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スポーツ栄養や健康のためのA2ミルクのメリット

ふつうの牛乳を飲むとおなかを壊すという乳糖不耐症の人が日本には多い。A2ミルクは、そのような症状の発現が少ないことが知られており、牛乳が苦手なアスリートでも摂取できる可能性が高い。今回は、A2ミルクのメリットをまとめた、トルコの研究者らのレビュー論文を紹介する。

スポーツ栄養や健康のためのA2ミルクのメリット

牛乳の優れた栄養バランスを保ちながら、消化器症状などの出現を抑制

牛乳は豊富な栄養成分を特徴として、アスリートの健康とパフォーマンスに大きなメリットをもたらす。タンパク質、脂質、アミノ酸、ミネラルが豊富で、持久力や筋力、回復におけるメリットを示すエビデンスが少なくない。その一方で、多くのアスリートは、牛乳の摂取後に胃腸の問題に悩まされ、牛乳を摂取できない。通常の牛乳に多く含まれているA1β-カゼインは消化が容易でないためだ。

これに対して、A1β-カゼインの代わりにA2β-カゼインを含むA2牛乳は、同じ栄養成分を持つ通常の牛乳の代替品となり、消化器症状発現リスクが低い。また、通常のミルクの摂取との関連が指摘されている、心血管疾患や1型糖尿病のリスクにも影響を及ぼさない可能性がある。

A1ミルクとA2ミルクの栄養成分の比較

牛乳の組成は、約87%が水分で、乳糖、脂質、タンパク質、ミネラルなどが13%含まれている。乳タンパク質は、20%のホエイと80%のカゼインで構成されており、優れたアミノ酸バランスをもち重要な生物学的役割を発揮するカゼインには、45%のβ-カゼインが含まれている。A1およびA2ミルクのβ-カゼイン濃度は、それぞれ8.59および8.02mg/mLだ。タンパク質、脂質、炭水化物、その他の含有量に関しても、A1およびA2ミルクはほぼ同等である。

多くのアスリートがA1ミルクを摂取したときに経験する消化器症状は、BCM-7ペプチドと関連していることが報告されている。A2ミルクにはこれが含まれていないため、そのような健康上の懸念を引き起こす可能性が低い。また、複数の疫学研究および臨床研究から、BCM-7は消化器症状だけでなく、1型糖尿病、虚血性心疾患、神経疾患との関連性が報告されている。

アスリートのパフォーマンスと健康に対するA1ミルクとA2ミルク

アスリートはトレーニング後に、なるべく短時間での回復を必要とする。牛乳の摂取が回復を促進することが報告されているが、乳糖不耐症のアスリートはこのメリットを得ることができず、牛乳以外の食品やサプリメントで補わなければならない。それに対してA2ミルクが、適切な代替品になると考えられる。

現時点で、A2ミルクと通常のミルクとを比較し、筋力、スピード、持久力などのパフォーマンスへの影響が異なるのかを検討した研究は行われていない。ただし、A2ミルクは通常のミルクと同じ栄養価を有しているため、アスリートのパフォーマンスに対し同様のプラス効果をもたらす可能性がある。

パンフォーマンス関連指標への影響

パフォーマンスへの影響を直接比較したものではないが、スポーツパフォーマンスにとって重要な筋損傷と回復に焦点を当てた研究が報告されている。20mスプリント、垂直跳びなどによる筋損傷に対するA1ミルクとA2ミルクの影響を比較したところ、両者で同等の回復が認められたという。また、チョコレートミルクを対照とした別の研究からも、回復への影響は同等と報告されている。

さらにA2ミルクは、持久力のパフォーマンスやストレス耐性への好影響が期待されるとする基礎研究の報告もある。

消化器症状への影響

消化器症状はアスリートの最大70%に発生しているとの報告がある。A1ミルクはその消化中に消化器症状を惹起することが複数の研究で確認されている。例えば、便の性状を判定するブリストルスケール(Bristol scale;BS)を評価に用いた研究では、A1ミルクの摂取量がBSスコアの変化と正相関(r=0.52)すると報告されている。一方、A2ミルクの摂取量ではこの相関は観察されなかったとのことだ(r=-0.13)。別の研究では、乳糖不耐症の被験者がA2ミルクを摂取すると、不耐症の症状が大幅に抑制されたとしている。

一般に、A1ミルクの摂取はBCM-7に関連する消化器症状が引き起こされると考えられているが、上記以外の複数の研究から、BCM-7を含まないA2ミルクではそのような影響は示されていない。よってA2ミルクは、消化器症状を引き起こすことがなく、アスリートにとって好ましい飲料であると考えられる。

1型糖尿病、心血管疾患、神経疾患との関連

A1ミルクの摂取が1型糖尿病発症リスクを高める可能性については、長年議論が続いている。動物実験では、A1ミルクとA2ミルクの摂取がともに1型糖尿病のリスクの高さと関連があることが示されている。ただし、高感受性ラットではA1ミルクの摂取がよりリスクを高める可能性がある。

ヒトでの研究では、A1ミルクの摂取量と1型糖尿病リスクが正相関するとする研究や、人口1人あたりのA1ミルク摂取量が最も多いフィンランドとスウェーデンでは1型糖尿病罹患率が高く、反対にA1ミルク摂取量が最も少ないベネズエラと日本では罹患率が低いといった、19カ国の比較研究の報告がある。

このほか、A1ミルク摂取と心血管疾患や神経疾患との関連が長く議論されてきているが、A2ミルクはそれらのリスクに影響を及ぼさない可能性を示唆する複数の研究報告が存在する。

アスリートのためのA2ミルクベースの食事

論文ではこれらのレビューのうえで、結論を以下のようにまとめている。

乳糖不耐症のアスリートは、日常の食事からA1ミルクとそれを利用した製品を排除して、代わりにオーツミルクなどの非乳製品を摂取していることがある。しかし、それらの植物ベースの食品には、牛乳に含まれている栄養成分と同等の健康上のメリットは期待できない。それに対してA2ミルクとそれを利用した製品は、通常のミルクとほぼ同じ栄養成分であり、多くの健康上のメリットを期待できる。

A2ミルクと、チーズからヨーグルトなどのその派生製品は、今後、より多くの人々にとって健康的でバランスのとれた食事の重要なパートとして浸透していくだろう。ただし、通常の牛乳とA2牛乳が、アスリートのパワー、速度、持久力などのさまざまな身体能力に及ぼす影響の違いの有無が、完全に解明されたわけではない。今後のin vitroおよびin vivoの研究の進展が望まれる。

文献情報

原題のタイトルは、「Benefits of A2 Milk for Sports Nutrition, Health and Performance」。〔Front Nutr. 2022 Jul 13;9:935344〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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