睡眠がアスリートの回復とパフォーマンスに与える影響をバスケ選手で検証 システマティックレビュー
バスケットボール選手の回復とパフォーマンスに対する睡眠の重要性について、システマティックレビューを行った研究論文を紹介する。著者らによると、睡眠はアスリートの回復などに重要だが、バスケに関してはこの点のシステマティックレビューはこれまで行われていなかったという。
25報の論文を抽出して解析
バスケットボールは高強度の加速と減速、方向転換、ジャンプが連続する、身体的要求の高いスポーツであり、試合後の回復戦略が次の試合でのパフォーマンスを大きく左右する。回復戦略としての睡眠は、栄養と水分補給と並び、とくに専用の設備や器具を要さずに行うことができ、かつ最も効率的な回復方法と考えられている。とはいえ、合宿や遠征などの環境の変化によって睡眠が妨げられることもある。バスケ選手の回復戦略とパフォーマンスの維持のため、睡眠に関する知見の継続的なブラッシュアップが求められる。
この研究では、PRISMAガイドラインに即してPubMed、WOS、Scopusという三つの文献データベースを用いたシステマティックレビューが行われた。2021年末までに公開された論文を対象として、バスケットボール、睡眠などのキーワードにより文献を検索。PubMedで50報、WOSで54報、Scopusで56報がヒットし重複を削除後の50報を2名の研究者が独立して採否を検討。意見の不一致は3人目の研究者との討議によって解決した。
最終的に25報の論文を検討対象として抽出。それらの研究には、プロとアマチュアを対象とするものと、プロの特定の競技会またはシーズンのみを対象としたものが含まれていた。プロの大会に関するものとしては、NBA(National Basketball Association)の1万4,404試合を分析したものもあった。
分析で得られた主なトピックス
分析の結果、睡眠とバスケ選手の回復・パフォーマンスとの関連について、以下のようなトピックに分類された。
睡眠の時間と質の重要性
8件の研究では、睡眠の量と質がバスケのパフォーマンスと正相関することを示していた。つまり、睡眠時間が長くなるほど、また睡眠の連続性が高まるほど(中途覚醒などによる睡眠の中断が少ないほど)、その後のバスケットボールのパフォーマンスが向上すると結論づけられていた。
これらの研究の中には、若年(学生)アスリートでは女性よりも男性の方が回復に優れていることを示すものもあった。ただし、若年アスリートは、回復戦略における睡眠の重要性を知識として有しているにもかかわらず、自身の生活パターンにおいて睡眠をそのように位置づけている選手は24%にとどまるというデータもあった。
トレーニングの負荷量と睡眠
6件の研究は、トレーニングや試合の負荷に焦点を当て、そのうち4件は高強度の負荷と睡眠の質の低下との関連を検討しており、1件を除いてその関連があると結論づけていた。睡眠の質とその後のトレーニングでの自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)との関連を示した研究もみられた。
これらより、ふだんよりも高強度のトレーニングを計画する際には、その後の回復戦略として、睡眠時間を長く確保できるようにすることが有用の可能性がある。
睡眠時間と怪我のリスク
睡眠時間と怪我の関連を検討した研究は1件のみだったが、より多くの睡眠がその後の怪我の可能性を抑制する可能性があると結論づけていた。
移動による概日リズム・睡眠への影響
6件の研究が移動と概日リズムの関係を検討していた。移動、疲労、時差ぼけなどにより、選手の睡眠、回復、パフォーマンスに著しく悪影響を与えると結論づけている。別の1件の研究は、睡眠とパフォーマンスとの関連の強さが、個人によって大きく異なることを強調し、コーチスタッフは各選手の特性を理解しておく必要があるとしていた。また、3件の研究は試合スケジュールとの関連を検討し、短期間に試合が集中している場合において、睡眠が回復とパフォーマンスにより大きな影響を与える可能性が語られている。
パラアスリートの睡眠
車椅子バスケパラアスリートを対象とする研究からも、睡眠とアスリートの活力との関連が示唆され、また長距離の移動が選手の疲労を誘発することが報告されていた。
睡眠と栄養
睡眠を栄養とエルゴジェニックエイドに関連付けた2件の報告が存在した。カフェイン摂取は、プロで活躍する選手のバスケットボールのパフォーマンスに影響を与えないと報告されていた。また別の報告では、バスケアスリートの睡眠への影響の強さという点では、1日の最後の食事である夕食のグリセミック指数より、1日の摂取エネルギー量のほうが影響力が強いと結論づけられていた。
睡眠前の赤色光による睡眠の質への影響
睡眠前の赤色光療法が、トレーニングや試合後の睡眠の質を高め、回復を促進するとの報告もあった。このタイプの治療法は、過密なスケジュールが続くシーズン中、または移動を伴う試合が続く際に、アスリートの回復促進に役立つ可能性がある。上記の分析に加えて著者らは、「バスケットボール選手の睡眠に科学的にアプローチして、回復促進やパフォーマンス向上に役立てようとする動きは、まだクラブのオフィスや競技団体レベルではみられないことも明らかになった」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「How Sleep Affects Recovery and Performance in Basketball: A Systematic Review」。〔Brain Sci. 2022 Nov 18;12(11):1570〕
原文はこちら(MDPI)