乳製品の摂取量が多い集団においては、高脂肪乳の摂取量が多いと「うつ」リスクが低くなる可能性
日本などの乳製品の摂取量があまり多くない国では、低脂肪乳製品の摂取量が多いことがうつリスクの低さと関連のあることが報告されている。しかし、乳製品の摂取量が多い集団では、むしろ高脂肪乳製品の摂取量が多いことが、うつリスクの低さと相関する可能性を示唆する研究結果が報告された。フィンランド発の報告。
日本やイランでは「低脂肪乳」の摂取量との関連が示されている
乳製品はタンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルが豊富で、多くの国や地域の住民の栄養改善に役立っている。ただし、乳製品に含まれている脂質が心血管疾患(Cardiovascular disease;CVD)イベントのリスクを押し上げるのではないかとの危惧から、低脂肪の乳製品の摂取を推奨しているガイドラインも複数存在する。一方で、全脂肪乳製品の摂取量とCVDリスクとの間に関連はないとする報告もある。
他方、今日、うつ病は世界的な健康問題となっており、3億人が影響を受けていると推定されている。乳製品の摂取がうつリスクに影響する可能性を示した研究結果も報告されている。しかしそれらの研究結果は一貫性がなく、また、全脂肪乳と低脂肪乳に分けてうつリスクとの関連を検討した研究は、日本とイランからの各1件にとどまる。それら2件の研究では、いずれも低脂肪乳製品の摂取量の多さがうつリスクの低さと関連していると報告された。ただ、日本やイランは国民の乳製品摂取量が欧米諸国に比較して少ない。さらに、発酵乳製品との関連は明らかでない。
以上を背景として、今回紹介する論文の著者らは、フィンランドに住み、乳製品の摂取量が多い集団を対象に、乳製品とうつリスクとの関連を、脂肪含有量の多寡や発酵状態の違いを考慮して検討した。
フィンランドの一般住民1,600人を対象に解析
解析には、フィンランド中部に位置するクオピオの地域住民を対象に実施された、虚血性心疾患のリスク因子探索のための疫学研究のデータが用いられた。食習慣およびうつ状態に関するデータが欠落している人を除外した1,600人(62.5±6.4歳、女性51%)を解析対象とした。
平日3日、休日1日、計4日の食事記録を基に、栄養士が食事摂取量を分析。乳製品に関しては、脂肪含有量が3.5%以上を「高脂肪」、3.5%未満を「低脂肪」と定義した。うつ状態は、米国精神医学会の診断マニュアルの3版(DSM-3)のうつ病診断スコアで5点以上、または抗うつ薬が処方されている場合に「うつ病」と定義した。
その他、共変量として、年齢、性別、BMI、社会経済的地位、摂取エネルギー量、果物・ベリー・野菜の摂取量、およびCVDの既往を把握した。
高脂肪乳製品、高脂肪の非発酵乳製品の摂取量が多いほど、うつリスクが低い
解析対象者の総乳製品摂取量は、中央値448g/日(四分位範囲284~631)だった。低脂肪乳製品は中央値366g/日であり、高脂肪乳製品の51g/日の7倍以上多かった。高脂肪乳製品の摂取量の66.6%は高脂肪牛乳で占められ、次いで高脂肪チーズの28.9%だった。一方、低脂肪乳製品の摂取量の68.4%は低脂肪乳で占められていた。
なお、参考までに、厚生労働省「国民健康・栄養調査」の2017年の統計をみると、「乳類」の摂取量が135.7g/日と報告されており、日本人の乳製品摂取量はフィンランド人の3分の1に満たないことがわかる。
1,600人中166人(10.4%)が「うつ状態」と判定された。判定方法の内訳は、121人がDSM-3スコアによるもの、29人は抗うつ薬の処方によるもので、16人は両者に該当した。
乳製品の摂取量の三分位で3群に分けて、うつリスクとの関連を検討
総乳製品、高脂肪乳製品、低脂肪乳製品、高脂肪の発酵乳製品、低脂肪の発酵乳製品、高脂肪の非発酵乳製品、低脂肪の非発酵乳製品という7つのカテゴリーの摂取量それぞれの三分位で3群に分類し、うつリスクとの関連を検討した。
解析は、共変量未調整の「粗モデル」、年齢、性別、摂取エネルギー量を調整した「モデル1」、モデル1に加えてBMI、果物・ベリー・野菜の摂取量、社会経済的地位、CVDの既往という評価したすべての共変量を調整した「モデル2」で行い、第1三分位群を基準にうつリスクのオッズ比を算出した。
有意な関連が認められたカテゴリーは、以下のとおり。
高脂肪乳製品
モデル2、3で、摂取量の多さとうつリスクの低さとの間に有意な関連がみられた(傾向性p値が、同順に0.03、0.04)。モデル3での第3三分位群はOR0.64(95%CI;0.41~0.998)。
高脂肪の非発酵乳製品
未調整モデル、およびモデル2、3で、摂取量の多さとうつリスクの低さとの間に有意な関連がみられた(傾向性p値が、同順に0.03、0.03、0.02)。モデル3での第3三分位群はOR0.60(95%CI;0.39~0.92)。
低脂肪の非発酵乳製品
モデル2で、摂取量の多さとうつリスクの高さとの間に有意な関連がみられた(傾向性p=0.049)。ただし、モデル3では非有意だった(傾向性p=0.08)。これら以外の、総乳製品、低脂肪乳製品、高脂肪の発酵乳製品、低脂肪の発酵乳製品に関しては、検討した3種類のモデルすべてで、摂取量の多寡とうつリスクとの間に有意な関連がみられなかった。
日本やイランでの研究と異なる結果の理由の考察
これらの結果をもとに著者らは、「フィンランドの中高齢者を対象としたこの人口ベースの横断研究では、高脂肪乳製品の摂取量が多いこと、および高脂肪の非発酵乳製品の摂取量が多いことが、うつリスクの低下と関連していた。多くの食事ガイドラインが低脂肪乳製品の摂取を推奨しているが、我々の研究結果は、高脂肪乳製品がうつリスクの抑制にメリットをもたらす可能性があることを示唆している。乳製品が世界的に広く摂取されており、また、うつの疾病負担が増加していることから、これらの関連を裏付けるための縦断的研究が求められる」と結論している。
なお、先述のように、日本やイランでは高脂肪ではなく、低脂肪の乳製品の摂取量の多さがうつリスクの低さと関連しているとする研究結果が報告されている。今回の研究結果との相違の背景として著者らは、サンプルサイズの違い(本研究が1,600に対して日本の報告は1,159、イランは230)、乳製品の摂取量が大きく異なること、低脂肪乳製品の摂取量も本研究のほうが日本やイランより2倍以上多いこと、食事評価ツールの違い、高脂肪と低脂肪の定義の違いなどの影響ではないかとの考察を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Associations between total dairy, high-fat dairy and low-fat dairy intake, and depressive symptoms: findings from a population-based cross-sectional study」。〔Eur J Nutr. 2022 Aug 10〕
原文はこちら(Springer Nature)