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塩味をうま味に置き換えれば、英国では最大18.6%、米国は13.5%、日本は21.1%の減塩を達成可能

「うま味」を活用することで、世界の生活習慣関連疾患を大きく減らすことができるかもしれない――。そんな期待を抱かせる3本の論文を紹介する。いずれも、東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室・東京財団政策研究所の野村周平氏らが行った研究であり、英国人、米国人、そして日本人の食塩摂取量の一部を、うま味を生かした食品に変えることで、塩分摂取量がどの程度減るかを試算した結果だ。

塩味をうま味に置き換えれば、英国では最大18.6%、米国は13.5%、日本は21.1%の減塩を達成可能

「うま味」の研究は日本が世界をリードしてきた分野

うま味は、甘味、塩味、酸味、苦味と並び、「基本五味」の一角を占める。うま味の成分としてこれまでに、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などが特定されているが、それら三つはいずれも日本人研究者が発見した。現在、「うま味」は海外でも「Umami」と呼ばれ、その機能性も含めて多くの研究がなされるようになっている。

塩味をうま味に置き換えることで、味覚を損なうことなく、塩分摂取量を減らせることも報告されている。塩分の過剰摂取が血圧を上げることは、今では一般常識となっており、減塩のためのさまざまな公衆衛生対策が繰り広げられている。それにもかかわらず、多くの国で国民の塩分摂取量は目に見えるほどには減っていない。単に食品中の塩分を減らしたのでは、どうしても味が損なわれてしまうことが、その最も大きな理由とすることに、異論は少ないだろう。

「塩」のために毎年200万人近い人が亡くなっている

塩分過剰摂取がリスクを及ぼす疾患は、高血圧だけにとどまらず、腎疾患、心血管疾患、心不全、胃がんなども該当する。2019年には、世界で約190万人が、塩分過多が原因で死亡したとする試算も発表されており、その数は1990~2019年の間に42.8%増加したという。

もし、人々が口にする食品中の塩分をうま味に置き換えたとしたら、世界各国の公衆衛生上のインパクトはどれほどのものだろうか? 野村氏らは、このような背景のもと、英国、米国、日本の3カ国の公開されているデータを用いて、統計学的な検討を行った。

英国では9.09~18.59%、0.45~0.92g/日の減塩が期待できる

英国成人での試算結果の論文は、「Food Science & Nutrition」に掲載された。ナトリウム(塩分)摂取量は、同国の疫学研究「National Diet and Nutrition Survey」の2016年4月~2019年6月のデータから把握。味を損なわずに塩分をうま味に置き換えた場合に、どの程度の減塩効果をどういった食品群で得られるかという試算には、PubMedを検索し、2022年4月6日までに収載されていた11報の論文を基に組み立てた数式から求めた。

また、現段階で既に英国では、食品の一部が減塩タイプに置き換わっているが、その割合が0%の場合(減塩タイプの食品がまだ全くないという想定〈シナリオ1〉)と、30%の場合〈シナリオ2〉、60%の場合〈シナリオ3〉、90%の場合(既にほとんどの食品が減塩タイプという想定〈シナリオ4〉)という、4通りの試算を行った。この試算に際しては、性別と年齢層(10歳ごと)を考慮した。なお、ナトリウム量(mg)は〔×2.54÷1000〕で食塩量(g)に換算した。

その結果、シナリオ1では、英国成人の平均塩分摂取量が9.09~18.59%、0.45~0.92g/日減少することがわかった。このインパクトは、シナリオ2やシナリオ3では低下し、最もインパクトの少ないシナリオ4では、0.91~1.86%、0.045~0.092g/日の減塩と試算された。なお、推定された減少量については過小評価である可能性が指摘されている。本研究で使用されたデータは食事摂取記録から得られた塩分摂取量であり、尿サンプルから別途推定された塩分摂取量に比べ低く推定さていることが知られているためだ。

文献情報

原題のタイトルは、「Reducing salt intake with umami: A secondary analysis of data in the UK National Diet and Nutrition Survey」。〔Food Sci Nutr. 2022 Nov 12;11(2):872-882〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

米国では7.31~13.53%、0.61~1.13g/日の減塩が期待できる

米国成人での試算結果の論文は、「Public Health Nutrition」に掲載された。塩分摂取量は、同国の国民健康栄養調査である「National Health and Nutrition Examination Survey」の2017/18のデータから把握。その他の研究手順は前記の英国対象の検討と同様に行った。

その結果、シナリオ1では、米国成人の平均塩分摂取量が7.31~13.53%、0.61~1.13g/日減少することがわかった。最もインパクトの少ないシナリオ4では、0.06~0.11g/日の減塩と試算された。また、世界保健機関(World Health Organization;WHO)は塩分摂取量を5g/日とすることを推奨しているが、シナリオ1では米国成人の21.21~26.04%がこれを達成可能であると計算された。

文献情報

原題のタイトルは、「Salt intake reduction using umami substance-incorporated food: a secondary analysis of NHANES 2017–2018 data」。〔Public Health Nutr. 2022 Dec 1;1-8〕
原文はこちら(Cambridge University Press)

日本では12.0~21.1%、1.27~2.22g/日の減塩が期待できる(暫定値)

日本の成人での試算結果の論文は、現時点でプレプリントサーバーの「Research Square」に収載されている。塩分摂取量は、「国民健康・栄養調査」から把握。その他の研究手順は前記とおおよそ同様だが、シナリオについては英国や米国の場合と異なり、食塩が使われている食品の30%をうま味に置き換えた場合〈シナリオ1〉、60%を置き換えた場合〈シナリオ2〉、100%置き換えた場合〈シナリオ3〉という、3通りで試算を行った。

その結果、シナリオ3では、日本人成人の塩分摂取量が平均で12.0~21.1%、1.27~2.22g/日減少することがわかった。最もインパクトの少ないシナリオ1では、0.24~0.43g/日の減塩と試算された。

2023年度終了の「健康日本21」の目標達成度への影響は?

現在、厚生労働省の主導で推進されている「健康日本21(第二次)」では、2023年度までに国民1人あたりの食塩摂取量を8g未満とすることを目標としている。食塩が使われている食品のすべてがうま味に置き換わるというシナリオ3では、国民の43.4~59.7%がその目標を達成できると計算された。

また、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、男性は7.5g未満、女性は6.5g未満という推奨値を示しているが、シナリオ3での達成率は24.8~38.1%と計算された。WHOの5g/日未満という推奨に到達するのは、シナリオ3でもわずか4.4~7.6%だった。

個人の調理時点で食塩をうま味調味料に置き換えることと、食品業界としてナトリウムではなくうま味成分を用いる変化を推し進めるという二つの施策の推進によって、人々が「おいしい食事」を摂る楽しみを損なうことなく、国民の疾患リスクを大きく押し下げることができるかもしれない。

文献情報

原題のタイトルは、「Modelling Salt Intake Reduction with Umami Substance’s Incorporation Into Japanese Foods: A Cross-Sectional Study」。
原文はこちら(Research Square)

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