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アメフト選手は健康寿命が10年短い 米国の元選手4千人以上と一般男性を比較した調査結果

がっしりした体つきで、見るからに健康そうな男性アメリカンフットボールの選手が、実は同年齢の一般男性と比べて関節炎、認知症、アルツハイマー病などの有病率が高く、健康寿命が10年ほど短いとするデータが報告された。1960年以降に米国でプロとして活躍した4,000人以上の選手へのアンケート調査の結果と、米国国民健康栄養調査などのデータを対比した結果、明らかになった。著者らは、現役時代の意図的な体重増加や鎮痛薬の多用などが影響を及ぼしているのではないかと考察している。

アメフト選手は健康寿命が10年短い 米国の元選手4千人以上を一般人口と比較した調査結果

元NFLプレーヤーの健康状態を米国国民健康栄養調査などと比較

アメリカンスタイルフットボール(American-style football;ASF)のプロプレーヤーに疾患が多いことは、実はこの研究以前から示唆されていた。例えば、高血圧、心血管疾患、肥満などが多いことが報告されている。ただしそれらの研究は、ASF選手での有病率の検討にとどまるものが多く、一般人口との比較はあまりなされていなかった。それに対して今回報告された研究では、元ASFプレーヤーの疾患有病率を、人種とBMIで調整したうえで、一般人口と比較検討している。

解析対照各群の特徴

この研究では、1960年以降にナショナルフットボールリーグ(National Football League;NFL)から報酬を受けた1万5,070人のプレーヤーに対して、健康状態に対するオンラインアンケートへの回答協力を依頼。4,174人(27.7%)が回答した。なお、1960年は、競技中の硬化プラスチックヘルメットの装着が正式に義務づけられた年。

比較対照群は、米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey;NHANES)および米国国民健康インタビュー調査(National Health Interview Survey;NHIS)の参加者とした。元ASF選手群と対照群のいずれも、年齢を25~59歳の範囲に絞り込んだ。

元ASF選手群は2,864人(アンケート回答者の68.6%)が上記の年齢に該当し、平均年齢は43.9±9.6歳、黒人48.1%、BMI31.69±5.12だった。対照群のうちNHANES群は1,481人で、42.3±10.4歳、黒人40.1%、BMI30.0±7.1であり、NHIS群は6,298人、43.1±10.2歳、黒人13.5%、BMI28.4±4.8。

元ASF選手は健康寿命が10年短い

評価項目は、関節炎、認知症/アルツハイマー病、血圧高値/高血圧、糖尿病の有病率と、それらが該当しない人の割合であり、人種とBMIの影響を統計学的に調整したうえで、年齢層別に解析。その結果、多くの評価項目の疾患有病率が元ASF選手群で有意に高いことがわかった。

関節炎は、すべての年齢層で元選手群の有病率が有意に高い

関節炎の一般住民の有病率は、25~29歳が5.0%、30~39歳が10.4%、40~49歳が19.3%、50~59歳が39.1%であるのに対して、元ASF選手群は同順に22.0%、27.8%、47.2%、53.3%であって、全年齢層で有意差が認められた。

認知症/アルツハイマー病は、20代以外の年齢層で元選手群の有病率が有意に高い

認知症/アルツハイマー病の一般住民の有病率は30代から順に、0.1%、0.1%、0.2%であるのに対して、元ASF選手群は、0.6%、0.9%、2.2%であり、これらのすべてで有意差が認められた。なお、25~29歳の有病率は両群ともに0.0%だった。

血圧高値/高血圧は、20代では年齢層で元選手群の有病率が有意に高い

血圧高値/高血圧の一般住民の有病率は25~29歳から順に、6.5%、15.7%、24.7%、44.0%であるのに対して、元ASF選手群は、12.2%、13.8%、17.2%、33.5%だった。20代では元ASF選手群の有病率が有意に高く、30代は有意差がなく、40~50代は一般住民の有病率が有意に高かった。

糖尿病は、20代では年齢層で元選手群の有病率が有意に高い

糖尿病の一般住民の有病率は25~29歳から順に、1.3%、1.9%、7.7%、16.0%であるのに対して、元ASF選手群は、6.8%、1.6%、4.4%、7.0%だった。20代では元ASF選手群の有病率が有意に高く、30~40代は有意差がなく、50代は一般住民の有病率が有意に高かった。

健康障害がない割合は、元ASF選手と一般住民とで10年の差

次に、上記の疾患を有さない割合を比較すると、一般住民ではその割合が、25~29歳は87.5%、30~39歳が79.9%、40~49歳が61.6%、50~59歳が44.3%であるのに対して、元ASF選手群は同順に70.5%、66.4%、47.9%、32.5%であって、20~25歳を除く年齢層ではすべて、一般人口のほうが疾患を有さない割合が有意に高かった。

また、30代の元ASF選手群の疾患を有さない割合である66.4%という数値は、一般人口の40代のその割合である61.6%に近く、かつ、40代の元ASF選手群で疾患を有さない割合の47.9%という数値は一般人口の50代の44.3%に近かった。つまり、元ASF選手群の健康状態は、一般人口より約10年早く悪化している傾向があった。このデータを基に著者らは、「元ASF選手は一般住民より健康寿命が10年短い可能性がある」と述べている。

有病率増加のメカニズムは、物理的ダメージや意図的な体重増加などか?

まとめると、関節炎と認知症/アルツハイマー病は、調査対象のすべての年齢層で元ASF選手群に多くみられた。一方、高血圧と糖尿病は、若年の元ASF選手では一般住民より有意に多く認められた。また、それらの疾患が該当しない割合は、すべての年齢層で元ASF選手群のほうが少なく、健康寿命の短縮が示唆された。

なお、高血圧と糖尿病が若年の元ASF選手群でのみ有意に多いという結果について著者らは、これらの疾患は発症後の罹病期間が長いほど心血管合併症を来しやすいため、中年期以降の有病率にかかわらず、長期予後への影響が大きいのではないかと懸念を示している。

この研究の限界点としては、疾患の有無が自己申告に基づくものであること、元ASF選手群において、なんらかの疾患を有する人のほうがアンケートにより積極的に回答したという選択バイアスが存在する可能性のあることなどを、著者らは挙げている。

また、元ASF選手の疾患リスクが高くなることのメカニズムとしては、反復的な衝撃が筋骨格系にダメージを及ぼし関節炎のリスクとなること、頭部への衝撃は神経系へのダメージとなり後年の認知機能低下等を惹起する可能性があること、および、パフォーマンス上のメリットのための意図的な体重増加、非ステロイド性抗炎症薬の多用、高強度の筋力トレーニングへの曝露なども、種々の疾患リスクとなり得ることを考察として述べている。

このほか、「検証作業が必要ではあるが、アメリカンフットボール以外のコンタクトスポーツにも、この知見が当てはまる可能性もあるのではないか」とも付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Healthspan and chronic disease burden among young adult and middle-aged male former American-style professional football players」。〔Br J Sports Med. 2022 Dec 7;57(3):166-171〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)

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