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死亡リスクが最も低い歩数は1日何歩? 歩行速度は関係ある? 15件の研究のメタ解析

15件の研究データに基づき、1日あたりの歩数と死亡リスクとの関連を解析した結果が報告された。性別、年齢層別での検討や歩行速度などとの関係も、メタ解析により示されている。著者らは、「今後の公衆衛生施策に向けて、歩数に関する身体活動のガイドライン策定に利用可能なデータを得られた」と述べている。

死亡リスクが最も低い歩数は1日何歩? 歩行速度は関係ある? 15件の研究のメタ解析

「1日1万歩」は、日本の企業のマーケティングキャンペーンから始まった

この論文の冒頭には、「1日1万歩の歩行が健康に良いと言われるが、これを裏付けるエビデンスは乏しい」と述べられている。著者によると、この「1日1万歩」というフレーズは、日本の企業によるマーケティングキャンペーンに端を発するものに過ぎないとのことだ。とは言え、1日あたりの歩数が健康転帰と関連のあることは、複数の疫学研究で明らかになっている。ただし、研究間の異質性が大きく、また、性別や年齢を加味した研究報告は限られているという。

これまでのところ、身体活動に関する公的ガイドラインに歩数に関する推奨はない。しかし近年、専用の歩数カウンターのみでなく、スマートフォンのアプリなどのモバイルデバイスが広く普及し、歩数のモニタリングが従来に比べて格段に容易になり、公衆衛生戦略の最も簡便な指標として、歩数に関する推奨を行うことが期待される。

このような背景のもとで著者らは、これまでの研究データを統合しそのメタ解析により、歩数と全死亡(あらゆる原因による死亡)リスクとの関連を検討した。

15件の縦断研究を特定してメタ解析

まず、文献データベースのMEDLINE(PubMed)、Embase、CINAHL、およびコクランライブラリーを用いたシステマティックレビューを実施。18歳以上の成人を対象に歩数と死亡を含む健康転帰との関連を検討した縦断研究を適格条件として検索した結果、5件の研究報告を抽出した。しかしメタ解析を施行するにはデータが不十分と判断され、論文著者らの認識に基づき、現在進行中の研究も含め、計15件の研究データを特定した。なお、追加した研究も、システマティックレビューの際に設定されていた適格条件を満たしていた。

メタ解析の対象とした研究の特徴

15件の研究のうち7件は論文発表済みで8件はメタ解析施行時点で未発表だった。米国での研究が8件、欧州が4件、日本とオーストラリアが各1件、他の1件は40カ国のデータを解析したものだった。すべての研究は1999年以降、2018年の間に開始されていた。

研究参加者数は合計4万7,471人で、平均年齢65.0±12.4歳、68%が女性、7割強が白人だった。ニューキャッスルオタワスケールによる品質評価は、9点満点中7~9点であり、高品質の研究が多くを占めていた。

7,000~9,000歩が最も死亡リスクが低い

1日あたりの平均歩数の中央値は6,495歩(同4,273~8,768)であり、年齢層別にみると60歳未満は7,803歩(5,377~1万352)であり、60歳以上の5,649歩(3,686~8,092)よりも有意に多かった(p=0.033)。29万7,837人年、期間中央値7.1年(四分位範囲4.3~9.9)の追跡で、3,013人の死亡が発生し、1,000人年あたりの死亡率は10.1だった。

歩数と死亡リスクとの関連は、以下の二つのモデルで検討された。モデル1は年齢と性別を調整し、モデル2では年齢と性別のほかに、BMI、飲酒・喫煙習慣、人種/民族、教育歴、収入、慢性疾患(糖尿病、高血圧、心血管疾患、癌など)、歩数計の装着時間などを調整した。

60歳未満は7,000~1万歩、60歳以上は6,000~8,000歩が最低リスク

歩数は死亡リスクと非線形の用量反応関係が認められた。全体では約7,000~9,000歩の人の死亡リスクが最低で、年齢層別では、60歳未満は約8,000~1万歩、60歳以上では約6,000~8,000歩の人の死亡リスクが最低だった(交互作用p=0.012)。性別での層別解析は有意な交互作用が確認されず、男性と女性で同様の結果だった。

歩数の上位25%は下位25%に比較し死亡リスクが半減

歩数の四分位数で4群に分けると、第1四分位群の歩数は中央値3,553歩、第2四分位群5,801歩、第3四分位群7,842歩、第4四分位群1万901歩だった。

第1四分位群(歩数の少ない下位25%)を基準とした他の群の死亡リスクは、第2四分位群はHR0.60(95%CI;0.51~0.71)、第3四分位群HR0.55(同0.49~0.62)、第4四分位群HR0.47(0.39~0.57)であり、すべて有意に低リスクであって、とくに第4四分位群(歩数の多い上位25%)は53%のリスク低下がみられた。

歩数の多いピーク時30分または60分間の歩数が多いと、よりリスク低下

15件中7件の研究は、歩数の多いピーク30分間の歩数と死亡リスクとの関連を解析可能なデータを有していた。そのメタ解析の結果、第2~4四分位群のすべてで有意な死亡リスク低下が認められ、さらに1日の歩数で調整してもその関連は有意だった。

同様に、歩数の多いピーク60分間の歩数と死亡リスクとの関連を解析可能なデータを有していた6件の研究のメタ解析からも、1日の歩数で調整後にも第2~4四分位群のすべてで有意な死亡リスク低下が認められた。

つまり、歩行速度の速さも死亡リスクの低下に関連している可能性が示唆された。ただし著者らは、「歩数が多いことによる死亡リスクの低下というメリットに、歩行速度が速いことによるメリットが上乗せされるのかという点について、われわれの研究は決定的な結果を示していない」と考察として述べている。

早く歩く時間の長さは、あまり重要でない可能性

一方、1分間に40歩以上の速度で歩く時間の長さと死亡リスクとの関連は、1日の歩数で調整しない場合、その時間が長いほど死亡リスクが低いという関連が、5件の研究のメタ解析の結果、認められた。しかし1日の歩数で調整すると、有意な関連が消失した。

同様に、1分間に100歩以上の速度で歩く時間の長さと死亡リスクとの関連は、1日の歩数で調整しない場合、その時間が長いほど死亡リスクが低いという関連が認められたが、1日の歩数で調整後には明確な関連が示されなかった。

よって、1日の歩行による運動量、および、速く歩ける身体能力が死亡リスク低下に関与している可能性があるものの、速く歩く時間の長さはあまり関係がない可能性がある。

著者らは、「高齢者では、一般的に言われてきた『1日1万歩』よりも少ないレベルで、死亡リスク低下効果が頭打ちになるようだ」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Daily steps and all-cause mortality: a meta-analysis of 15 international cohorts」。〔Lancet Public Health. 2022 Mar;7(3):e219-e228.〕
原文はこちら(Elsevier)

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