プロサッカー試合後72時間の回復戦略の系統的レビュー 栄養の推奨はエビデンス不足
プロサッカー選手の試合最大72時間での回復戦略の有効性を、システマティックレビューで検討した結果が報告された。検討された5つの戦略のうちの1つとして「栄養」も含まれていたが、結論は「エビデンスが不足しており特定の推奨は困難」としている。ポルトガルの研究者の報告。
人気の回復戦略トップ5について、有効性のエビデンスを渉猟
プロサッカーは一般に1シーズンに60試合ほど行われ、月に換算すると5~6試合、通常は週に2回程度だがスケジュール次第で週に3回行われることもある。サッカー自体、運動量の多いスポーツだが、近年はレベル向上に伴い選手への要求がさらに高まりつつあり、試合後から次の試合までの短い間に、十分に回復しておく必要がある。
最近の調査によると、プロサッカー選手の回復戦略として重視されるトップ5は、睡眠、栄養、アクティブリカバリー、冷水浸漬、そしてマッサージだという。ただ、それらが人気とはいうものの、短期間での回復にどの程度寄与しているのかは十分検証されていない。そこで本論文の著者らは、システマティックレビューにより現時点のエビデンスを抽出し、エビデンスに基づく推奨の提示を試みている。
ここでは、主に栄養についてまとめられている部分を中心に紹介する。
文献検索の手法
システマティックレビューとメタアナリシスのガイドライン(PRISMA)に則して、PubMed(MEDLINE)、SPORT Discus、Scopus、ISI Web of Science、Cochrane Libraryを用いた文献検索を行った。検索キーワードとして、疲労、回復、パフォーマンス、アスリート、睡眠、栄養、アクティブリカバリー、冷水浸漬、マッサージなどを設定。2名の研究者が独立して検索とスクリーニングを行った。
適格条件は、サッカー選手の人気の回復方法(前記5種類)を運動後72時間以内に行った場合の、身体的パフォーマンス、生理学的結果(例えば筋損傷マーカー)、および知覚的な回復の評価などを対照群と比較し、査読システムのあるジャーナルに英語で発表された論文。本研究の目的はプロサッカー選手での有用性の検討だが、プロサッカー選手での研究報告は数少ないと考えられたため、研究対象者はプロ以外の他の競技のアスリートも可とした。
除外基準は、ユース選手(18歳未満)での検討、前記5種類以外の回復戦略の検討、運動中や運動終了から72時間後以降に実施された回復介入の検討、高所や暑熱環境などの特定の条件での検討などであり、かつ、栄養研究の場合、比較対照群で炭水化物を摂取している研究は、分析バイアスを避けるために除外した。
一次検索で3,472報がヒットし250の重複を削除。3,222報について、タイトルと要約に基づくスクリーニングにより3,165報を除外。ハンドサーチにより8報を追加したのち、適格条件と除外条件に照らし合わせ、最終的に39件の研究報告を抽出した。内訳は、睡眠と栄養が各3件、冷水浸漬21件、アクティブリカバリー12件、マッサージ3件だった。
運動後72時間以内の回復戦略としての栄養
栄養に関しては、2件の無作為化比較試験と1件の非無作為化比較試験が抽出され、うち2件はプロサッカー選手を対象に行われ、他の1件はアマチュアサッカー選手対象に行われていた。試合後に使用された栄養戦略は研究によって異なり、ホエイプロテイン、セミスキムミルク、高用量炭水化物などが用いられていた。ただし、いずれも特定の推奨事項を提示するにはエビデンスレベルが不十分と判断された。試合前の調整戦略としては栄養に関する研究が充実しているのに比較し、試合後の回復戦略としての栄養はさらなる研究が必要と考えられた。
実際には、プロサッカー選手においても、水分摂取、炭水化物、タンパク質、タルトチェリー、オメガ3脂肪酸、ビタミンD、クレアチンなどが、例えば最大強度の回復、筋グリコーゲン回復、筋肉痛の抑制などに有益であることを支持する報告は存在している。ただし、それらは比較対象試験でのエビデンスでないものが多く、今回のシステマティックレビューの適格条件には合致しなかった。また一部の研究は運動後72時間以内ではなく、それ以降の長期的な回復を検討しており、本研究の目的であるシーズン中のタイトな試合スケジュールでの回復という趣旨にそぐわなかった。
栄養以外の運動後72時間以内の回復戦略
睡眠に関しても、2件の無作為化比較試験と1件の非無作為化比較試験が抽出された。うち2件はアマチュアサッカー選手、1件はプロラグビー選手を対象に行われた研究だった。介入方法は、午後の昼寝、高熱伝達性のマットレスを用いた睡眠などが用いられていた。回復の効果を判断するにはエビデンスレベルが不十分と判定された。
冷水浸漬については、17件の無作為化比較試験と4件の非無作為化比較試験が抽出され、今回検討された5種類の回復戦略の中で研究件数が最も多かった。バスケットボール、ラグビー、サッカーなど多数のスポーツアスリートを対象に、さまざまな条件で介入効果が検討されていた。知覚的な回復について、有効とする一貫したエビデンスが認められた。一方、身体パフォーマンスや生理的パラメーターに関しては無効と考えられた。よって、知覚的な回復を目的に冷水浸漬を行うことは推奨される。
アクティブリカバリーに関しては、10件の無作為化比較試験と2件の非無作為化比較試験が抽出され、ハンドボール、ラグビー、フットサル、サッカーなどのアスリートで検討されていた。知覚的な回復や身体パフォーマンス、生理的パラメーターへの明確な影響はみられなかった。ただし、試合後の積極的なアクティブリカバリーによって、本人やチームのモチベーションが向上する可能性が考えられた。
マッサージについては、3件の無作為化比較試験の報告があり、2件はプロバスケットボールで、1件はアマチュアスポーツで行われていた。知覚的な回復には有効と考えられるエビデンスがあり、推奨される。
結論の中で著者は、「全体として、サッカーの試合後の回復戦略の採用をサポートするために、より高い品質の研究が求められる」と記している。
文献情報
原題のタイトルは、「Analysis of Recovery Methods’ Efficacy Applied up to 72 Hours Postmatch in Professional Football: A Systematic Review With Graded Recommendations」。〔Int J Sports Physiol Perform. 2022 Aug 11;1-17〕
原文はこちら(Human Kinetics)