スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2023 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

有酸素運動後の300mLのビールは心拍数などに影響しない 海外のクロスオーバー試験

有酸素運動後にビールを飲んでも、水を飲んだ場合と比較して、心拍数や心拍変動に変化は生じないとする研究結果が報告された。ただし、この試験でのビールの摂取量は300mLであり、缶ビールのショート缶より少量であって、また人種的にアルコールに弱い人が多い日本人ではなく、海外で行われた研究であることなど、解釈には注意点がある。ブラジルと英国の研究者らの報告。

有酸素運動後の300mLのビールは心拍数などに影響しない 海外のクロスオーバー試験

レクリエーションスポーツでは試合後の飲酒も一要素?

日々トレーニングを行っている競技レベルのアスリートでは、トレーニング後にビールを飲むという機会は、何か特別な理由がある場合のみに限られるだろう。エビデンスとしては、アルコール摂取量が疲労感と正相関しパフォーマンスを低下させることが報告されており、またアルコールが回復段階の筋タンパク質合成を低下させ同化効果が抑制されること、心房細動などの不整脈リスクとなることなども知られている。

しかし、レクリエーションアスリートの場合は、試合後のビールが楽しみという向きも少なくない。レクリエーションスポーツには、社会的交流の促進という目的もあるため、その目的のためには試合後の飲酒が欠かせないシーンもある。このような運動中や運動後の心血管イベントリスクを飲酒が押し上げる可能性も否定できない。とはいえ、そのような視点での研究はあまり行われていない。

これを背景として、今回紹介する論文の著者らは、運動後の血圧と心拍変動への飲酒の影響を検討した。

機会飲酒者32人を対象とするクロスオーバー法で検討

研究参加のためのスクリーニングは、健康な成人50人(男女25人ずつ)に対して行われた。飲酒については習慣的飲酒者ではなく、機会飲酒(週にアルコール換算で最大5g)程度であって、除外基準は安静時心拍数が100bpm以上、BMI25以上、喫煙者、心血管代謝疾患・呼吸器疾患・筋骨格系疾患の患者など。また、女性については性ホルモンの影響を回避するため、黄体期と卵胞期に該当する人も除外。

最終的に男性17人、女性15人が参加した。主な特徴は、年齢は男性20.94±2.33歳、女性22.67±3.56歳、BMIは同順に21.92±2.68、23.12±1.95であり有意差がなかった。また身長は男性のほうが有意に高かったが(1.72±0.06 vs 1.62±0.06m)、体重は有意差がなかった(65.22±7.65 vs 60.99±8kg)。

研究デザインはクロスオーバー法とした。15分間の安静のあと、トレッドミルを用い最大心拍数の50~55%で5分、60~65%で25分の有酸素運動を行い、3分間立位で休憩後、水またはビール300mLを7分以内に摂取してもらった。運動負荷前から水またはビール摂取後60分間にわたり、血圧、心拍数、心拍変動を測定した。

なお、各条件の試行前24時間は、アルコールやカフェイン摂取、激しい運動を禁止した。また、両条件の試行は環境温度22~28℃、湿度40~70%で行われ、試行時間帯は8~12時だった。

水条件とビール条件で血圧や心拍数、心拍変動に有意な差はなし

検討の結果、男性、女性ともに収縮期/拡張期血圧ともに、運動負荷後にかけて、水条件、ビール条件の双方で、運動前と比べて有意な変化がみられたポイントはなかった。心拍数については、男性、女性ともに、水条件、ビール条件の双方で、運動中は運動前後より有意に高く、運動負荷終了15分後には負荷前と有意差がないレベルに戻っていた。

心拍変動にも顕著な差は認められない

心拍数の標準偏差と、副交感神経活動を表す高周波成分(high frequency spectral component;HF)やrMSSD(root mean square of successive differences)という指標については、男性、女性ともに、水条件とビール条件で運動負荷後に上昇する傾向にあったが、条件間の顕著な違いは認められなかった。

より詳しくは、心拍数の標準偏差については、運動負荷中は男性、女性ともに、水条件、ビール条件のいずれも、運動前、負荷終了後よりも有意に低値になった。

高周波成分については、男性では水条件で、運動負荷後に測定した5ポイントのうち3ポイントで運動中より有意に高値となり、ビール条件では1ポイントのみで有意に高値となった。女性は水条件、ビール条件ともに、2ポイントで有意に高値となった。

rMSSDについては、女性は双方の条件で、負荷終了後の5ポイントすべてが運動中より有意に高値だった。男性は水条件では5ポイントすべて、ビール条件では3ポイントで有意に高値となった。

結果の解釈にはいくつかのリミテーション

以上より著者らは、「有酸素運動後の300mLのビールの摂取は安全であることが示唆される」と結論づけている。ただし、結果解釈のリミテーションとして、ビールと水の比較では無作為化したとしても盲検化は不能であること、負荷した運動量が極端に多いものではなかったこと、脱水の影響の有無を考慮していなかったことなどを挙げている。それ以外にも、冒頭に記したように、対象が日本人ではないこと、ビールの摂取量が300mLと比較的少なかったことなどにも、留意が必要といえよう。

「運動後のビールが楽しみ」という人にとって、300mLという“リミテーション”は、なかなか厳しいのではないだろうか。

文献情報

原題のタイトルは、「A Single Dose of Beer after Moderate Aerobic Exercise Did Not Affect the Cardiorespiratory and Autonomic Recovery in Young Men and Women: A Crossover, Randomized and Controlled Trial」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Oct 16;19(20):13330〕
原文はこちら(MDPI)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2024前期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ