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オリンピック自国開催は思ったほどメダルを増やさない? 過去7回大会の検証結果

2023年04月24日

一般的には、オリンピック・パラリンピックの自国開催はアスリートにとって有利であり、メダル獲得数の増加を期待できるとされている。実際、東京2020でも、オリンピックはメダル数58個で史上最多、パラリンピックも51個で史上2位の好成績をあげた。しかし、このような効果は、社会経済的因子などを調整すると、ほとんど有意性が消失するとする研究論文が発表された。

オリンピック自国開催は思ったほどメダルを増やさない? 過去7回大会の検証結果

開催国アドバンテージの実態は?

オリンピック・パラリンピックの開催国(地)となることは、メダル獲得数や経済上のメリットがあるとされてきた。ただし、後者の経済上のメリットについては、本論文によると、「政治家の影響を受けた経済学者によって正当化されているが、明確なメリットはみられない」という。では、前者についてはどうだろうか?

自国開催によりアスリートは、慣れ親しんだ環境で試合に参加でき、移動の負担が少なく、圧倒的多数のサポーターの声援の中でプレーすることができる。また、記録ではなく審判の判定で勝負が決まる競技では、オリンピック・パラリンピックであってもレフリーバイアスが発生することが報告されている。

本論文の著者らは、自国開催によるメダル獲得数が統計的に有意なものなのかを、1996年から連続7回の夏季オリンピックのメダル総獲得数、性別の獲得数に基づき検討した。解析に際しては、国民1人あたりGDPと人口を調整するモデルと、調整を加えないモデルとで検討した。また、自国開催前のメダル獲得数と自国開催後の影響についても検討を行った。なお、1996年以降を解析対象とした理由は、それ以前は東西冷戦によるボイコットなどの影響があるためだという。

過去連続7回の夏季五輪の実績

まず、1996年以降の夏季五輪の開催地と開催国のメダル獲得数を確認しておく。1996年はアトランタ(米国)で総メダル数は101、2000年はシドニー(オーストラリア)で58、2004年はアテネ(ギリシャ)16、2008年は北京(中国)100、2012年はロンドン(英国)65、2016年はリオデジャネイロ(ブラジル)19、2020年(実際は2021年)は東京(日本)58。

表 1996年以降の夏季五輪開催国のメダル獲得数

開催年開催地開催国開催国の
メダル獲得数
1996アトランタ米国101
2000シドニーオーストラリア58
2004アテネギリシャ16
2008北京中国100
2012ロンドン英国65
2016リオデジャネイロブラジル19
2020
(2021)
東京日本58

これら7回の夏季五輪のメダル獲得数の変動を国別にみた場合、米国と英国以外(オーストラリア、ギリシャ、中国、ブラジル、日本)は、自国開催した年の獲得数が7回中トップだった。この結果だけをみれば、自国開催はやはり有利という見方ができる。

東京2020の好成績も調整モデルでは統計的に非有意

続いて、開催年とその前の3年を含む計4年間の国民1人あたりGDP、および人口を調整して検討した。国民1人あたりGDPを開催年のみでなく4年間としたのは、一時的な要因による変動の影響を抑制するため。

その結果、自国開催によるメダル獲得数の増加が統計学的に有意だったのは、2000年のオーストラリアと12年の英国のみとなった。ギリシャに関しては、1人あたりGDPと人口を調整しないモデルでも、有意性がみられなかった。

調整モデルの結果を性別にみた場合、12年の英国は男子・女子ともに有意なプラス効果が確認された。00年のオーストラリアは女子のみ、16年のブラジルは男子のみで有意なプラス効果が認められた。

日本に着目すると、未調整モデルでは総獲得数と男子の獲得数で、東京2020における有意なプラス効果がみられたが、調整モデルでは非有意となり、女子については未調整モデルでも非有意だった。

開催前/開催後の変化

オリンピック開催地は、少なくとも開催の7年前までに決定する。開催国となった場合は、政府によるアスリート育成支援のための予算の重点配分、国民のスポーツ熱の向上などを介して、自国開催の前からアスリートにプラス効果が現れ始める可能性も考えられる。同様に開催後にも熱気が継続して、しばらくはアスリートのパフォーマンスの高い状態が維持されるかもしれない。本論文では、オリンピック開催前後のメダル数の変化からも、自国開催のインパクトを検討している。

それによると、開催前については、未調整モデルでメダル総獲得数に有意な変化のあった国はなかった。性別にみると、08年の中国の女子、12年の英国の男子で有意にプラスとなり、04年のギリシャの男子は有意にマイナスとなっていた。

未調整モデルでは、04年のギリシャは総獲得数がマイナスとなっていた。性別では、08年の中国の女子、12年の英国の男子で有意にプラスとなり、04年のギリシャの男子は有意にマイナスとなっていた。

日本は、総獲得数、男女別獲得数ともに、未調整モデル、調整モデルの双方で、有意な変化を認めなかった。

一方、自国開催後については、自国開催前より若干、有意なプラス効果が示され、4カ国でメダル獲得数の多い状態が維持されていた。

著者らは、本研究の限界点として、1996年より前の夏季五輪のデータを解析していないこと、および、解析対象となった7カ国はレフリーにより勝敗が決定される競技よりも記録によって勝負がつく競技に強い国が多いため(例えば米国やオーストラリアは水泳が強く、英国や中国、米国は陸上競技が強い)、レフリーバイアスが発生しにくく結果が非有意になりやすい可能性のあることなどを挙げている。

結論としては、「現在のオリンピックは、かつてほどには自国開催のメリットが生じにくいのではないか。オリンピックを誘致しようとしている国が、その目的がメダル獲得数の増大だとしたら、慎重になるべきかもしれない」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「The less obvious effect of hosting the Olympics on sporting performance」。〔Sci Rep. 2023 Feb 2;13(1):819〕
原文はこちら(Springer Nature)

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