自転車競技選手のシーズン前の食事は炭水化物が不足しがち スペインのトップアスリートで調査
スペインのエリートレベルのサイクリストのプレシーズンの食事調査から、主要栄養素では炭水化物、微量栄養素ではビタミンDの摂取量が推奨量より少ないことが報告された。著者らは、シーズン中のサイクリストの食事はこれまでにも調査されてきているが、プレシーズンの本格的な調査はこれが初めてとしている。
スペインのエリートサイクリスト38人を対象に調査
この調査の対象は、スペインを拠点に活動している男性15人、女性23人、計38人のプロサイクリスト。オリンピックや世界選手権、欧州選手権などの参加選手を含む、エリートレベルのアスリートであり、同国における競技シーズンである11月になる前のトレーニングキャンプ参加中に実施された。食事の評価は、週末の1日を含む3日にわたる72時間の摂取内容を、トレーニングされた栄養士がインタビューして把握したほか、136項目の食物摂取頻度調査(food frequency questionnaire;FFQ)に基づいて行った。
研究参加アスリートの性・参加種目別の主な特徴は以下のとおり。
男性はロードが8人、クロスカントリーオリンピック(cross-country Olympics;XCO)が7人。年齢はロードが20.38±1.92歳、XCOが26.43±6.40歳で後者が有意に高齢だが(p=0.047)、BMI(同順に21.22±1.66、21.03±1.31)や体脂肪率(11.37±3.92%、8.43±2.39%)には種目による有意差はなかった。
一方、女性はロードが8人、XCOが23人。年齢はロードが21.13±2.95歳、XCOが20.07±10.24歳で前者のほうが有意に高齢で(p=0.005)、BMI(20.98±1.54、20.94±1.70)や体脂肪率(20.60±4.79%、18.85±3.06%)には種目による有意差はなかった。
主要栄養素では炭水化物摂取量が少なく、かつ女性では脂質摂取量が多い
では早速結果について、まず主要栄養素の摂取量を性別にみていく。
男性:炭水化物が少ない
男性選手の摂取エネルギー量は、ロード2,943.0±1028.7kcal、XCOは2,607.9±632.6kcalだった。この集団での推奨摂取エネルギー量は3,009.5kcalと計算され、ロードの選手はこれに近い量を摂取していたが、XCOの選手は不足の傾向がみられた。
タンパク質摂取量は、ロード1.76±0.51g/kg、XCO 1.70±0.38g/kgで推奨量を超過していた。脂質摂取量の摂取エネルギーに対する割合は、同順に35.8±7.1%、33.9±10.1%であり、ほぼ推奨範囲(20~35%)内にあった。
一方、炭水化物摂取量の摂取エネルギーに対する割合は、43.1±6.6%、45.6±12.3%であり、推奨範囲(45~60%)の下限前後の値だった。
食物繊維の摂取量はロードが32.7±15.2gであるのに対してXCOは17.6±12.4gであり、後者は推奨量(25g)を下回り、また両群間に有意に近い差が認められた(p=0.057)。
女性:炭水化物が少なく脂質が多い
女性選手の摂取エネルギー量は、ロード2,203.1±740.3kcal、XCOは2,278.2±862.0kcalだった。この集団での推奨摂取エネルギー量は2,412.3kcalと計算され、両群ともにやや不足傾向がみられた。
タンパク質摂取量は、ロード1.65±0.45g/kg、XCO 1.83±0.68g/kgで推奨量を超過していた。また、脂質摂取量の摂取エネルギーに対する割合は、43.3±6.9%、39.8±6.8%であり、両群ともに推奨範囲を超過していた。
一方、炭水化物摂取量の摂取エネルギーに対する割合は、36.6±6.7%、39.5±7.4%であり、両群ともに推奨範囲の下限を逸脱していた。
微量栄養素の摂取量と食品群別の食事量
男女ともにビタミンDが不足
微量栄養素の摂取量に関しては全体的に推奨量を満たしていたが、唯一の例外はビタミンDであり、推奨量の15μgに対する充足率は、男性のロードが44.7%と半分に満たず、XCOは26.7%と4分の1程度だった。さらに女性のロードの充足率は20.7%と5分の1程度であり、XCOも32.7%と3分の1程度だった。また、女性ではロードとXCOでカリウム、ロードでビタミンBの不足傾向がみられた。
ロード選手は魚介類の摂取量が多い
食品群別の摂取量について性別で比較すると、男性は女性に比べて卵(1.71 vs0.68サービング/日)と非加工食品(2,002.8 vs 1,218.7/日)を有意に多く摂取していた。加工食品・超加工食品の摂取量には性差がなかった。
参加種目別に比較すると、ロード群はXCO群より多くの魚介類を摂取し(1.68 vs 0.93サービング/日)、コーヒー・紅茶の摂取量が少ないという有意差がみられた(0.37 vs 1.52サービング/日)。
プレシーズンの栄養教育の重要性が浮かび上がった研究
本研究の成果として著者らは、「プロのサイクリストがシーズン前にはバランスのとれた食事を摂取していないことが明らかになった。性別や競技タイプ(種目)に関係なく、タンパク質と脂質が過剰で炭水化物が不足していた」と述べている。
これまでに実施された調査からは、シーズン中のサイクリストは推奨量を満たす炭水化物を摂取していることが報告されているという。しかし本研究によって示された結果を基に、論文には「栄養士のサポートが届きにくい、シーズン前のサイクリストは、体組成の維持のために炭水化物の摂取量を減らしている可能性がある」として、「トレーニングキャンプでの栄養教育を充実させる必要があるのではないか」と記されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutritional Habits of Professional Cyclists during Pre-Season」。〔Nutrients. 2022 Sep 7;14(18):3695〕
原文はこちら(MDPI)