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ギネス新記録、アラブ首長国連邦620kmを7日間で走破したアスリートの生理学的評価

UAE、アラブ首長国連邦をマラソンや徒歩でできるだけ早く横断するというギネス記録があるらしい。その記録の更新に挑戦したアスリートの記録をまとめた論文が、昨年報告されている。事前の栄養計画を遵守しなかったことに起因すると考えられる、腹痛や下痢などの消化器症状に悩まされながらも、記録更新を達成したという。一部を紹介する。

ベジタリアン・ビーガンの長距離ランナーのBMIとパフォーマンスを解析してわかったこと

ドバイやアブダビなどを巡る7日間

このアスリートは2021年3月、ギネス記録を破るということだけに動機付けられ、何の金銭的インセンティブもなく、このチャレンジを敢行した。その時点のギネス記録は、2017年に同国の男性アスリートが達成したもので、UAEとサウジアラビアの国境からスタートして、アブダビ、ドバイなどの都市と海岸線を巡り、約620kmを14日間で走破していた。これに対して今回の論文で取り上げられているランナーは、7日以内という目標を立てた。

このランナーは実行に先立ち、8時間の走行と4時間の休憩というシフトを組み、ランニングとウォーキングを交互に行うことを計画した。休憩時間は支援車両で休息し睡眠も社内でとることとした。食事はサポートチームが提供した。ランナー自身は、水分、エナジージェル、スマートウォッチ、携帯電話以外の余分なものは身に付けずに走行することができた。

34歳、英国人男性の挑戦

この挑戦者は、34歳の英国人男性で、ふだんはフルタイムの労働者。BMIは26.79。アマチュアアスリートではあるが複数のスポーツに参加してきており、この記録への挑戦に至るまでの数年間で、キリマンジャロ登頂や、6.5kmの海洋水泳、マラソンなどの競技会に参加していた。また今回の計画のため、2019年9月からコーチの下でトレーニングを始めていた。

この男性のチャレンジの10日前とチャレンジ2日後に、研究者が半構造化インタビューを実施。チャレンジ前には身体的、精神的、栄養的な課題を質問し、チャレンジ後には予想外の経験などを質問した。

なお、チャレンジ期間中は、スマートウォッチにより、心拍数、走行距離、速度、標高、消費エネルギー量、および環境温度を知ることができた。また、それらが記録され後の解析に利用された。

チャレンジは成功したが、事前の走行計画や栄養戦略の重要性が示される

結果としてこの挑戦者は、UAE横断619.01kmを、6日と21時間47分で完走することができ、事前の7日以内という目標をクリアするとともにギネス新記録を樹立した。活動時間は104時間27分38秒、平均速度は10.11km/時だった。

事前の計画に従い、7日間を15のシフトに分け、一つのシフト時間は平均7時間50分だった。1シフトで約41kmをカバーし、その間に平均3,112kcalを摂取した。消費エネルギー量は、1kmあたり約75kcalだった。

体重はチャレンジ前が88.75kg、チャレンジ終了4日後は88.10kgで有意な変化はなかった。ただし、体組成は脂肪量が45.3%減少し(16.66→9.12kg)、除脂肪体重は9.6%増加していた(72.09→78.98kg)。

計画からの逸脱で下肢痛や消化器症状

計画された時間内、つまり7日以内に全距離を確実に完了するために、このアスリートはチャレンジ全体を通して厳格な歩行ペースに従うことを計画していた。各シフト中の走行距離・速度は、標高差、環境温度、疲労の蓄積などによって変化することが予測され、それらの影響も見込んだ。

ところが、チャレンジ開始後の三つのシフトでは、この計画よりも早いペースで走行。それが原因と考えられる下肢痛と疲労感が発生。さらに、栄養計画から逸脱した食事摂取が原因と考えられる胃腸の痛みと下痢も発生した。この点について研究者らは文献的考察に基づき、事前に計画された水分補給と栄養戦略を遵守することが重要であり、それによって腸管をトレーニングし、持久力に必要とされる高グルコース摂取に耐えられるようになると付記している。

なお、論文中には過去の同様のギネス記録がいくつか紹介されている。そのうちの一つは、2017年に樹立された41歳の男性アスリートの記録で、ノルディックウォーキングにより400mランニングトラック上の274kmを70時間で走破したという、「最長マラソンノルディックウォーキング」のデータがあるとのことだ。その男性の場合、4.8±1.1km/時という速度を一貫して維持し、エネルギー代謝、酸化ストレス、および心理状態を上手にコントロールしたという。

チャレンジ後の数日で十分な回復

ところで、超持久系スポーツでは、消費エネルギー量に見合う食事を摂取できずに体重減少を含む体組成の変化を来すことが珍しくない。しかし今回報告された男性の場合、チャレンジ中の頻回の体重計測はなされていないが、チャレンジ達成から4日後の体重減少幅はベースライン比で-0.7%と限定的だった。これは、この男性が数日間の回復期間中にグリコーゲン貯蔵を補充し、水分補給バランスを取り戻すことができたことを示唆している。

一方、体脂肪量は-45.3%と顕著に減少し、除脂肪体重は9.6%増加した。除脂肪体重の増加は下肢で顕著であり、研究者によるとこれは骨格筋の水分保持が影響した結果と考えられるという。

本研究では、上記以外にも鉄代謝への影響や男性ホルモン(テストステロン)を含む生化学的検査値、炎症マーカー、心理的ストレスなどの変化について、多くの考察を加えている。そのうえで、「このケーススタディーは、パフォーマンスを最大化し怪我のリスクを最小限に抑えるために、事前に計画された水分補給と栄養戦略を遵守することが重要であることを、同様の超持久力イベントを試みるアマチュアアスリートに伝えるものになった」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Guinness World Record: Personal Experience and Physiological Responses of a Non-Professional Athlete Successfully Covering 620 Km in 7-Days by Foot Across the United Arab Emirates」。〔J Sports Sci Med. 2022 Jun 1;21(2):267-276〕
原文はこちら(JSSM)

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