サッカー選手のシーズン中の銅レベルを調査 血漿、赤血球、血小板、尿中の経時的変化と性差
スペインのサッカー選手を対象として、シーズン中の銅レベルの変化を性別に比較検討した結果が報告された。著者によると、銅には鉄代謝や酸化ストレス軽減といった作用があり、不足によってパフォーマンスに影響が生じる可能性もあるが、アスリートの銅レベルの動態はよくわかっておらず、とくにサッカー選手での経時的変化や性差の検討はほとんどなされていなかったという。
同一対象の血液、尿検体の銅濃度を11カ月で3回測定
銅は必須微量ミネラルの一つで、人体には約1.6mg/kgの銅が存在し、骨に40%、筋肉に23%、血液に6%分布していると報告されている。銅はエネルギー代謝のさまざまな段階に関与しているほかに、鉄代謝に必要とされ、また活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)の産生から保護的に働く。
必須微量ミネラルの代謝上の要求が高い状況では、その不足によってスポーツパフォーマンスに影響が生ずるとの報告があり、銅に関してもトレーニングに伴い体内濃度が変化することが報告されている。例えば、血液中の銅レベルはトレーニングによって上昇し、その一方で尿中に排泄される銅は休息日に増加するというデータがある。また、銅レベルには性差が存在する可能性も指摘されている。ただし、ミネラルレベルの性差の検討は主として一般人口を対象とする研究から報告されており、アスリートでのデータは少ない。そして冒頭に記したように、サッカー選手の銅レベルを経時的かつ性差に着目して検討したデータはないという。
このような状況を背景として、今回紹介する論文の著者らは、
(1)サッカー選手のスポーツシーズン中の細胞内(赤血球および血小板)および細胞外(血漿および尿)の銅濃度の変動を追跡すること、
(2)その性差を検討することを目的として、以下の研究を行った。
スペインのサッカー選手を11カ月にわたり観察
研究対象は、スペイン国内のサッカー選手46人(男子22人、女子24人)。適格条件は、5年以上のサッカー経験がある非喫煙者で、疾患に罹患しておらず薬剤やサプリメントを服用していないこと、約11カ月間の観察期間中に栄養素摂取習慣やトレーニング習慣を変更していないこと、女性は月経異常がなく避妊薬を使用していないことなど。競技レベルは、男子はスペインの第5カテゴリーのセミプロレベル、女子は第2カテゴリーでスペインのナショナルチームに所属。
銅レベルの評価は約11カ月の間に3回行われた。1回目はトレーニング開始の8月、2回目はシーズン中盤にあたる1月、3回目は5~6月のトレーニング最終週。概日リズムの影響を抑えるため、すべて同じ時間帯に検体を採取した。また女子に関しては、できるだけ同じ月経周期に検体を採取した。
年齢は、男子が20.62±2.66歳、女子は23.1±14.11歳、経験年数は同順に14.7±33.13年、14.51±4.94年。VO2maxは1回目の評価時点で、52.2±12.9mL/kg/分、139.72±6.22mL/kg/分。なお、評価時点ごとに実施した3日間の食事調査から把握した銅の摂取量は、男子が1267.3~1331.3μg/日、女子は1341.6~1415.8μg/日であり、経時的な有意な変化はなく、性差も非有意だった。
血漿中の銅レベルはシーズン終了時に有意に上昇
銅レベルは、以下のように変動していた。
細胞外の銅濃度の変動
血漿中の銅レベルは、シーズン前からシーズン中にかけては有意な変化がなく、シーズン終了時に有意に上昇していた。性差はなかった。
一方、尿中の銅レベルは、シーズン前からシーズン中にかけては非有意レベルの上昇傾向がみられ、シーズン終了時には、シーズン前およびシーズン中より有意に低値となっていた。また、女子は男子よりも有意に低値で推移していた。
細胞内の銅濃度の変動
赤血球中の銅濃度は、絶対数でみた場合、シーズン前からシーズン中にかけて有意に上昇し、シーズン終了時点には低下していた。性差はなかった。一方、細胞数で除した相対数でみると、経時的な変化は非有意となり、女子のほうが有意に高値で推移していた。
血小板の銅濃度は、絶対数でみた場合、シーズン前からシーズン中にかけては有意な変化がなく、シーズン終了時点に低下していた。性差はなかった。一方、細胞数で除した相対数でみると、経時的な変化は非有意となり、女子のほうが有意に低値で推移していた。
銅の摂取を栄養戦略に反映させるべきか?
著者らは本研究の特徴として、細胞内と細胞外など異なる複数の状態での銅レベルを同時に測定し、その変動を追跡したことにあるとしている。例えば赤血球は半減期が約120日であるのに対して、血小板は約10日であるため、赤血球中の銅濃度は過去の代謝への影響をみていると考えられる。アスリートの銅レベルをこのような手法で検討した研究はほとんどないとのことだ。また、本研究におけるサッカー選手の銅の摂取量は、男性、女性ともに、食事摂取基準(dietary reference intake;DRI〈同国では1,100μg/日〉)を上回っていたことが明らかになった点も成果の一つとしている。
シーズン終了時点で認められた血漿銅レベルの上昇の理由については、銅摂取量の増加や、活性酸素種(ROS)の産生を抑制するための生体の適応反応としてスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase;SOD)が形成された可能性を考察している。SOD産生には銅が必要とされる。
結論には、「アスリートの銅濃度の変動の評価は、銅の摂取を栄養素摂取戦略に反映させる必要性の有無を判断するために欠かせない」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Sex Differences in Copper Concentrations during a Sports Season in Soccer Players」。〔Nutrients. 2023 Jan 18;15(3):495〕
原文はこちら(MDPI)