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コーヒー好きにはサルコペニアが少ない? 交絡因子調整後も摂取量と逆相関 日本人での調査

コーヒーの摂取量が多い人にはサルコペニアが少ない可能性を示すデータが報告された。早稲田大学スポーツ科学研究センター招聘研究員・明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏らが、早稲田大学の卒業生や配偶者を対象に行われている「WASEDA’S Health Study」のデータを解析した結果であり、「The British Journal of Nutrition」に論文が掲載された。

コーヒー好きにはサルコペニアが少ない? 交絡因子調整後も摂取量と逆相関 日本人での調査

コーヒーはサルコペニアのリスクも下げるのか?

コーヒーは世界中で最も多く飲用されている嗜好品の一つ。気分転換や眠気を払ったりするために摂取されることも少なくない。さらに、コーヒーの摂取量が心血管疾患や全死亡のリスク低減と関係するといった医学的エビデンスが近年注目されている。

一方、世界的な人口の高齢化を背景に、QOLや生命予後を規定する因子として、サルコペニア予防の重要性が高まっている。コーヒー摂取が骨格筋量の低下抑制にもつながる可能性が、動物実験で示されている。ただしヒトを対象とする研究の結果は一貫性がみられない。その理由として、骨格筋量に影響を及ぼし得る肥満や運動習慣の有無などが、潜在的な交絡因子となり、研究対象によって結果に差異が生じる可能性が考えられる。

そこで川上氏らは、それらの潜在的な交絡因子に留意しながら、コーヒー摂取量と筋肉量との関連を検討した。

コーヒー摂取量と四肢筋量指数(ASMI)との関連を検討

解析対象は、「WASEDA’S Health Study」の参加者(40歳以上の早稲田大学卒業生またはその配偶者)のうち、生体インピーダンス法により骨格筋量が測定されていて、食事調査の結果など、解析に必要なデータに欠落のない2,085人。がんや脳卒中、心疾患、腎不全、肝炎・肝硬変、糖尿病の罹患者、妊娠中または授乳中、摂取エネルギー量を過少または過剰に報告した人などは除外されている。

対象者の特徴は、年齢の中央値が52歳(四分位範囲46~59歳)、男性62.2%、体脂肪率22.8%であり、日本人成人で精度検証済みの簡易型自記式食事歴法質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)で評価した摂取エネルギー量が1,867kcal/日、摂取タンパク質量は72g/日であり、余暇の身体活動量は360メッツ-分/週だった。

また、生体インピーダンス法による四肢筋量指数(appendicular skeletal muscle mass index;ASMI)は7.6kg/m2だった。このASMIは四肢筋量(kg)を身長(m)の二乗で除した値であり、サルコペニアの筋量の指標とされている。本研究では、アジアサルコペニアワーキンググループの診断基準に基づき、男性はASMI7.0kg/m2未満、女性は5.7kg/m2未満の場合に低筋量と判定した。

上記以外に交絡因子(調整変数)として、飲酒・喫煙習慣、降圧薬または脂質改善薬の服用、教育歴、婚姻状況、世帯収入、緑茶の摂取量などを、アンケートにより把握した。

低筋量に、性別、年齢、体脂肪率、身体活動量が関連

対象者のコーヒー摂取量は、週に1杯未満が10.0%、週1~3杯が10.9%、週4~6杯または1日1杯が32.6%、1日2杯以上が46.5%だった。コーヒー摂取量が最も多い群は、摂取エネルギー量や摂取タンパク質量が多く、現喫煙者が多く、降圧薬服用者が少なく、緑茶摂取量が少ないといった傾向がみられた。

ASMIで判定した低筋量の該当者は5.4%(男性4.0%、女性7.7%)だった。

低筋量該当者の特徴をみると、以下のように、高齢者で多く、男性で少なかった。また、体脂肪率や余暇の身体活動量が多いほど低筋量の該当者が少なかった。詳細な結果は、10歳高齢であるごとに低筋量に該当のオッズ比(OR)2.37(95%信頼区間;1.82~3.07)、男性は女性に比べてOR0.17(0.10~0.31)、体脂肪率は10%高いごとにOR0.35(0.24~0.50)、余暇身体活動量は100メッツ-分/週多いごとにOR0.96(0.93~0.98)。

一方、その他に評価した交絡因子である、摂取エネルギー量や摂取タンパク質量、飲酒・喫煙習慣、婚姻状況、教育歴、世帯収入、緑茶摂取量、降圧薬や脂質改善薬の服用などは、低筋量の該当との間に明確な関連が示されなかった。

コーヒー摂取量が多い群ほど低筋量の該当者が少ない

前記のすべての交絡因子の影響を調整した解析の結果、コーヒー摂取量が多い群ほど、低筋量の該当者が少ないという有意な関連が明らかになった(傾向性検定p<0.001)。具体的には、コーヒー摂取量が1週間に1杯未満の群を基準とすると、週1~3杯の群は低筋量に該当のOR0.62(0.30~1.29)、週4~6杯または1日1杯の群はOR0.53(0.29~0.96)、1日2杯以上の群はOR0.28(0.15~0.53)だった。

身体活動量の多寡、降圧薬の服用、肥満の有無などで異なる結果

全体的な解析では、上記のようにコーヒー摂取量とサルコペニア(本研究においては低筋量)の関連が示された。本研究ではこれに続き、サブグループ解析を行い、全体解析とは異なる結果となる集団の抽出を試みた。

その結果、年齢層(60歳未満/以上)や性別でのサブグループ解析では、どちらの群も全体解析と同じ結果が得られた。一方で、身体活動量の多寡や降圧薬の服用、肥満の有無では異なる結果となった。詳細は以下のとおり。

身体活動量の多い人で、コーヒー摂取のメリットが強い可能性

余暇身体活動量の多い1,100人(男性は480メッツ-分/週以上、女性は240メッツ-分/週以上)では、コーヒー摂取量が多い群ほど低筋量の該当者が少ないという(傾向性検定p<0.001)、全体解析と同様の結果だった。それに対して余暇身体活動量が少ない985人では、その関連が認められず(傾向性検定p=0.419)、群間に有意な交互作用(p=0.005)が認められた。

つまり、特に身体活動量が多い人でコーヒー摂取による筋量維持・増加作用が現れる可能性が示唆された。

降圧薬を服用している人は、コーヒー摂取のメリットが少ない?

降圧薬を服用していない1,813人では、コーヒー摂取量が多い群ほど低筋量の該当者が少なく(傾向性検定p<0.001)、その一方、降圧薬を服用している272人ではその関連が示されず(傾向性検定p=0.589)、群間に有意な交互作用(p=0.025)が認められた。ただし、この点は降圧薬服用者のサンプル数が少ないことの影響も考えられるという。

非肥満者はコーヒー摂取のメリットが強い?

非肥満者1,529人ではコーヒー摂取量が多い群ほど低筋量の該当者が少なく(傾向性検定p<0.001)、その一方、肥満者556人ではその関連がみられなかった(傾向性検定p=0.688)。ただし、交互作用(p=0.119)は非有意だった。なお、本研究では、体脂肪率が男性で25%以上、女性で30%以上を肥満と定義している。

著者らは、本研究のデザインが横断研究であることや、対象者が単一大学の卒業生と配偶者であり、一般住民から無作為に抽出されたサンプルではないといった限界点を挙げたうえで、「我々の研究から、コーヒーの摂取量が多いほど低筋量の該当者が少ない可能性が示された」と結論をまとめている。また、「この因果関係の確認のため、大規模なサンプル数での縦断的研究が求められる」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Coffee consumption and skeletal muscle mass: WASEDA'S Health Study」。〔Br J Nutr. 2022 Sep 29;1-10〕
原文はこちら(Cambridge University Press)

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