カロリー制限による減量、筋肉量とパフォーマンスへの影響が少ない食事の摂り方とは?
カロリー制限による減量は筋肉量やパフォーマンスの低下につながるリスクがあるが、そのようなマイナスの影響を抑制するための食事の摂り方のヒントになりそうな研究結果が報告された。30%の摂取制限をしたうえで、タンパク質を増やす群、ケトン体エステルを摂取する群、およびプラセボ群という3群で4週間介入した無作為化比較試験の結果を紹介する。
筋肉やパフォーマンスを下げずに体重を軽くする方法
多くのスポーツで体重が成績を決める重要な要素の一つとなる。体重別階級のある競技や審美系競技はもちろん、持久系スポーツもグリコーゲンの維持が可能なら軽いほうがパフォーマンス上、有利と考えられる。減量の手段としては、消費エネルギー量を増やすか摂取エネルギー量を減らすか、またはそれら両者を並行して行うかという選択肢があるが、アスリートの場合、消費エネルギー量を増やす余地が少ないため、一般に摂取エネルギー量を減らすことになる。
ただし、摂取エネルギー量を減らす場合、体脂肪だけを減らすことは困難で、約3対1の割合で除脂肪体重も減ると報告されている。減量時に減る除脂肪体重の大半は筋肉であり、一部は骨量が占めている。また、筋量低下は当然ながら多くのスポーツでパフォーマンス低下につながり、かつ怪我のリスクを高める。
このような、摂取エネルギー量を制限する減量に伴うマイナス面を抑制する対策として、タンパク質摂取量を増やすことの有用性が報告されている。また、外因性にケトン体レベルを高めることが、筋タンパクの異化作用を抑制するとの報告もみられる。ただし、ある程度、体脂肪のある人ではなく、既にやせに近い状態にある人でも、そのような効果を期待できるのかはわかっていない。
これを背景として、今回紹介する論文の著者らは、やせ型の女性レクリエーションアスリートを対象とする検討を行った。研究仮説は、ケトン体摂取による外因性ケトーシスはタンパク質の摂取と同様に、急速な減量中の筋肉量とパフォーマンスを維持するように働くというもの。
無作為化二重盲検プラセボ対照試験で検討
33人の若年女性レクリエーションアスリートが参加。適格条件は、年齢が18~35歳で、体脂肪率が16~25%、週に6時間以上のトレーニングを行っており、研究参加前の少なくとも3カ月間は体重が安定している非喫煙者。1人が介入と関係のない理由で脱落したため、解析対象は32人。主な特徴は、年齢22.2±0.5歳、体重58.3±0.8kg、身長1.67±0.01m、BMI20.8±0.2、体脂肪率21.4±0.6%であり、これらの指標に後述する3群間で有意差はなかった。
栄養についての研究プロトコル
試験デザインは無作為化二重盲検プラセボ対照試験。まず、7日間にわたって身体活動と食事摂取状況を記録するフェーズから始まった。身体活動量は加速度計とトレーニング日誌の記録から把握した。
次に、それらの情報を参照して算出した各参加者に最適な摂取エネルギー量に基づき、炭水化物50%、脂質35%、タンパク質15%の標準化された食事を1週間継続。続いて無作為に以下の3群に分け、4週間の介入が行われた。介入期間中は、摂取エネルギー量は、各群に割り当てられる付加分(タンパク質またはケトン体エステルまたはプラセボからの291kcal)を含めて、最適な摂取エネルギー量の70%に制限された。
3群の介入方法
- タンパク質追加群(PROT群)
- タンパク質:2.0~2.2g/kg/日 + プラセボ(中鎖トリグリセライド:12.8g × 3/日)
- ケトン体エステル群(KE群)
- タンパク質:0.8~1.0g/kg/日 + ケトン体エステル群:20g × 3/日)
- プラセボ群
- タンパク質:0.8~1.0g/kg/日 + プラセボ(中鎖トリグリセライド:12.8g × 3/日)
評価項目
4週間の介入終了後の20時に、標準化された軽食(430kcal、炭水化物61%、脂質11%、タンパク質28%)を摂取しその後は絶食として翌日の午前中に、体重や体組成の測定および、握力、カウンタームーブメントジャンプ(countermovement jump;CMJ)、等尺性膝伸展運動の最大トルク、自転車エルゴメーターでの増分VO2maxテストでパフォーマンスを評価した。
また、満腹感や幸福感、消化器症状に関連するストレス状態などをアンケートから把握した。そのほか、血液・尿検体を用いて各種検査を行った。
それらの結果の中から、主要な項目のみピックアップして紹介する。
筋肉量やパフォーマンスに有意差
減量の幅には差がないが、筋肉量はPROT群でのみ維持
介入期間中の食事記録に基づく計算で、タンパク質摂取量は、ケトン体エステル群(KE群)とプラセボ群は0.97±0.01g/kg/日、タンパク質追加群(PROT群)は2.10±0.01g/kg/日だった。
介入により体重は、プラセボ群で3.8±0.3kg、KE群で3.2±0.3kg、PROT群で2.4±0.2kg、それぞれ有意に減少し(p<0.0001)、減少幅の群間差は非有意だった(p=0.990)。また、体脂肪量の減少も平均2.6±0.1kg(p<0.0001)であり、群間差は非有意だった(p=0.995)。
一方、筋肉量は、プラセボ群とKE群では減少したが(平均0.8±0.2kg、p<0.05)、PROT群は有意な変化がなく、交互作用が有意だった(交互作用p<0.01)。
KE群およびPROT群ではパフォーマンスへの影響が抑制される
除脂肪体重で調整した安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure;REE)は、プラセボ群(介入前が32.7±0.5kcal/kg/日、介入後は28.5±0.65kcal/kg/日)と、PROT群(同順に32.9±1.0、28.4±1.0kcal/kg/日)は減少していた。それに対してKE群(31.8±0.9、30.4±0.8kcal/kg/日)では有意な変化がなかった(交互作用p<0.005)。
増分VO2maxテストで疲労困憊に至るまでの時間は、プラセボ群では短縮していたが(2.5±0.7%、p<0.05)、KE群およびPROT群では有意な変化がなかった(交互作用p<0.05)。
また、自覚されたストレスは、プラセボ群とPROT群で有意に増加し、KE群では有意な増加が認められなかった(交互作用p<0.05)。
著者らは本研究の限界点として、水分摂取量が評価されていないこと、やせている女性レクリエーションアスリートを対象にしたものの体脂肪率の平均は21.4%であり、エリート女性アスリート(一般的に15%以下)よりもかなり高いことなどを挙げている。
そのうえで結論を「タンパク質摂取量を増やすことで、女性レクリエーションアスリートの減量中の筋肉量の減少が抑制され、運動パフォーマンスが維持された。また外因性ケトーシスは筋肉量減少に対する影響はみられなかったものの、パフォーマンスと安静時エネルギー消費量(REE)を維持した」と総括。摂取エネルギー量制限による減量に伴うマイナスの影響を、栄養戦略で抑制し得る可能性が示されたとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of increased protein intake and exogenous ketosis on body composition, energy expenditure and exercise capacity during a hypocaloric diet in recreational female athletes」。〔Front Physiol. 2023 Jan 13;13:1063956〕
原文はこちら(Frontiers Media)