除後に、タイトルとアブストラクトに基づき、2名の研究者が独立してスクリーニングと全文精査を行い、採否の意見の不一致は2名の討議または3人目の研究者を加えた討議により解決した。抽出された論文の参考文献も、スクリーニング対象とした。
全文精査対象論文数は108報で、最終的に15報をレビュー対象論文として抽出した。
アスリートの食事決定要因は大別すると8項目
15件の研究のうち、7件は定性的研究、8件は定量的研究であり、後者は主として横断研究であって、縦断研究や介入研究はなかった。報告年は大半が2018年以降であって、比較的最近の研究が多かった。
調査されていた競技は、5件は複数の競技であり、単一の競技としては、持久系(トライアスロン、自転車、長距離など)、団体競技(サッカー、アイスホッケー、ラグビー、アメリカンフットボールなど)、体操、武道など。3件は競技会参加中、2件は競技会前に評価され、その他は評価の時期が特定されていなかった。
定性的研究のレビュー
アスリートの食事決定要因について、定性的研究からは、「健康」と「競技成績」が決定に影響を及ぼす重要な因子であることが示唆された。ただし、その決定には、アスリートの経験、時間の制約、コスト(食費)が左右することも明らかになった。より経験が豊富なアスリートは、食品選択において他者からの影響を受けることが少なく、パフォーマンスにより集中していると報告されていた。
定量的研究のレビュー
定量的研究では、食品選択の決定要因が優先順位の高いものから低いものへとリスト化されランク付けされているものもあった。複数の研究で報告されていた決定要因としては、「健康」、「パフォーマンス」、「栄養素/成分」、「いつも食べているもの(familiarity/usual eating)」、「感覚的なこと(sensory factors)」、「利便性」、および「体重コントロール」などがあった。
アスリートの属性との関連を解析していた研究からは、性別、行っている競技、年齢、文化/国籍などによって、食品選択の際に重視する因子の優先順位が異なることが示されていた。
8項目に大別される決定要因
アスリートの食事決定要因は8項目に大別されるとする、複数の報告が認められた。
本論文ではその8種類の大項目と、それぞれに含まれる小項目を表形式で示している。その一部を以下に抜粋して紹介する。
- 生理的要因
- 感覚(味など)、疾患・健康状態、食物アレルギー、腸の快適さ
- 文化的背景、信念と好み
- 親しみやすさ、動物福祉、政治的価値観、環境/持続可能性
- 社会人口統計学的要因
- 年齢、性別、国籍、行っている競技
- 心理的要因
- 緊張感、ボディーイメージ、罪悪感、ムード、楽しみ
- 健康と栄養の知識
- 信頼感、天然成分、栄養素、食品の品質
- 競技会関連
- 季節・時期、経験、体重コントロール、試合開始時間
- 食事の状況の影響
- 食事の時間、ルーティーン、料金、快適さ、ソーシャルメディア、マーケティング、天候、旅行、安全性
- 他者の影響
- チームメイト/仲間、家族
論文の結論には、「本スコーピングレビューの結果は、アスリートの食品選択の多面的な決定要因について、より多くの研究が必要であることを示唆している。将来の研究では、食品の選択、栄養に関する知識、食事の質の関係、または季節や怪我や病気による食品の選択基準の変化を調査すべきできだろう。また、性別固有の問題、とくに女性アスリートに関する定性的研究が必要とされる」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Determinants of Food Choice in Athletes: A Systematic Scoping Review」。〔Sports Med Open. 2022 Jun 11;8(1):77〕
原文はこちら(Springer Nature)