魚油サプリで認知症リスクが低下、ただしアルツハイマー型は非有意 英国21万人超のコホート研究
魚油サプリメントを摂取している高齢者は、認知症のリスクが有意に低いというデータが報告された。ただし、認知症の原因別にみた場合、アルツハイマー型認知症については関連が非有意だという。英国の50万人以上の一般住民を対象に続けられている「UKバイオバンク」のデータを解析した結果。
待ったなしの認知症対策
人口の高齢化によって現在、認知症は世界的な公衆衛生問題として浮上している。既に世界の認知症患者数は5,000万人と推定されていて、さらに2050年までに約3倍に増加する可能性があるという。
認知症を効果的に治療可能な薬剤はいまだ存在しないことから、リスク因子を特定しそれに対する介入によって予防しようとする試みが精力的に続けられている。現在までに、運動による認知機能抑制効果のエビデンスが蓄積されてきているほか、食事・栄養関連では、魚油に豊富に含まれているエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid;EPA)やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid;DHA)などのオメガ3脂肪酸(omega-3 fatty acid;ω3FA)が注目されている。
小規模な研究ではEPAまたはDHAによる認知機能低下抑制の有望性が示されているが、結果に一貫性が欠けている。一貫性が欠如している理由の一つに、サンプルサイズが小さく、追跡期間が短い研究が大半を占めているためであることが想定される。また、EPAやDHAという栄養素と認知機能の関連でなく、魚油サプリメントの摂取量との関連を調べた研究は多くない。
このような背景から、この論文の著者は、英国で行われている50万人以上の一般住民を対象とするコホート研究「UKバイオバンク」のデータを用いて、魚油サプリの摂取状況と認知症発症リスクとの関連を検討した。
約4割が魚油サプリを利用
解析に用いたUKバイオバンクは、2006~10年に英国全土から一般住民が50万人以上登録されたコホート研究。そのうち、今回の研究では、認知症の発症例の大半が高齢者であることから、60歳未満は除外。また、ベースライン時点で既に認知症と診断されている、または認知機能の低下を自己申告した人、魚油サプリの摂取状況に関するデータがない人なども除外し、21万1,094人を解析対象とした。全体の平均年齢は64.1±2.9歳、女性が52.9%で、38.6%が大卒以上であり、97.2%が白人だった。
魚油サプリ利用者は、現喫煙者が多いこと以外、健康的
ベースラインで39.5%が、「習慣的に魚油サプリを摂取している」と回答した。
魚油サプリ摂取者は非摂取者に比べて高齢で、女性が多く、習慣的飲酒者が少なく、現喫煙者が多く、BMIが低値で、身体活動量が多く、また、脂の多い魚やアスピリン・ミネラル・その他のサプリメントの利用率が高く、高血圧や糖尿病の有病率は低かった(すべてp<0.001)。
アルツハイマー型認知症を除いて魚油サプリ摂取群で低リスク
中央値11.7年の追跡で、5,274人が認知症と診断されていた。このうち、魚油サプリ摂取群では1,984人、非摂取群は3,290人であり、発症者の割合は同順に2.4%、2.6%だった。
認知症の原因別に発症者の割合をみると、サプリ摂取群/非摂取群の順に、アルツハイマー型認知症は1.1/1.1%、血管性認知症0.5/0.6%、前頭側頭型認知症0.1/0.1%、その他の認知症1.6/1.8%だった。
アルツハイマー型認知症については有意差なし
認知症リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙・飲酒・身体活動習慣、人種/民族、教育歴、高血圧、糖尿病、降圧薬・アスピリン・脂質低下薬の服用、ビタミン・ミネラル・その他のサプリメントの利用、栄養補助食品、タウンゼント剥奪指数、世帯収入)を調整後に、魚油サプリの摂取と、原因別の認知症のリスク、および全認知症のリスクとの関連を解析。
その結果、以下に示すように、アルツハイマー型認知症を除く認知症と、全認知症については、魚油サプリ摂取群のリスクのほうが低く、非摂取群との間に有意差が認められた。アルツハイマー型認知症のリスクに関しては有意差がなかった。
血管性認知症はHR0.91(95%CI;0.84~0.97)、前頭側頭型認知症はHR0.83(同0.71~0.97)、その他の認知症はHR0.43(0.26~0.72)であり、全原因認知症はHR0.90(0.82~0.98)。アルツハイマー型認知症はHR1.00(0.89~1.12)。
性別のみ有意な交互作用が認められる
続いて、サブグループ解析を、性別、人種/民族、現喫煙、習慣的飲酒、高血圧、糖尿病、肥満、脂質低下薬の服用で層別化して実施。
その結果、有意な交互作用が認められたのは性別のみであり、全認知症(交互作用p=0.007)と血管性認知症(同0.026)は、男性でのみ、魚油サプリ摂取群が非摂取群より有意に低く、女性に関しては両群間に有意差がなかった。アルツハイマー型認知症は、男性も女性も群間差が非有意(同p=0.182)で、前頭側頭型認知症(同p=0.230)やその他の認知症(同p=0.083)については男性でのみ有意な群間差があるものの、交互作用は非有意だった。
認知症予防のための魚油サプリの適切な摂取量の検討が必要
著者らは、魚油サプリがアルツハイマー型認知症以外の認知症リスクを低下させるメカニズムとして、(1)オメガ3脂肪酸(ω3FA)の摂取は血圧などの心臓代謝の健康に有益な効果をもたらすことが既に多くの研究から示されており、血管性認知症および前頭側頭型認知症の発症に対して保護効果を発揮する、(2)ω3FAには臨床的に有益な抗酸化作用と抗炎症作用があることが証明されている、(3)魚油が血栓症を軽減し神経新生を促進することが報告されている――という3点を挙げている。
結論としては、「高齢者の習慣的な魚油の摂取は、血管性認知症、前頭側頭型認知症、およびその他の認知症などの全認知症の発症リスクと逆相関していた。ただし、アルツハイマー型認知症との有意な関連はみられなかった。これらの結果は、魚油の習慣的な摂取が認知症の予防に有益である可能性があることを裏付けている。認知症の予防に臨床的に意味のある効果を得るために必要な魚油サプリの適切な用量と期間を決定するには、今後の研究が必要」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Associations of fish oil supplementation with incident dementia: Evidence from the UK Biobank cohort study」。〔Front Neurosci. 2022 Sep 7;16:910977〕
原文はこちら(Frontiers Media)