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スポーツ栄養という介入戦略をどのように確立していくか 3段階のアプローチの提案

アスリートの健康とパフォーマンスを向上させるための栄養戦略とは、どのように確立していくべきものかを整理した、カナダの研究者らによる論文が、昨年末に発表されている。三つのステップを踏むアプローチの提案だ。

スポーツ栄養という介入戦略をどのように確立していくか 3段階のアプローチの提案

スポーツ栄養戦略のPDCAサイクル

食事・栄養素の摂取がアスリートの健康やパフォーマンスに多大な影響を及ぼし得ることは広く知られている。今日では、パフォーマンス向上につながる可能性のあるさまざまな栄養素や化合物の研究報告がなされるようになった。ただし、そこで使われる用語は、必ずしもコンセンサスが形成されたものばかりではなく、またスポーツ栄養戦略を立案するための一貫性のあるアプローチもいまだ確立されていない。このような状況を背景として本論文の著者らは、スポーツ栄養という“サービス”を提供するための段階的なアプローチを提案している。

そのアプローチは3段階からなり、最初のステップは食行動の決定要因に焦点を当て、二番目のステップでは食行動と食事摂取に対する直接的な介入、そして最後のステップはその介入の効果を健康とパフォーマンスで評価するというもの。改めて言われるまでもなく、現状評価と立案・介入、効果測定、介入手法の修正というPDCAサイクル(plan→do→check→act)は、物事を改善していくための基本戦略ではあるが、これをスポーツ栄養という領域に即して整理した内容となっている。以下に要旨を紹介する。

ステップ1:摂食行動の決定要因

摂食行動は、修正可能な因子と修正不能な因子によって決まる。栄養に関する知識と信念は主要な決定要因であり、それは、食品を選択する際に栄養情報を適用する意識と能力として定義できる。重要なこととして、アスリートは適切な食事を摂取するための知識が十分でないとの指摘がある。ただし、幸いなことに、栄養に関する知識は修正可能な因子である。栄養に関する知識の増加、食習慣の改善、体組成の変化、および身体能力の改善を通じて、アスリートがメリットを獲得できる可能性がある。

とはいえ、知識やスキル、信念だけでは、摂食行動を完全に説明することはできない。その他の修正可能な因子と修正不能な因子が複雑に絡み合って食行動が決定される。例えば、空腹感は知識とは無関係に発生し、食行動の上流に位置すると考えられる。また、社会経済的または文化的な要因によって、食べ物の入手可能性が左右される。

これら、摂食行動の決定要因の評価は困難なことが多いが、栄養士はそのトレーニングを受けている。一般的に、栄養ケアプロセスモデル(Nutrition Care Process and Model;NCPM)が頻用される。NCPMでは、栄養評価、栄養介入、栄養モニタリングといったステップをとるが、これらのうち介入以降の段階は、本稿におけるステップ2以降に該当する。

栄養評価は、人体測定、生化学的検査、臨床所見、食事、環境などを確認することでなされる。また、心理的要因と食事摂取量との関連はしばしば双方向であることも知られている。成長期のアスリートでは、発達へのメンタルヘルス状態の影響の評価も重要となる。実際の評価には、多領域の知見を活用した学際的なサポートが必要になることもある。

栄養カウンセリングとコンサルテーションは、スポーツ栄養領域で広く用いられており、前述の栄養ケアプロセスモデル(NCPM)も標準化された手法の一つとして挙げられる。摂食行動の決定要因に関連して、栄養に関する知識を増やしたり、食品管理のスキルを向上させたり、環境的な障壁の除去にかかわる必要があることも多い。アスリート集団での研究は不足しているが、情報の直接的な伝達に加えて、動機付けのための面接などが行われる。

ステップ2:摂食行動と食事摂取量

摂食行動には、食品の選択、摂取量、摂食頻度、摂食時間などの因子が含まれ、その評価と評価結果に基づく介入が、トレーニングへの適応とパフォーマンス向上へとつながっていく。通常、サポートスタッフはアスリートの摂食行動と食事摂取量の双方を評価しようとする。ただし、摂食行動は一時的なものであり、評価が困難だ。さらに、食事摂取量を評価するには、時間を要する分析を行わなければならない。

おそらく、最も明確な評価方法は、摂食行動の観察だろう。これによって摂食行動を客観的に見ることができ、アスリートのセルフモニタリングによってもたらされた報告のエラーを除外することが可能となる。観察は、状況に応じて、盲検または非盲検で行うことを考慮する。アスリートが観察されていることを認識している非盲検の状況では、期待された食行動をとろうとするバイアスが発生するリスクがある。一方、盲検化した場合は常に観察が可能とは限らず、倫理的ともいえない。近年は、新しいテクノロジーによってこれらの問題の解決に近づいているとされるが、それらの食事評価ツールの精度のアスリート対象研究での検証が必要とされる。

ステップ3:食事摂取の影響

適切な食事摂取がアスリートのパフォーマンスに影響を与えることのエビデンスは、十分に確立されている。

アスリートの発達モデルには、四つの柱が含まれる。技術的スキル、戦術的スキル、生理学的スキル(身体的スキルとも呼ばれる)、そして心理的スキルだ。スポーツ栄養の目標は、適切な食事摂取を通じてこれらのスキルを向上させ、かつ、重要なタイミングで最大化することにある。

生理学的スキルを例にとれば、体組成とエネルギー可用性の向上、グリコーゲンの貯蔵が含まれる。心理的スキルについては、摂食障害のリスク管理なども該当する。ただし目標は競技・種目と個々のアスリートごとに異なる。

アスリート育成のためのフレームワークはすでに存在している。しかし、スポーツ栄養士やメンタルパフォーマンスコンサルタントなどの実践を支援するリソースが不足している。また、怪我やエネルギー欠乏からの復帰など、食事摂取要件の変化が起こる状況には柔軟な対応を要する。そのほかにも、遠征、高度トレーニング、暑熱馴化トレーニングなどにおける食事摂取要件を満たすには、オリジナルの計画が求められるが、やはりリソースが不足している。

文献情報

原題のタイトルは、「A Proposed Conceptual Sport Nutrition Approach for Athlete Development and Assessment: The Athlete Nutrition Development Approach」。〔Sports Med Open. 2022 Dec 8;8(1):142〕
原文はこちら(Springer Nature)

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