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「プロ」として活躍するアスリートの睡眠とパフォーマンスの考察 文献レビュー

プロフェッショナルの領域で活躍しているアスリートに焦点を絞り、睡眠とパフォーマンスの関連を考察したレビュー論文を紹介する。「プロアスリートの睡眠とパフォーマンス(Sleep and Performance in Professional Athletes)」というタイトルで、著者は米国とカナダの2名の研究者。論文の冒頭に掲げられている「レビューの目的」によると、最近の10年間で、試合中のパフォーマンス発揮のための睡眠の重要性は、ほぼすべてのプロスポーツに浸透したという。そこで「直近5年間(2018年以降)に発表された最新のエビデンスに基づいて、プロアスリートの睡眠戦略について考察をまとめる」と、研究目的が述べられている。

「プロ」として活躍するアスリートの睡眠とパフォーマンスの考察 文献レビュー

プロアスリートに特化したて内容とするため、文献検索では、オリンピアンなどのエリートレベルであってもプロでないアスリートや学生アスリートに関する研究は除外。また、プロであっても伝統的なスポーツではない競技のアスリート、顕著な例はeスポーツのアスリートだが、そのような研究論文も除外した結果、38報が抽出されたという。以下に要旨を紹介する。

プロアスリートの睡眠の役割

トレーニングと睡眠

プロアスリートのトレーニングにおける睡眠の役割については、4報が抽出された。総合格闘技選手を対象とした研究では、睡眠の質が高いほどトレーニングセッションを欠席する回数が減ることや、フットボール選手の疾患罹患率が睡眠の質と関連していること、睡眠潜時(就床から入眠に要する時間)の短縮と身体的パフォーマンスが正相関すること、ラグビー選手では短時間睡眠で有酸素能力が低下すること、睡眠時間と睡眠効率(就床時間に占める睡眠時間の割合)が唾液中のテストステロンとコルチゾールのレベルと有意に相関することなどが報告されていた。

怪我の予防と回復

このトピックについては、脳震盪の文脈で広く研究されていた。睡眠不足はスポーツ関連脳震盪の主要な危険因子であるだけでなく、脳震盪の重症度、回復速度、治療アウトカムを悪化させる可能性が示されている。ただし、著者が「やや驚くべきこと」として、レビューの結果、「睡眠と身体的ダメージの予防や回復に関するプロアスリート対象の研究は、わずか3報しか抽出されなかった」と記し、このトピックの研究の不足を指摘している。

「プロアスリートの睡眠の役割」としては上記のほかに、メンタルヘルスとの関係、遠征と時差に伴う睡眠への影響などが考察されている。

プロアスリートの睡眠に悪影響を及ぼす要因

トレーニング

このトピックでは7報が抽出された。プロラグビー選手を対象とする研究では、プレシーズンのトレーニング中は夜間睡眠時間が平均73分減少したという。またこの減少は、トレーニング負荷と肉体的疲労スコアの有意な上昇と関連していたため、その論文の著者は、肉体的疲労の増加が夜間の睡眠時間の減少を促進していると仮定しているとのことだ。同様の指摘は、ほかの論文にもみられるという。

一方で、トレーニングによる睡眠への悪影響を否定する研究もあった。むしろ、キャンプ中に睡眠効率が向上したとする研究もみられた。本論文の著者は、「トレーニングが身体的疲労の増加や早朝覚醒など、プロのアスリートの睡眠に悪影響を及ぼす可能性があることは明らかだが、トレーニングのタイミングや頻度、負荷などによって影響は異なるのではないか」と考察している。

移動・遠征

プロアスリートはノンプロのアスリートに比べて、移動や遠征が多いことが特徴の一つと言える。これは概日リズムの乱れと精神的・身体的機能に影響を与える。

移動がプロのアスリートの睡眠に及ぼす影響を研究した報告は3報のみだった。その一つでは、長距離の空路での移動は、タイムゾーンの変化はわずかであってもサッカー選手の睡眠・覚醒行動を混乱させ、睡眠状態を悪化させることを示していた。ラグビー選手対象の研究からも同様の結果が報告されていた。

「プロアスリートの睡眠に悪影響を及ぼす要因」としては上記のほかに、「競争要因(Competition Factors)」が取り上げられ、テレビ視聴率のために試合時間が深夜などの不自然な時間帯になることが多いなど、プロ選手特有の睡眠に障害となる要因が考察されている。また、食事・栄養の関与にも触れられているので、次項にまとめる。

アスリートの睡眠と栄養

食事のタイミングや摂取栄養素と睡眠との関係は、必ずしもプロのスポーツ選手に固有の問題とは言えないかもしれない。ただし、日常的に不規則なスケジュールに対応しなければならないプロ選手で、より頻度の高い問題である可能性がある。

フットボールのプロアスリートを対象とする研究からは、試合後の食事のタイミングが睡眠の質に影響を与えることを示していた。具体的には、試合時間の延長に伴って食事のタイミングが遅れ、さらに就寝時間が遅れるという関連を示した報告があった。重要なことにその研究では、日々のタンパク質摂取量の増加が睡眠効率の有意な低下と入眠後の中途覚醒の増加に関連していることを示唆している。さらに、中途覚醒の増加は、摂取エネルギー量の増加とも関連していたという。加えて、夜間の摂取エネルギー量の増加は入眠潜時の延長と関連し、夜間の砂糖摂取が睡眠時間や睡眠効率、中途覚醒に悪影響を及ぼすことが報告されていた。

そのほかに、プロアスリートはパフォーマンス向上のために、競技前や競技中にカフェインやその他の覚醒作用のある食品を摂取することが多い。それもまた睡眠に悪影響を及ぼすことが指摘されていた。ある研究では、ラグビー選手が試合前と試合中にカフェインを摂取すると、試合後の唾液中のカフェイン濃度が上昇して就寝時間が遅くなり、入眠潜時が長くなって睡眠時間が減少するという相関が示された。このような関連はほかの研究報告にも見て取ることが可能で、またカフェイン以外にもニコチンやチョコレートの摂取と不眠症の関連が、プロサッカー選手対象研究から報告されている。

以上、論文で検討されている内容の一部を抜粋した。論文では上記に続き、「プロアスリートの睡眠を改善するための介入戦略」というトピックについての考察がなされている。

結論には、「プロアスリートのトレーニング、回復、パフォーマンス、および健康に対して、睡眠が重要な役割を果たしていることは明らか。それにもかかわらず、プロアスリートは、トレーニング、移動・遠征をはじめとするプロ固有の問題により、睡眠の健康状態が非常に脆弱な集団でもある」と記され、今後の研究の充実とカスタマイズされた介入戦略の開発の必要性を強調している。

文献情報

原題のタイトルは、「Sleep and Performance in Professional Athletes」。〔Curr Sleep Med Rep. 2023;9(1):56-81〕
原文はこちら(Springer Nature)

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