食事指導の際には要注意、飲酒と食事パターンには深い繋がりがあった 順天堂大学・文京ヘルススタディー
お酒の強さを規定する遺伝子は食事パターンと関連があるものの、実際には飲酒量によって食事パターンが規定されていることが明らかになった。順天堂大学の研究グループが、東京都文京区在住の高齢者を対象に行っている調査のデータを解析して明らかにした。詳細が「Nutrients」に論文掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースとして掲載された。研究者らは、「禁酒や節酒により食事パターンが変化する可能性があることから、食事指導を行う場合には注意が必要であることが示唆される」としている。
研究の概要：お酒の強さ、または習慣から、食事パターンを予測できる？
順天堂大学大学院医学研究科スポーツ医学・スポートロジーの杉本真理氏、田村好史氏、河盛隆造氏、代謝内分泌内科学の綿田裕孝氏らの研究グループは、文京区在住高齢者1,612名を対象とした調査により、お酒の強さを決める遺伝子が食事パターンと関連すること、しかし実際の飲酒量によって食事パターンが再規定されていることを明らかにした。
これまでアルコールへの耐性（お酒の強さ）を規定するアルデヒドデヒドロゲナーゼ2遺伝子多型（ALDH2 rs671）※1が飲酒量だけでなく、複数の食品の嗜好と関連があることは知られていたが、食習慣をパターン化した「食事パターン」※2との関連は明らかになっておらず、本研究で初めて明らかになった。
本研究の結果は、お酒の強さからその人のもつ食事パターンの予測が可能であることや、禁酒や節酒によって食事パターンに変化が生じる可能性があることを示唆しており、糖尿病のような疾患に対する個別化予防・個別化医療の観点からも有益な情報であると考えられる。
※1 アルデヒドデヒドロゲナーゼ2(ALDH2)遺伝子多型（rs671）： ヒトが飲酒するとアルコールは、アセトアルデヒドに分解された後、肝臓のALDH2を中心にして酢酸に分解されて無毒化される。白人のほとんど（99%）は、ALDH2がお酒に強いタイプ（rs671G/G）だが、日本人を含めアジア人では50%程度しかそのタイプがいない。そのため、アルコールが健康に与える影響は、病気や人種、さらには遺伝子のタイプによって異なることが示されてきている。なお、自分のALDH2遺伝子型はエタノールパッチテストという方法で簡易的に知ることができる。
※2 食事パターン： 食事質問表から統計学的手法を用いて、集団の食習慣をパターン化したもの。栄養素や食品の複合的摂取効果を評価し、日常的な食生活の疾病リスクを予測することができる。
研究の背景：お酒の強さにかかわる遺伝子多型と食事パターンの関連を探る
食の嗜好性には個人差があるが、生まれつき遺伝によって決まっている部分があることが知られている。例えば、アルコールへの耐性（お酒の強さ）を規定する遺伝子型として知られているALDH2遺伝子多型が、お酒に弱いタイプだと飲酒量や魚を食べる量が少なくなり、コーヒー、お茶、甘いものを摂る量が多くなる。
その一方で近年では、一つ一つの食品に対する嗜好性ではなく、さまざまな食品の習慣的な摂取を統計学的手法によりパターン化した「食事パターン」の把握が注目を集めている。例えば、前述のALDH2遺伝子多型の例で言えば、お酒に弱いタイプだと、「お酒や魚料理などをあまり食べず、食後にコーヒーや甘いものなどを食べる」といった、食事パターンを見出すことができる可能性がある。
しかしながら、ALDH2遺伝子多型と食事パターンの関連はこれまで明らかになっていなかった。そこで、本研究では、都市部在住高齢者を対象とした調査研究 Bunkyo Health Study（文京ヘルススタディー）※3において、ALDH2遺伝子多型と食事パターンの関連性を分析するとともに、実際の飲酒量によって食事パターンにどのような影響が生じるのかを調査した。
※3 Bunkyo Health Study（文京ヘルススタディー）：順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターで行われている、東京都文京区在住の1,629名の高齢者を対象とした研究。認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのか、「どのように」早期の発見・予防が可能となるか、などを明らかにすることを目的としている。（参照：文京ヘルススタディ研究概要）
研究の内容：飲酒量が、より直接的に食事パターンを決めている
本研究では、東京都文京区在住高齢者のコホート研究“Bunkyo Health Study”に参加した65～84歳の高齢者1,612名(男性677名、女性935名)を対象に、簡易型自記式食事歴質問票（brief-type self-administered diet history questionnaire；BDHQ）※4による食事歴調査とALDH2遺伝子多型の測定を行った。
※4 簡易型自記式食事歴質問票（brief-type self-administered diet history questionnaire；BDHQ）：食物摂取頻度および食習慣を選択形式で回答するA4サイズ4ページの質問票で、過去1カ月間の58の食品および飲料の平均摂取量を評価することができる。
食事歴を主成分分析※5を用いて分析したところ、男女ともに三つの食事パターンが見出された。
一つ目を、魚、野菜類、芋、大豆製品、果物の摂取が多く、白米の摂取が少ない「和食副菜型」、二つ目を、魚介類、大豆製品、飲酒量が多く、菓子類、紅茶、コーヒーの摂取が少ない「和食アルコール型」、三つ目を、肉、麺類、飲酒量が多く、白米やみそ汁の摂取が少ない「洋食アルコール型」と定義した。
※5 主成分分析：多数の項目を総合して、より少ない数の合成変数を作るための統計学的手法。食品・栄養素の潜在的な相乗効果を評価できることから、近年の栄養疫学において、食事パターンを導き出す手法として広く用いられている。
その後、参加者をお酒に強い遺伝子型（ALDH2 rs671G/G）を持つグループ（男性371名、女性520名）と、その他の遺伝子型（ALDH2 rs671G/AまたはA/A）を持つグループ（男性306名、女性415名）に分けて比較。
その結果、男性では、お酒に強い遺伝子型を持つグループで、「和食副菜型」のスコアが有意に低く、「和食アルコール型」と「洋食アルコール型」のスコアが有意に高いことが明らかとなった。女性では、お酒に強い遺伝子型を持つグループで、「和食アルコール型」と「洋食アルコール型」のスコアが有意に高いことが明らかとなった。
また、男女ともにお酒に強い遺伝子型を持つグループでは、脂質、炭水化物の摂取が有意に少なく、アルコールの摂取が有意に多いことがわかった（表1）。このことから、お酒の強さが食事パターンと関連していることが示された。
表1 お酒の強さを規定する遺伝子型ごとの日本人男女の食事特性
| アルコールに強い遺伝子型 ALDH2rs671 （G/G）" | アルコールに弱い遺伝子型 ALDH2rs671 （G/AorA/A） | |
|---|---|---|
| 対象者数 | 371 | 306 |
| 和食副菜型スコア | -0.16（-0.74-0.48） | 0.10（-0.60-0.81） |
| 和食アルコール型スコア | 0.25±0.93 | -0.31±1.00 |
| 洋食アルコール型スコア | 0.19±0.99 | -0.24±0.96 |
| エネルギー（kcal/日） | 2087（1722-2538） | 20121635-2422） |
| タンパク質（%） | 15.4（13.5-17.2） | 15.6（13.7-17.9） |
| 脂質（%） | 25.8（21.9-29.7） | 27.8（24.0-31.0） |
| 炭水化物（% | 46.3（40.5-53.0） | 52.3（46.2-56.9） |
| ショ糖（g/1000kcal/日） | 5.2（3.2-8.0） | 7.4（4.4-10.5） |
| アルコール（g/1000kcal/日） | 12.2（4.4-22.9） | 0.5（0.0-7.2） |
| アルコール（g/日） | 24.7（8.8-49.6） | 0.9（0.0-14.7） |
| アルコールに強い遺伝子型 ALDH2rs671 （G/G） | アルコールに弱い遺伝子型 ALDH2rs671 （G/AorA/A） | |
|---|---|---|
| 対象者数 | 520 | 415 |
| 和食副菜型スコア | -0.13（-0.69-0.55） | -0.04（-0.69-0.56） |
| 和食アルコール型スコア | 0.04（-0.45-0.72） | -0.32（-0.77-0.15） |
| 洋食アルコール型スコア | 0.09±0.99 | -0.11±1.00 |
| エネルギー（kcal/日） | 1771（1470-2144） | 1798（1469-2153） |
| タンパク質（%） | 17.7（15.5-19.8） | 17.5（15.6-19.9） |
| 脂質（% | 29.1±5.4 | 29.9±5.6 |
| 炭水化物（%） | 49.2±7.8 | 51.3+7.5 |
| ショ糖（g/1000kcal/日） | 6.8（4.3-10.0） | 8.1（4.7-11.3） |
| アルコール（g/1000kcal/日） | 0.6（0.0-6.2） | 0.0（0.0-0.1） |
| アルコール（g/日） | 1.1（0.0-10.4） | 0.0（0.0-0.2） |
次に、ALDH2遺伝子多型が各食事パターンスコアと独立して関連するかを重回帰分析により、さまざまな因子（年齢、BMI、身体活動量、教育年数、喫煙歴）で調整して解析したところ、男性ではALDH2遺伝子多型は「和食副菜型」、「和食アルコール型」、「洋食アルコール型」の三つすべての食事パターンスコアと有意な関連を認めた。しかし、飲酒量を考慮した解析を行うと、「和食副菜型」、「洋食アルコール型」のスコアとALDH2遺伝子多型の関連性は消失し、飲酒量のみがそれらの食事パターンと有意に関連していることがわかった。その一方で、「和食アルコール型」のスコアは飲酒量、ALDH2遺伝子多型のどちらとも有意に関連した。
女性では、「和食アルコール型」、「洋食アルコール型」のスコアは、ALDH2遺伝子多型と有意な関連があったが、飲酒量を考慮した解析を行うと、ALDH2遺伝子多型の関連性は消失し、飲酒量がそれらの食事パターンと有意に関連していることがわかった。
以上の結果から、ALDH2遺伝子多型と食事パターンが関連することが世界で初めて明らかとなった。しかし、飲酒量を考慮した場合、ALDH2遺伝子多型とほとんどの食事パターンの関連は消失した。このことは、ALDH2遺伝子多型と食事パターンの関連は、飲酒量が中間因子となって変化を生じさせる可能性を示唆している（図1）。
つまり、私たちの食事パターンは、お酒の強さを決める遺伝子によって決められているわけではなく、飲酒量によって変化すると捉えることができる。
図1 お酒に強い遺伝子型が食事パターンと関連するメカニズム
今後の展開：ALDH2遺伝子多型と疾患の関係も食事パターンが媒介している可能性
「お酒をやめたら、甘いものを多く食べるようになった」ということを聞いたり経験したりしたことがある人もいるかもしれないが、今回の研究によって実際に、お酒の強さを決める遺伝子が食事パターンを直接決めているのではなく、飲酒量がより直接的に食事パターンを決めていることが示唆された。つまり、健康のため禁酒や節酒をした場合に、それによって食事パターンが変化することで、予想とは違う結果につながる可能性がある。
今回の研究では、飲酒量を中間因子としたALDH2遺伝子多型と食事パターンの関連が示唆されたが、ALDH2遺伝子多型はいくつかの疾患との関連も明らかになっている。そのため、ALDH2遺伝子多型と疾患の関係も、飲酒量や食事パターンが媒介している可能性があり、今後さらなる研究を進めて明らかにする必要がある。
プレスリリース
食事パターンを決めるのはお酒の強さか？飲酒量か？～ 高齢者を対象とした文京ヘルススタディーで明らかに ～（順天堂大学）
文献情報
原題のタイトルは、「Association of ALDH2 Genotypes and Alcohol Intake with Dietary Patterns: The Bunkyo Health Study」。〔Nutrients. 2022 Nov 15;14(22):4830〕
原文はこちら（MDPI）
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