高タンパク質の朝食で昼食・夕食後の血糖上昇が抑制されるが、昼食の欠食でその効果は失われる
朝食をタンパク質リッチな食事にすると、朝食後ばかりでなく、昼食後と夕食後の血糖上昇も抑制されるというデータが報告された。ただし昼食をスキップした場合、夕食後の血糖上昇抑制作用は失われるという。早稲田大学先端生命医科学センターの柴田重信氏らが、非アスリート対象に行ったクロスオーバー試験の結果であり、「Nutrients」に論文が掲載された。
セカンドミールエフェクトを利用した食後血糖スパイク抑制効果の可能性を探る
食後高血糖が心血管疾患の独立したリスク因子であるとする研究報告が増えている。食後高血糖を抑制する栄養戦略として、グリセミックインデックスが低くなるようにすることとともに、セカンドミールエフェクトを上手く利用する方法が考えられる。
セカンドミールエフェクトとは、先に摂取した食事(一般的には朝食)が、その後に摂取する食事の後の血糖上昇を抑制するように作用すること。例えば、朝食を欠食した場合には、昼食時にセカンドミールエフェクトが生じず、昼食後の急峻な血糖上昇、いわゆる血糖スパイクが生じやすくなることが知られている。このセカンドミールエフェクトは、最初に食べる食事の栄養素バランスによって異なり、高タンパク食を摂取した場合に効果が大きいとする報告がある。
一方、最初の食事と2回目の食事の間隔の長さと、セカンドミールエフェクトとの関連は十分検討されていない。新型コロナウイルス感染症パンデミックにより在宅勤務が増えたことで、従来は朝食を欠食していた人が朝食を食べるようになり、逆に昼食をスキップする人が増えているとする報告もある。
これらを背景として柴田氏らは、朝食を高タンパク食とした場合の昼食や夕食後の血糖変動への影響、および、昼食をスキップした場合の夕食後の血糖変動への影響を、間歇スキャン式持続グルコースモニタリング(intermittently scanned continuous glucose monitoring;isCGM)により検討した。
4種類の条件によるクロスオーバー法で検討
研究参加の適格条件として、以下の6項目が設定されていた。
- (1)糖尿病または脂質異常症と診断されておらず、代謝に影響を及ぼし得る薬物やサプリメントを使用していないこと、
- (2)概日リズムに影響を及ぼし得る、抗精神病薬、睡眠薬、ステロイドを服用していないこと、
- (3)BMI35を上回る高度肥満ではなく、睡眠時無呼吸症候群でないこと、
- (4)喫煙者でないこと、
- (5)心臓ペースメーカーなどの金属製デバイスが留置されていないこと、
- (6)研究参加の2週間前以降に時差の生じる移動をしていないこと。
なお、前術のように、スポーツトレーニングを行っているアスリートは含まれていない。
これらの条件を満たす20~36歳の健康な成人19人が研究に参加した。isCGMの測定エラー、プロトコル逸脱、追跡不能などにより7人が除外され、最終的な解析対象は12人(男性3人、女性9人)となった。平均年齢は22.9±1.2歳、BMI19.6±0.4、体脂肪率22.9±1.9%、摂取エネルギー量1,810.2±154.0kcal/日、基礎代謝量(basal metabolic rate;BMR)1255.9±58.4kcal/日。
試験前日の夕食から当日の夕食まで、一定の食事を提供
研究デザインはクロスオーバー法で、参加者全員に以下の4条件の試行を行った。なお、これらの試行順序は無作為化し、すべての試行を2週間以内に終了した。
試行した4条件とは、通常の朝食を摂取し昼食を摂取する「NL(normal breakfast+lunch)条件」、高タンパクの朝食を摂取し昼食を摂取する「PL(high protein breakfast+)条件」、通常の朝食を摂取し昼食を欠食する「NS(normal breakfast+lunch skip)条件」、高タンパクの朝食を摂取し昼食を欠食する「PS(high protein breakfast+lunch skip)条件」。
試験日の前日の夕食(18時)から、試験日の朝食(8時)、昼食(13時)、夕食(18時)の食事は研究者が支給し、この間(計30時間)は、それらの試験食と水以外の摂取を禁止した。
試験食は男性用と女性用の2パターンを用意。朝食の主要栄養素の摂取エネルギー比は、通常食条件では男性・女性ともにタンパク質が18%で炭水化物は45%であり、高タンパク食条件ではタンパク質が男性・女性ともに60%、炭水化物は男性が23%、女性は26%とした。なお、昼食については、完全に欠食した場合と少量でも摂取した場合との差異を検討するという目的のために、比較的少量(男性197.5kcal、女性158.0kcal)に設定している。
各試験食は、摂取開始から30分以内に完食してもらった。血糖値や血糖変動に影響を及ぼし得る身体活動量については、加速度計で歩数や中~高強度運動(moderate-to-vigorous physical activity;MVPA)の時間を評価し、条件間に有意差のないことが確認された。
高タンパクの朝食を摂り、軽い昼食を食べれば、1日の血糖上昇が抑制される
昼食を欠食しなければ、朝食後16時間の血糖上昇曲線下面積(iAUC)に有意差
では結果だが、試験当日の朝食(8時)から16時間後(24時まで)の血糖上昇曲線下面積(incremental area under the curve;iAUC)を比較すると、高タンパクの朝食を摂取し昼食を摂取する「PL条件」は、通常の朝食を摂取し昼食を摂取する「NL条件」に比較し、有意に低値だった(p<0.05)。
高タンパクの朝食を摂取し昼食を欠食する「PS条件」と、通常の朝食を摂取し昼食を欠食する「NS条件」の比較では有意差がなかった(p=0.68)。
各食事後の短時間のiAUCの比較
次に、各食事の後の短時間の血糖上昇曲線下面積(iAUC)を比較した結果をみてみよう。
朝食後は高タンパク食のほうが有意にiAUCが小さい
朝食後3時間のiAUCは、高タンパク食条件のほうが有意に小さかった。これは、グリセミックロードの違いの影響で、当然の結果と言えるかもしれない。
昼食後3時間iAUCは有意差がないが、1.5時間では有意差あり
昼食後のiAUCは、3時間で比較した場合、NL条件とPL条件とで有意差がなかった。しかし1.5時間のiAUCを比較すると、高タンパクの朝食を摂取していたPL条件のほうが小さく、同じ昼食を摂取したにもかかわらず有意差が認められた(p<0.01)。
夕食後のiAUCは、昼食を食べた場合には有意差あり
夕食後の3時間のiAUCは、NL条件とPL条件とで比較した場合、後者のほうが小さかった(p<0.05)。つまり、朝食を高タンパク食としたことによる食後血糖上昇抑制作用が、夕食後にも認められた。一方、昼食を欠食した条件同士での比較(NS条件とPS条件の比較)では有意差がなかった。なお、これらの結果を性別に検討した結果、有意差は認められず、朝食を高タンパク食とすることの影響は性別を問わず認められると考えられた。
朝食を高タンパクとし、わずかでも昼食を摂ると良い可能性
以上からの結論として著者らは、「高タンパクの朝食は通常の朝食と比較して、朝食、昼食、夕食後の食後血糖値を抑えることが確認された。ただし昼食を抜いた場合、夕食後の食後血糖値は抑制されなかった」と結論をまとめている。
なお、昼食をスキップした場合に夕食後の血糖上昇抑制効果が失われる理由については、絶食時間が長時間になることで遊離脂肪酸レベルが高まり、インスリン抵抗性や肝グルコース放出が増加するためではないかとし、昼食は軽くても食べるほうが1日の血糖変動抑制には有利に働く可能性を考察として述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of a High Protein Diet at Breakfast on Postprandial Glucose Level at Dinner Time in Healthy Adults」。〔Nutrients. 2022 Dec 24;15(1):85〕
原文はこちら(MDPI)