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「子どもたちの身体活動量を維持すること」は、地球温暖化を防ぐ重要な対策の一つ

地球温暖化が自然災害の増加、食料生産の変化、居住地域の減少、人々の健康への負荷など、さまざまな影響を引き起こす可能性が指摘されている。それらのうちいくつかは、既に人々が実際の変化に気付き始めている事象もある。そしてさらに、子どもたちの身体活動量が減ることへの対策の必要性を訴えるレビュー論文が発表された。スロベニアの研究者によるもの。要旨を抜粋して紹介する。

「子どもたちの身体活動量を維持すること」は、地球温暖化を防ぐための重要な対策の一つ

イントロダクション

世界人口の大半は非寒冷地域に居住している。そのため、気温の上昇が多くの人々に影響を及ぼし始めている。2011~2020年の10年間で生じた地球の表面気温の上昇幅は、1850~1900年の50年間で生じた上昇幅を1.09度上回ると推定されている。2100年までに少なくとも2度の上昇が見込まれており、生態系バランスの変化と極端な気象現象が多発すると予測されている。例えば山林火災、洪水の頻発、新興感染症のパンデミックなどだ。

子どもの体温調節機構は成人ほど研究されていない

また、このような急速な気温の上昇はヒトの適応能力の限界を超えており、気温が上昇することで人々の身体活動が減少すると考えられる。とくに適応能力が成人に比べて弱い、子どもたちにそのような変化の影響がより大きく表れることが危惧される。

子どもは、よく言われるように“小さな大人”ではなく、暑熱環境に対する反応も成人とは異なる。体重あたりの体表面積が大きいため、環境温度の変化を受けやすいほか、発汗率が低いことが知られている。ただし、子どもの体温調節機構は成人での研究に比べて十分行われておらず、不明な点も少なくない。

さらに、例えば託児所のスタッフを対象として実施された調査からは、スタッフは自分の熱ストレスは正確に評価できたが、子どもたちの体温を測定するといった行動はとっていないことが多いと報告されている。これは子どもに熱中症リスクをもたらすと言える。

今の子どもと昔の子ども

肥満の増加で熱ストレスの問題がより大きくなっている

現在の子どもたちは以前の子どもたちよりも健康状態が悪化し、肥満が増え、とくに過去30年間で大きく変化した。そして肥満の状態では、暑熱環境によるストレスをより大きく受ける可能性がある。

タイのバンコクで5.5~12歳の457人の男子生徒を対象に、屋外での体育授業中の鼓膜温の変化を調査した研究結果が報告されている。気温33.9度、相対湿度48.5%という環境での午後の授業中、過体重の生徒では鼓膜温が38度に達した割合が、普通体重の生徒の2.1倍だったという。

また、米国の47の小児病院で行われた研究からは、猛暑日には救急外来受診者数が増加し、その疾患は熱関連疾患だけでなく、細菌性腸炎、寄生虫疾患、種々の感染症、神経系疾患などで有意な受診者数の上昇が認められたとのことだ。

日本からは、2009~2018年に高校生のスポーツに伴う死亡事故のうち22.2%が熱中症によるものだというデータが報告されている。とくに1日に2回、トレーニングセッションが行われた時に、熱中症による死亡リスクが高いとしている。

27カ国の6~19歳の子ども・青年を解析対象とした研究では、1958~2003年にかけて、年-0.36%の速度で有酸素運動能力が低下してきたと推計されるとする報告もみられる。

暑いから外で遊べないために、暑熱環境への適応が遅延する

有酸素運動能力が高いほど暑熱環境への耐性が高いことが報告されている。よって、子どもたちが外で遊ぶことが、暑熱環境への適応につながると考えられる。しかし、温暖化による気温の上昇は、子どもたちが外で遊ぶことを危険にさらし、それを避けざるを得ないことを増やす。結果として、子どもたちが暑熱環境に適応することがより困難になる。

一方、暑熱環境で熱中症リスクを抑制するためには、脱水を避けることが重要だ。しかし子どもたちは屋外での遊びに熱中すると、木陰に入って暑さを一時的にしのいだり、水を飲むといったことをしなくなりがちだ。水分摂取に関しては、純水ではなく、風味を加えた水分を子どもに持たせると、水分摂取頻度が上昇するという研究結果がみられ、一つの対策として利用できるだろう。

なお、気温の上昇局面で成人は1週間以内に暑熱馴化が可能とされている。それに対して子どもの暑熱馴化はより緩徐に進むことがわかっている。ただし、詳細な研究はなされていない。

今わかっていることと今後の研究

論文では、上記のほかに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い、人々の身体活動量が減少したこと、その子どもへの影響、将来の新興感染症のリスクと身体活動量のさらなる低下の懸念など、地球温暖化による子どもの身体活動や健康への影響をさまざまな角度から考察している。論文の末尾は以下のようにまとめられている。

これまでに明らかになっていること

  • 気候変動は、多くの地域で環境温度が上昇するなどの直接的な影響を与えるだけでなく、COVID-19の世界的なパンデミックで観察されたように、子どもの身体活動に対して間接的な影響を与える可能性がある。
  • 思春期前の子どもは成人とは異なる方法で体温調節を行い、暑熱環境への耐性が成人より低い可能性がある。
  • 環境温度が高いとき、子どもの緊急入院が増える。
  • 子どもは暑さのもとでも水分摂取意欲が低く、脱水のリスクが高い可能性がある。
  • 子どもの世話にあたる大人が、熱中症について理解しているとは限らない。
  • 世界的に若者の有酸素運動能力は低下しており、脂肪蓄積は増加している。

暑さの中で、子どもが身体活動を維持し得るための研究が求められている

気候変動が続くなかで、子どもたちが適切な体力を維持することが、子どもの健康や身体能力の保持に求められる。健康な成人は、生理学的、行動的、および心理的な対策を組み合わせることで高い気温に耐えることができるが、子どもの体温調節は成人とは異なり、研究すべき多くのテーマが残されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Moving in a hotter world: Maintaining adequate childhood fitness as a climate change countermeasure」。〔Temperature. 2022 Aug 04〕
原文はこちら(Informa UK)

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