引退後の女性アスリートは無月経などの有病率が高いが、主観的な評価では8割が健康と回答
国際大会に国家代表選手として活躍したエリート女性アスリートを対象に、引退後の身体的・精神的健康状態を調査したアンケート結果が、カナダから報告された。3分の2にあたる元アスリートが現役時代に生じた身体症状が持続していること、無月経の既往の割合や高齢出産の割合は一般人口よりも高いなどの差異が認められた。その一方で、不安を感じている割合は一般人口より低く、8割以上の元選手が、条件がそろえば現役に復帰したいと考えていることなども明らかになった。
カナダの元エリート女子アスリートに引退後の健康観を調査
アスリートの引退後の健康状態に関する調査は、男性の元アスリートを対象とする研究に比べて女性の元アスリート対象の研究は多くない。これまでに、男性の元アスリートでは引退後に不安や抑うつ、怒りなどの精神的な問題と、心房細動のリスクが高い可能性が報告されているが、これらが女性にも当てはまるのか否かは確認されていない。また引退後の元女性サッカー選手は変形性膝関節症のリスクが高いことが報告されているものの、他の競技の選手では不明。
これを背景として今回紹介する論文の著者らは、引退後の女性アスリートの精神的・身体的健康状態を一般人口と比較するという調査を行った。
調査の手法について
調査対象は、カナダの国家代表として、ボート競技またはラグビーの国際大会に3回以上参加し、引退から2年以上経過している18歳以上の元エリートアスリート。ボート競技は非コンタクトスポーツの有酸素持久力スポーツとして調査対象とし、またラグビーは筋持久力を要するコンタクトスポーツとして調査対象に選ばれた。このほか、比較対照群として公的データから一般人口のデータセットが用いられた。
310人(ボート190人とラグビー120人)の元アスリートに、136項目からなるオンラインアンケートへの回答を呼びかけ、80人が回答。6人は質問に対する回答から適格基準を満たさないと判断され、74人が解析対象とされた。元ボート選手が30人、元ラグビー選手が44人で、年齢は45±9歳、引退時の年齢は29±4歳、エリートレベルでの現役生活は平均6年間で、平均18回の国際試合に参加していた。引退後の経過は平均15年(範囲2~40)だった。
現役時代の怪我や月経・妊娠との関連が認められるものの、主観的健康観は良好
現役時代の怪我の3分の2は引退後にも影響
まず、現役時代の怪我の状況については、74人中63人(85%)から、計115の筋骨格系の負傷が報告された。31%が腰、30%が膝、23%が足・足首、16%が股関節/鼠径部であり、11人(15%)は、現役生活で怪我をしたことがないと回答した。現役時代に怪我をしたことのある63人のうち42人(67%)は、同じ部位に継続的な痛みがあると答えた。
年齢が一致した一般集団と、股関節障害および変形性関節症転帰スコア(hip disability and osteoarthritis outcome score;HOOS)を比較した結果は有意差がなかった。ただし、変形性関節症転帰スコア(knee disability and osteoarthritis score;KOOS)の年層別の解析では、35~54歳の元アスリートは症状とQOLのサブスケールが一般集団より有意に低かった。
このほかに、34%にあたる25人の元選手(ボート選手1人、その他はラグビー選手)が、現役時代に1回以上、脳震盪の診断を受け(平均2±1回)、40人(54%)は診断を受けていないながら脳震盪の疑いの既往があった。
メンタルヘルスは良好の傾向
元アスリートの8%が現在、不安の評価指標であるGAD-7(generalized anxiety disorder-7)のスコアが10以上で、中等度~重度の不安レベルと判定され、これは同年齢の一般人口より有意に低かった。また、元アスリートの7%が現在、抑うつの評価指標であるPHQ-9(patient health questionnaire-9)のスコアが10以上で、中等度~重度の抑うつ状態と判定された。これは同年齢の一般人口と有意差がなかった。
摂食障害の既往と月経状態・妊娠歴
3人(4%)が摂食障害と診断されたことがあると回答した。20人(27%。ボート選手13人、ラグビー選手7人)が、現役時代にコーチまたはスタッフから減量を提案されていた。
55人(74%)は初経年齢が12~14歳であり、これは一般人口と一致していた。一方、半数近い33人(45%)が、妊娠以外で無月経(少なくとも3カ月連続の月経周期の停止)を経験していた。一般集団と比較して、アスリートが無月経を経験する確率は有意に高かった(OR=6.10〈2.67~13.96〉)。ラグビー選手はボート選手より月経不順を経験する可能性が88%低かった(OR0.12〈95%CI;0.03~0.47〉)。閉経後の17人の閉経年齢は48.2±3.3歳であり、これは一般人口の平均である51歳よりも早い傾向にあった。
47人(65%)は出産歴があり、16人(22%)は妊娠・出産の意思がなく、6人(8%)は妊娠に至らない状態にあった。また出産した47人のうち6人(8%)は不妊治療を受けたうえで妊娠に至っていた。初産の出産年齢は33歳(範囲27~43)であり、一般人口の29.4歳より高齢だった。一般人口に比べて双胎妊娠の割合が有意に高く(p=0.0157)、妊娠糖尿病と診断された割合は有意に低い(p=0.0016)という差異も認められた。また、産後うつや尿失禁の割合は一般人口より有意に多かった。
心血管代謝疾患は低リスク
元アスリートの女性は、高血圧(p<0.0001)、高コレステロール血症(p=0.0009)、糖尿病(p=0.0496)の割合が、一般集団よりも有意に低かった。
健康状態の自己評価
現役時代を振り返ってもらうという自己評価では、その当時、自分の健康状態は平均以上だったとする回答が84%に上った。この値は、引退時の評価では72%にやや低下していたが、引退後の現在の評価は82%に回復していた。
論文では、これらの調査結果と文献的考察により、引退後の女性アスリートが健康を維持・改善するための7項目からなる推奨事項を示している。
文献情報
原題のタイトルは、「Beyond the medals: a cross-sectional study exploring retired elite female athletes’ health」。〔BMJ Open Sport Exerc Med. 2023 Jan 11;9(1):e001479〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)