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スポーツあるいはアスリートにおける連続血糖モニター(CGM、isCGM)の可能性と考慮事項

連続血糖測定(CGMやisCGM)のスポーツ領域での使用に関するレビュー論文が発表された。現行のCGM、isCGMの製品リスト、アスリートが使用することを想定して製品化された評価のためのアプリケーションのリスト、スポーツに使用することに関するエビデンス、考慮すべきリミテーションなどが総括されている。オーストラリアの研究者らによる論文であり、国際スポーツ栄養学会の学術誌「International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism」に掲載された。日本国内でのこれまでの血糖測定の歴史を織り交ぜつつ、論文の要旨の一部をピックアップして紹介する。

スポーツあるいはアスリートにおける連続血糖モニター(CGM、isCGM)の可能性と考慮事項

イントロダクション:糖を測れて、血糖変動もみれるようになった

スポーツやその他の身体活動では、とくに長時間にわたってそれらが行われる場合、利用可能な炭水化物が少ないことによってパフォーマンスが低下する。パフォーマンスの向上を主要な目的とするスポーツ栄養学の研究にとって、グリコーゲンの貯蓄・枯渇防止は古くから現在に至るまで、重要なトピックであり続けている。グリコーゲンの枯渇に起因する低血糖は、パフォーマンスを損なう大きな原因とされている。

血糖値は、古くはもっぱら医療機関内で静脈採血によって行われ、1976年ごろから糖尿病患者の自己測定、いわゆる血糖自己測定(self monitoring of blood glucose;SMBG)が先進的な施設で臨床に導入されるようになり、その後、保険が適用されたことを機に使用が拡大して、今世紀初頭までその状況が続いていた。SMBGが糖尿病医療の進歩に与えた功績は小さなものでない。ただし、測定に指先などの穿刺を必要とするために測定自体に数分以上要すること、測定回数が最大でも1日数回程度に限られることなどの限界があり、その使用はあくまで糖尿病の治療という目的であった。

今世紀に入ると、検体として静脈血ではなく、皮下組織の細胞浸出液を用い、その糖濃度をアルゴリズムに基づき変換することで連続的な血糖評価を可能にした、いわゆる連続血糖測定(continuous glucose monitoring;CGM)が登場した。このCGMも、当初は主に1型糖尿病でインスリン療法を必須とする患者がインスリン投与量を加減することや、一部、インスリン療法中の2型糖尿病患者の食後高血糖または夜間低血糖を検出することを目的として用いられた。いずれにしても、糖尿病治療領域での使用に限られていた。

ところが2010年代に入り、インスリン療法とは独立して血糖の連続評価を行う、間歇スキャン式持続グルコースモニタリング(intermittently scanned continuous glucose monitoring;isCGM)が現れ、糖尿病患者での使用が拡大。現在では国内においても1型糖尿病患者のみならず、1日1回でもインスリン注射を行っている2型糖尿病患者に保険適用となっている。それと同時に、いったん腕にセンサーを装着さえすれば、2週間(機種による)にわたっていつでもリアルタイムで血糖値を知ることができ、あとから振り返ることもできるようになったため、糖尿病治療以外で使用される場面も増えてきている。

糖尿病治療以外でisCGMが使用される場面の一つは糖尿病予備群やメタボリックシンドロームの対象への療養指導であり、もう一つの大きな需要がアスリートである。

膨大なデータを解析するためのアプリケーション

CGMにしてもisCGMにしても、従来のSMBGと比較し施行によって得られる情報量が各段に増え、それを解析して介入方法改善につなげるには、医療であれば臨床医と患者、スポーツであればアスリートとスポーツ栄養士を中心とするスタッフに、従来以上に豊富な知識と経験が要求される。それをサポートとするためのアプリケーションが、CGM・isCGMを販売している各社から提供されている。なかには、アスリートが使用することに特化したアプリケーションも既に存在する(論文中には、そのアプリケーションのリストも表形式で掲載されている)。

それらのアプリケーションの多くは、食事とトレーニング時間などを記録が可能であり、メーカーによると補食のタイミングの判断や代謝マーカーとして有用であるとされている。また、メーカーは、リアルタイムの血糖変動の追跡はトレーニングと回復の最適化に役立ち、「分単位」のエネルギー管理システムを提供して、「二度とヘマをしない」ようにすることができると主張している。この点について論文の著者らは、「スポーツ領域でのCGMの可能性に関して最近、誇大な主張がなされる傾向があることから、より保守的なアプローチを維持しつつ、エビデンスを構築していく姿勢が重要と考えられる」と述べている。

アスリートのCGM使用のエビデンス

アスリートがCGMを利用するようになったのは最近のことであるため、そのエビデンスは実際のところ多くない。最もポピュラーな研究テーマは、やはり持久系スポーツであり、例えば165kmのウルトラトレイルレースで、レース全体での炭水化物の摂取量が少ないアスリートは、血糖値が低値で推移しレースタイムが長い傾向があると報告されている。また、レクリエーションランナーはエリートランナーに比較して、レース中の血糖変動幅が大きいという報告もみられる。血糖値の急激な低下は、摂取エネルギー量と消費エネルギー量の不均衡の結果として発生すると理解されており、血糖変動幅が大きいことは、エネルギー可用性の低下した状態(low energy availability;LEA)のサインである可能性もある。

スポーツにおけるCGM使用の潜在的なリミテーション

スポーツ栄養学にCGMを導入する際には、理論的、技術的、および実際的な注意事項を考慮する必要がある。何よりもまず、理論的な注意点として、CGMから得られたグルコースデータが、パフォーマンスの最適化のためのさまざまなスポーツ栄養戦略の成功に有用であるという仮説が、いまだ未検証であるということが挙げられる。また、CGMから派生したデータの信頼性と有効性が、マーケティング的に誇大宣伝されたり、あるいは単純化された解釈の影響を受けやすいアスリートに意味があると確信される前に、研究によって確かなものとしなければならない。

技術的な制限としては、CGMセンサーの耐久性、使いやすさ、大量の発汗、水への浸漬、極端な気候条件、コンタクトスポーツなどでの他者との物理的な接触など、糖尿病患者での使用とは異なる条件を考慮する必要がある。センサーの粘着フィルムは長時間水に浸すと劣化する可能性が高く、水泳選手やボート競技、トライアスロン選手などではセンサーが外れてしまう可能性が高くなり、また、周囲の温度や湿度によっても耐久性に差が生じる。

“glucorexia”(グルコレキシア)という新たな懸念

また、血糖変動を逐次確認できることが、本人にとってストレスとなる可能性も考慮されなければならない。例えば、摂食障害のリスクのあるアスリートが、摂取開始後の血糖値の上昇に反応し、摂食行動を中止するということはないだろうか。アスリートが血糖変動に過敏に反応する“glucorexia”(グルコレキシア。血糖値への執着を意味する造語または新語)という状態も懸念材料といえる。

コストの問題やレギュレーションの問題もあるだろう。後者については既に、例えば国際自転車競技連合(Union Cycliste Internationale)は、CGMの競技会での使用を禁止しトレーニング時のみ使用することとしている。その明らかな理由は、ロードレースの重要な要素である、予測不可能性や不確実性が、アスリートが血糖変動をリアルタイムで知ることができることで阻害されるためとされている。なお、1型糖尿病のアスリートで構成されているプロサイクリングチームの「チーム ノボ ノルディスク」には、おそらくこの規定は除外されるだろう。

今後の方向性

CGMは腹部、isCGMは上腕にセンサーを留置することが多い。一方、アスリートは、参加している競技によって留置可能な部位が制限されることがある。腹部や上腕以外にセンサーを留置した場合に、血糖測定のゴールドスタンダードである静脈血レベルとの乖離の程度や、血糖が急速に変化している場合にその変化が現れるのに要する時間について、さらなる知見が必要とされる段階だ。

この領域の急速な進歩と、実際にCGMを利用しているアスリート人口の急な拡大にもかかわらず、ケーススタディ以外の報告は限られている。今後の体系的な研究によって、CGMがアスリートの健康やウェルビーイング、およびパフォーマンスの最適化のための意味のあるデータを生成する重要なツールであるかどうかを判断しなければならない。

文献情報

原題のタイトルは、「The Use of Continuous Glucose Monitors in Sport: Possible Applications and Considerations」。〔Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2022 Dec 26;33(2):121-132〕
原文はこちら(Human Kinetics)

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