朝食・昼食・夕食+間食の栄養学的な評価が可能な簡易ツールを開発 東京大学
東京大学大学院医学系研究科の研究グループは、日本人成人から収集した詳細な食事調査データと食行動に関する既存の科学的知見をもとに、朝食・昼食・夕食・間食の栄養学的質を評価することを目的とした簡易食習慣評価ツールを開発した。研究の詳細が、英国栄養学会発行の「The British journal of nutrition」に論文掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースとして掲載された。開発されたツールの精度は、食事記録法から推定された各食事の栄養学的質と比較して、十分に正確だという。研究者らは、「時間栄養学や行動栄養学の研究における有用な調査ツールとして活用され、食事指導や栄養教育の領域に応用されると期待される」としている。
発表の概要
この研究では、日本人成人222人を対象として、簡易食習慣評価ツール(Meal-based Diet History Questionnaire;MDHQ)に回答してもらうとともに、最も正確と考えられる食事調査法である食事記録を4日間実施してもらった。MDHQから推定された各食事の栄養学的質を、基準法である食事記録から推定された各食事の栄養学的質と比較したところ、MDHQから推定された朝食・昼食・夕食の栄養学的質が十分に正確であることが明らかになった。
本研究は、朝食・昼食・夕食・間食の栄養学的質を評価できる簡易食習慣評価ツールを開発した世界初の研究。MDHQは、食事のタイミングや規則性が慢性疾患の発症にどのように関係しているかといった、時間栄養学や行動栄養学に関する研究において有用な食事調査ツールとなるだけでなく、日常の食べ方に沿った食事指導や栄養教育を行うための土台となることが期待される。
発表の内容
研究の背景:先行研究における問題点
不適切な食事摂取は、慢性疾患の発症や早期死亡の主要な危険因子として広く認識されており、食事の質の向上は今や世界的な優先事項となっている。食事と疾病の関係を明らかにし、より望ましい食行動を支援するための効果的な方策を開発するためには、習慣的な食事摂取状況の正確な測定が必須。
この分野の研究は従来、個々の栄養素や食品についての1日合計の摂取量といった、「何を食べるか」や「どのくらい食べるか」という点のみが注目されてきた。しかし、近年、食事のタイミングといった「どのように食べるか」という観点の研究が増えている。「どのように食べるか」という視点からの科学的知見が蓄積していくことは、より意義のある食事ガイドラインや公衆衛生メッセージを策定したり、健康的な食事を促進するための効果的な介入戦略を開発したりするためにとても重要。
しかしながら、この分野の研究は世界的に見てもあまり進展していない。その主な理由の一つとして、「大規模な集団に対して、簡便かつ安価に使用できる測定法が存在しない」ということが挙げられる。そこで本研究では、日本人成人から収集した詳細な食事調査データと、食行動に関する既存の科学的知見をもとに、朝食・昼食・夕食・間食の栄養学的質を評価することを目的とした簡易食習慣評価ツールであるMDHQ(Meal-based Diet History Questionnaire)を開発した。
研究の内容:ウェブ版と紙半のMDHQでの評価結果をHEIと比較
本研究は、2021年8~10月に全国14都道府県で実施した調査で得られたデータをもとにしている。調査参加者は30~76歳の日本人成人222人(男女111人ずつ)で、研究のスケジュールは図1に示すとおり。
図1 研究スケジュール
研究の内容を説明したうえで、まず、ウェブ版のMDHQに回答してもらった。MDHQは、日本人成人から収集した詳細な食事調査データと食行動に関する既存の科学的知見をもとにして開発された、朝食・昼食・夕食・間食ごとの食品摂取量を推定することを目的とした簡易食習慣評価ツールであり、最近1カ月間の食習慣を尋ねる質問票で、回答には約15分を要する。
その後、4日間にわたって、食べたり飲んだりしたものを量も含めて、すべて記録する食事調査法である食事記録を実施してもらった。そして最後に、紙版のMDHQを回答してもらった。
MDHQの回答に基づいて、専用の計算アルゴリズムを用いて各種食品群・栄養素の摂取量を計算。同じように、食事記録のデータをもとにして各種食品群・栄養素の摂取量を計算した。
食事の栄養学的質の評価には、健康食インデックス(Healthy Eating Index;HEI)を用いた。これは、現時点での科学的知見を網羅的にまとめたうえで定められた「アメリカ人のための食事ガイドライン」(Dietary Guidelines for Americans)の遵守の程度を測る指標で、日本人における有用性も検証されている。健康食インデックス(HEI)に含まれる因子は表1のとおり。100点満点でスコアがつけられ、点数が高いほど食事の栄養学的質が高いことを示す。
表1 健康食インデックス(Healthy Eating Index;HEI)に含まれる因子
多く食べるほどスコアが高くなる項目 | |
---|---|
果物 | 0〜10 |
野菜 | 0〜10 |
全粒穀物 | 0〜10 |
乳製品 | 0〜10 |
たんぱく源 | 0〜10 |
脂肪酸比※ | 0〜10 |
少なめに食べるほどスコアが高くなる項目 | |
精製穀物 | 0〜10 |
ナトリウム | 0〜10 |
添加糖類 | 0〜10 |
飽和脂肪酸 | 0〜10 |
合計 | 0〜100 |
朝食・昼食・夕食・間食、および、すべての食事(四つの食事の合計)について、ウェブ版のMDHQから算出された健康食インデックスの中央値と、比較基準とした4日間食事記録から算出された健康食インデックスの中央値を比較。その結果は図2に示すとおりで、女性における朝食、夕食および間食、男性における夕食および間食以外は、統計的な有意差は観察されなかった。
図2-a 女性111人の結果
図2-b 男性111人の結果
また、4日間食事記録から算出されたHEIと、ウェブ版のMDHQから算出されたHEIとの間のスピアマンの相関係数を算出したところ、結果は図3に示すとおりであり、朝食・昼食・間食、および、すべての食事において、良好な直線関係が観察された。
図3
以上より、ウェブ版のMDHQから推定された朝食・昼食・夕食の栄養学的質は、十分に正確であることが明らかになったといえる。さらに、ウェブ版と紙版のMDHQの性能は、基本的には同程度であることもわかった。
社会的意義:時間栄養学・行動栄養学研究に有用で、食事指導や栄養教育に応用可能
本研究は、朝食・昼食・夕食・間食の栄養学的質を評価することを目的とした簡易食習慣評価ツールを開発した世界初の研究。MDHQはウェブ版、紙版ともに、基準法である4日間の食事記録に比べて、朝食・昼食・夕食の栄養学的質を十分に妥当に推定する性能を有することが示唆された。一方で、間食の栄養学的質の評価はMDHQでは困難であることも示唆された。MDHQの各種食品群・栄養素摂取量に関する妥当性は十分であった。
MDHQは、食事摂取の時間帯やタイミングに着目した食事と疾病の関係に関する時間栄養学研究や行動栄養学研究において、有用な食事調査ツールといえる。そのような研究成果が蓄積すれば、より日常の食べ方に沿った食事指導や栄養教育が実現可能と考えられる。
なお、本研究は「やずや食と健康研究所」の研究助成を受けて実施された。
プレスリリース
朝食・昼食・夕食・間食の栄養学的質の評価を目的とした簡易食習慣評価ツール(MDHQ)の開発
文献情報
原題のタイトルは、「Relative validity of the online Meal-based Diet History Questionnaire for evaluating the overall diet quality and quality of each meal type in Japanese adults」。〔Br J Nutr. 2022 Nov 3;1-15〕
原文はこちら(Cambridge University Press)