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名作映画『ロッキー』は正しかったのか? 筋タンパク質再合成を、ゆで卵と生卵で比較した研究

トレーニングを行っている若年男性を対象に、ゆで卵を摂取した場合と生卵を摂取した場合とで、筋タンパク再合成への影響が異なるのかを検討した研究結果が報告された。論文の副題には「Did Rocky Get It Right or Wrong?」とされている。「ロッキーは正しかったのか、間違っていたのか」ということだが、果たして研究結果はどうだったのだろう。

名作映画『ロッキー』は正しかったのか? 筋タンパク質再合成を、ゆで卵と生卵で比較した研究

まずは、「ロッキーは正しかったのか?」の意味を理解できない人のために

最初に、映画『ロッキー』をご存じない世代の方もいると思うので簡単に触れておく。

『ロッキー』は1976年に第一作が公開された米国映画で、主演のシルヴェスター・スタローンがボクサーとして活躍するストーリー。生卵5個を一気飲みするシーンが有名で、このシーンは、筋肉をつけるために卵を摂取するという今日でもボディービルダーなどの一部で行われている習慣の‘はしり’と言える。

本論文の主題は、「筋タンパクの再合成に生卵とゆで卵で差異はあるか?」であり、結果的に、ロッキーが筋肉をつけるために生卵を飲むという行為は正しかったのか?、ゆで卵のほうがよかったのではないか?、との疑問の答を探る研究と言える。実際、論文の末尾は、この疑問への答で結ばれている。

では、研究内容の紹介に移ろう。

45人のトレーニングを行っている若年男性で検討

この研究は、ふだんレジスタンストレーニングを行っている健康な若年男性を3群に分けて、無作為化並行群間比較試験として行われた。研究参加の適格条件は、年齢18~35歳、BMI18.5~30、非喫煙者で疾患を有しておらず、食物アレルギーがなく、習慣的に(週に2回以上)筋力トレーニングを行っていること。

平均年齢24歳の45人が採用され、無作為に各群15人、計3群に分けられた。年齢やBMI、体脂肪率、除脂肪体重、および下肢、上肢、ベンチプレスなどの1RM(repetition maximum.1回だけ施行可能な最大負荷量)は、群間に有意差がなかった。また、食事記録から把握した摂取エネルギー量、栄養素バランスも群間に有意差がなかった。

試験日の前日に研究室を訪問してもらい、夕食は標準化されたメニューを摂取してもらった(1,900kJ〈454kcal〉、炭水化物69.3g、タンパク質24.6g、脂質19.1g)。また3日前からはアルコール摂取と激しい身体活動を控えてもらった。

研究室内で就寝し、ひと晩の絶食後、午前8時から試験を開始。2時間半の仰臥位での休息後に採血および、針生検により下肢外側広筋の検体を採取。続いて自転車エルゴメーターを用いて、15分間のウォーミングアップの後、80%1RMで8~10回を4セット、および、チェストプレス、ショルダープレスなどを80%1RMで8~10回を2セット行ってもらった。

運動終了直後、および、15、30、45、60、75、90、120、150、180、240、300分後に採血するとともに、120、300分後には外側広筋を採取した。筋生検は、ベースラインと運動120分後は同じ足、運動の300分後は別の足で行った。

なお、採血はベースライン(運動負荷終了、食事開始)の210分前、120分前、60分前にも行った。

運動終了直後の3群の摂取内容

運動終了直後に朝食として、各群それぞれ以下の食事または卵を摂取してもらった。

まず比較対照群は、クロワッサンと10gのバター、350mLのオレンジジュースで、1,650kJ(394kcal)、炭水化物47g、タンパク質5g、脂質20g。ゆで卵群および生卵群は、それぞれ5個の卵で、1,400kJ(335kcal)、炭水化物0g、タンパク質30g、脂質23g。卵を摂取する2群は、300mLの水を飲むことができた。

血漿アミノ酸レベルには有意差が生じるが、筋タンパク合成率は変わらない

それでは結果をみていこう。

血漿アミノ酸濃度は、ゆで卵のほうが高値

血漿中のロイシンの濃度は、ベースライン前(運動負荷が終了し食事を開始する前)、210分前、120分前、60分前では3群間に有意差はなかった。また、クロワッサンを食べた対照群では食後(運動負荷終了後)300分まで有意な変化がなかった。

それに対して、ゆで卵、生卵を食べた両群は、食後15~300分まで、すべての時点で対照群より有意に高い値で推移していた。さらに、ゆで卵群と生卵群の比較では、食後30~180分後にかけて、ゆで卵群のほうが有意に高い値で推移していた。

血漿中の総必須アミノ酸濃度、総非必須アミノ酸濃度、総アミノ酸濃度についても、有意のみられた時間帯は異なるものの、ゆで卵群のほうが生卵群よりも高値で推移していた。

なお、血糖値とインスリンは、対照群でのみ、食後15~60分に有意な上昇が認められた。

筋タンパク合成率は、ゆで卵と生卵と有意差なし

次に、筋タンパク合成率をみてみると、3群ともすべて食後に筋タンパクの合成率が有意に上昇した。食直後から300分までの筋タンパク合成率は、クロワッサンを摂取した対照群に比べて、ゆで卵または生卵を摂取した群は約20%高かったが、有意水準には至らなかった。また、ゆで卵群と生卵群はほぼ同レベルで有意差はなかった。

既に十分量のタンパク質を摂取していれば、生かゆでかは問題にならない可能性

結果をまとめると、ゆで卵5個を摂取した場合、生卵5個に比べて血漿中のアミノ酸濃度は有意に高くなった。しかし、筋タンパク再合成には有意差かなかった。

この結果の要因について著者らは、「推測にとどまる」と述べたうえで、5個の卵で計30gという十分な量のタンパク質を摂取した場合、血漿中のアミノ酸濃度がさらに高くなったとしても、筋タンパクの合成をより強く刺激することはないのではないか、との考察を加えている。そして、生で食べるかゆでて食べるかは、「個人の好みで判断してよいのでは」と述べている。

ただし、この点は日本ではほとんど問題にならないが、生卵を食べることにはサルモネラ菌感染のリスクがわずかながら付きまとうため、そのリスクの完全な排除のためにはゆでて食べたほうがよいと記されている。

論文の結語は、「ロッキーは、ゆで卵でも食後の筋タンパク合成に役立つことを知らなかったようだが、彼がゆでていない卵を食べたことで、そのメリットが損なわれたわけではない」とされている。

文献情報

原題のタイトルは、「Raw Eggs to Support Post-Exercise Recovery in Healthy Young Men: Did Rocky Get It Right or Wrong?」。〔J Nutr. 2022 Aug 9;nxac174〕
原文はこちら(Oxford University Press)

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