多価不飽和脂肪酸(PUFA)の摂取が日本人高齢者の認知機能の維持に関連 縦断研究のエビデンス
日本人高齢者を対象とした研究から、脳体積と多価不飽和脂肪酸(PUFA)の摂取量との間に有意な関連のあることが報告された。国立長寿医療研究センターとサントリーウエルネス株式会社の共同研究の成果であり、「Neurobiology of Aging」に論文が掲載されるとともに、同研究センターのサイトにプレスリリースが掲載された。DHA、EPA、ARAの摂取量が多いと、認知機能に関わる側頭皮質や前頭皮質などの局所脳体積の減少が抑制される可能性があるという。
魚の摂取量が多い日本人でもPUFAが脳体積に影響するか?
この研究は、国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(National Institute for Longevity Sciences-Longitudinal Study of Aging;NILS-LSA)のデータを縦断的に解析したもの。NILS-LSAは、愛知県大府市・東浦町の地域住民から性・年代別に層化無作為に選出された40歳以上の中高年者を対象に、医学・心理・運動・身体組成・栄養など多角的な観点から老化・老年病予防策を検討するコホート研究。
魚、卵、肉などの食品から日常的に摂取される多価不飽和脂肪酸(poly-unsaturated fatty acid;PUFA)のドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid;DHA)やアラキドン酸(arachidonic acid;ARA)は、脳のリン脂質の主要な構成成分であり、加齢により脳内の量が減少することが知られている。また、高齢者ではこれらのPUFAを補うことにより、注意、作業記憶などの認知機能が維持される可能性が報告されている。
一方、加齢に伴う認知機能低下に先行する現象として、脳体積の減少が注目されており、DHAやエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid;EPA)の摂取と、認知症でない高齢者での脳体積維持との関連について、近年、複数の研究報告がある。しかし、これらの報告は魚介類の摂取が少ない欧米諸国からの報告であり、食事からのDHAやEPAの摂取量が多い日本などの国での研究報告はない。さらに、ARAの摂取量と脳体積に着目した研究もこれまでに報告されていない。
PUFAの摂取量と脳体積、認知機能との関連が示される
研究グループでは、NILS-LSA第6次調査(2008~10年)の参加者のうち、認知症の既往や認知機能障害の疑いがなく、頭部MRI測定をはじめとした解析に必要な項目を有する60~89歳の男女810名を対象に、2008~10年(ベースライン)時のPUFAの摂取量と2年間の局所脳体積の変化量との関連を縦断的に解析した。脳体積は3次元MRI画像をもとに縦断FreeSurfer(脳体積を領域ごとに計測できるソフトウェア)を用いて算出した。
その結果、日本人の集団において、ARAの摂取量が多いと前頭皮質の体積変化量の減少が小さく(図1)、認知機能低下のリスクも低いことが見い出された。
図1 前頭皮質の体積変化量(n=810)
さらに、DHAやEPAの摂取が少ない集団でのサブグループ解析においては、DHAやEPAの摂取が多いと側頭皮質の体積変化量の減少が小さいことが明らかとなった(図2)。
図2 側頭皮質の体積変化量(n=267)
この結果は、魚介類の摂取が少ない国からの報告と同じ傾向を示している。これらの結果より、多価不飽和脂肪酸(PUFA)であるDHA、EPAおよびARAの摂取は、加齢に伴う局所脳体積の減少を抑制し、高齢者の脳の健康の維持につながる可能性が考えられる。
研究グループでは、「DHAとEPAの摂取量が多い日本人高齢者の集団にて、多価不飽和脂肪酸の摂取量と局所脳体積との関連を世界で初めて示した。またこの研究は世界的にも、過去の同様の縦断研究と比べると最も規模が大きい研究。今後も観察研究を継続することで日本人における多価不飽和脂肪酸と脳体積変化との関係性が、より明らかとなることが期待される」としている。
プレスリリース
日本人高齢者において脳体積の維持に多価不飽和脂肪酸(DHA・EPA・ARA)の摂取が関連することを初めて報告(国立長寿医療研究センター)
文献情報
原題のタイトルは、「The association between long-chain polyunsaturated fatty acid intake and changes in brain volumes among older community-dwelling Japanese people」。〔Neurobiol Aging. 2022 Sep;117:179-188〕
原文はこちら(Elsevier)