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欧米の一般的な食事との比較では、ケトジェニック食でも脂質酸化の亢進は起こらない?

ケトジェニック食は、エネルギー基質をグリコーゲンから脂質に切り替え、持久力の向上につながる可能性があるとされている。しかし、もともと摂取エネルギー量に占める脂質の割合が高い欧米型の食事との比較では、食後の脂質酸化の有意な亢進はみられないとする研究結果が報告された。著者らは、ケトジェニック食にすることに伴う炭水化物摂取量の減少により、負の影響が生じる懸念があると述べている。

欧米の一般的な食事との比較では、ケトジェニック食でも脂質酸化の亢進は起こらない?

ケトン産生食のベネフィットとリスク

多くのアスリートが、パフォーマンス向上を期待して、新たな食事戦略を模索している。持久系アスリートの場合は伝統的に、グリコーゲンの枯渇を防ぐための高炭水化物食が推奨されており、現在でも基本的にはその考え方が踏襲されている。ただ、実際の持久系アスリートの炭水化物摂取量は、ガイドライン等の推奨値を満たしていないことがしばしば指摘されているのも事実。

一方、近年では炭水化物の摂取量を制限する「低炭水化物ダイエット」が、体重管理や代謝改善の手法として試みられることがある。また、炭水化物摂取量をさらに減らしてケトン体産生を促進させる「ケトン産生食(ケトジェニックダイエット)」により、エネルギー基質を炭水化物から脂質に変え、体脂肪を使って持久力向上を図るという理論が提唱され、その有用性を探る研究が増えてきた。ケトン産生食では、減量によるスピードの向上と持久力の向上を図ることが可能ともされている。

ただし、ケトン産生を主目的とする場合には、炭水化物摂取量を極端に減らすことに伴って、利用可能なエネルギーが不足した状態(low energy availability;LEA)、相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;RED-S)のリスク上昇と、その結果として健康障害や選手生命の短縮といった懸念が生じる。なにより、ケトン産生食によるパフォーマンス向上は、いまだエビデンスが不足しているという問題がある。

これらを背景として本論文の研究では、西洋での一般的な食事と高炭水化物食、ケトン産生食とで、消費エネルギー量、食後のエネルギー基質、呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)がどのように変わるかが検討された。

自由な摂食での無作為化クロスオーバー試験により検討

この研究は、日常的にトレーニングを行っている6人(年齢37.2±12.2歳〈範囲18~65歳〉、女性4人)のサイクリストまたはトライアスリートを対象とする、無作為化クロスオーバー試験として実施された。参加の適格条件は、過去1年間の週あたりの自転車走行距離が100km以上であり、競技会参加レベルにあって、V̇O2maxが年齢と性別カテゴリーの80パーセンタイル以上であることとされ、全員がクリアしていた。また、高炭水化物食またはケトン産生食による食事療法中、その他の方法で減量中であることが、除外基準として設定されていた。

前述の年齢以外の主な特徴は、BMI22.7±3.4、体脂肪率21.3±4.6%、VO2max46.6±6.7mL/kg/分、安静時代謝量(resting metabolic rate;RMR)1,617.3±314.7kcal/日。

試行条件は、高炭水化物食(high-carbohydrate diet;HCD)、ケトン産生食(ketogenic diet;KD)、およびふだんどおりの食事(habitual diet;HD)であり、試行期間は各々14日間であって、試行順序は無作為化された。各条件の試行間にはウォッシュアウト期間を設けなかった。その理由は、ケトン産生食(KD)開始からケトジェニック状態になるには3~5日程度であり、高炭水化物食(HCD)開始後は直ちにケトン産生が低下するためとされている。

ケトン産生食(KD)条件での炭水化物摂取量は10%未満

各条件の主要栄養素摂取量は、ケトン産生食(KD)条件では摂取エネルギー量の10%未満を炭水化物から、15%をタンパク質から、残りを脂質からと設定。高炭水化物食(HCD)条件では、65%以上を炭水化物から、15%をタンパク質から、20%未満を脂質からと設定した。

この条件設定以外、すべての食事は自由とした。各試行条件の遵守状況は、毎日、摂取するもののデジタル食品を栄養士に送信するという方法で評価された。また、KD条件では血中および尿中ケトン体からも遵守状況を把握した。

KDおよびHCD条件で実際に摂取されていた食事は条件設定によく一致し、また、ふだんどおりの食事(HD)条件では典型的な西洋の食事の組成と一致していた。KD条件での血液・尿検査でのケトン体レベルも、設定条件が遵守されていたことを示していた。

より具体的には、KD条件では炭水化物が8.7±2.9%、脂質が64.1±5.39%であり、HCD条件では同順に63.3±8.8%、脂質20.8±7.6%、HD条件では45.8±6.86%、脂質38.2±7.8%であり、タンパク質はKD条件で26.0±2.9%、HCD条件で14.4±3.2%だった。

ケトン産生食でも脂質酸化は亢進しない

食事の後の代謝応答は、各条件の介入最終日(14日目)に前日から一晩絶食のうえ、食事開始から3時間後まで30分おきに以下の指標が測定され、経時的な変化と変動曲線下面積(area under the curve;AUC)で評価された。

消費エネルギー量は有意差なし

その結果、消費エネルギー量は、ケトン産生食(KD)条件で食後3時間目まで低値で推移し、ふだんどおりの食事(HD)条件では3条件中もっとも高値で推移したが、いずれも有意差のみられたポイントはなかった。
食後3時間目までのAUCも、KD条件では低値ではあるものの、3条件で有意差はなかった。

呼吸交換比(RER)は高炭水化物食(HCD)条件で有意に高値

次に、呼吸交換比(RER)については、高炭水化物食(HCD)条件では高値で推移し、食後のすべてのポイントでKD条件より有意に高値だった。また、HD条件もKD条件より高値で推移していた。ただし、HD条件とKD条件とで有意差が認められたのは食後60分のみだった。
食後3時間目までのAUCは、HCD条件はKD条件より有意に高値だった。HD条件とKD条件とのAUCの差は非有意だった。

脂質酸化はケトン産生食(KD)条件で最も高く、高炭水化物食(HCD)条件とは有意差

続いて脂質酸化率だが、HCD条件では低値で推移し、食後のすべてのポイントでKD条件より有意に低値だった。HD条件はHCD条件より高値で推移し、食後30分と60分で有意差がみられた。ただし、HD条件とKD条件とで有意差のみられたポイントはなかった。
食後3時間目までのAUCは、HCD条件が最も低値であり、KD条件(p=0.013)やHD条件(p=0.035)との比較で有意差があった。HD条件とKD条件の差は非有意だった。

炭水化物酸化率はHCD条件で最も高く、KD条件とは有意差

一方、炭水化物の酸化率は、HCD条件では高値で推移し、食後のすべてのポイントでKD条件より有意に高値だった。HD条件もKD条件より高値で推移し、食後30分以外のすべてのポイントで有意差がみられた。
食後3時間目までのAUCは、HCD条件が最も高値であり、KD条件との比較で有意差があった。

著者らは本研究の特徴として、介入期間中に研究者が食事を用意するのではなく、研究参加者が自由に摂取するというリアルワールドに近い状態で行われ、かつ条件設定に一致した食事が摂取されていたことを挙げている。

研究の総括としては、エネルギー基質としての脂質の利用(脂質酸化)は、いわゆる欧米型のふだんの食事に比べて、高値ではあったものの有意水準に至らなかったことから、「代謝上のメリットはあまりないのではないか」と述べている。一方で、炭水化物の摂取を制限することにより、回復の遅延やパフォーマンスの低下が生じる可能性があるとして、懸念を表している。

なお、研究参加者数が6人と限られていることや、KD条件とHD条件の脂質酸化率がAUCはわずかに有意水準未満ではあるものの、複数のポイントで有意差が認められていることは、大きなサンプルでの追試の必要性を示しているといえるかもしれない。

文献情報

原題のタイトルは、「Chronic and Postprandial Metabolic Responses to a Ketogenic Diet Compared to High-Carbohydrate and Habitual Diets in Trained Competitive Cyclists and Triathletes: A Randomized Crossover Trial」。〔Int J Environ Res Public Health. 2023 Jan 8;20(2):1110〕
原文はこちら(MDPI)

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