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男性持久系アスリートのエネルギー不足の研究 約25kcal/kgFFMを下回ると負の影響が発生

男性持久系アスリートを対象に、エネルギー可用性を3段階に調整して14日間その状態を維持し、血液検査値やパフォーマンスへの影響を検討した研究結果が報告された。約25kcal/kgFFMを下回ると影響が表れ始め、閾値が女性より低いことが示された。また、最初に瞬発力が低下し、続いて持久力が低下することも明らかになった。女性よりも回復が速いことなどもわかった。英国とスロベニアの研究者の報告。

男性持久系アスリートのエネルギー不足の研究 約25kcal/kgFFMを下回ると負の影響が発生

男性アスリートのLEAの閾値は?

スポーツにおける相対的なエネルギー不足(relative energy deficiency in sports;RED-S)は、エネルギー可用性(energy availability;EA)の低い状態「LEA(low energy availability、利用可能エネルギー不足)」によって発生する種々の負の影響により定義され、パフォーマンスや身体的または精神的健康を阻害する潜在的な可能性がある。RED-SやLEAは、その影響が生涯に及びかねない女性アスリートでよく研究されており、一般的に30kcal/kg除脂肪体重(FFM)がLEA判定の閾値とされている。

一方、男性アスリートのLEAの閾値は女性より低いと考えられるが明確ではなく、女性のようにカットオフ値を定められるかどうかも不明。理論的にはエネルギー可用性(EA)が低いほど負の影響が現れやすいと考えられるが、その点のエビデンスも十分でない。

このような背景から本論文の著者らは、消費エネルギーを増やして意図的にLEA状態を誘発。定常状態から-25%、-50%、-75%という3つのレベルのLEA状態を14日間維持、発現する変化を検討するという研究を行った。

消費エネルギーを増やして-25%、-50%、-75%のLEAを誘発

この研究の参加者は、トライアスロンおよびプロのサイクリングチームのコーチを通じて募集された持久系アスリートで、VO2maxが55.0~64.9mL/kg/分の範囲である12人の男性アスリート。参加者全員が、定常状態で14日間過ごすベースライン調査(フェーズ1)を終了後、試行順序が無作為化された同一プロトコルの3つのフェーズを完了した。

フェーズ2~4は、摂取エネルギー量はフェーズ1のまま変更せず、最大心拍数の70~80%でのランニングまたはサイクリングによって消費エネルギー量を増やし、エネルギー可用性(EA)が-25%、-50%、-75%になるようにした。EAは、〔(摂取エネルギー量-運動による消費エネルギー量)÷除脂肪体重〕で計算した。

各ステージの介入期間は14日間で、試行順序は無作為化し、各フェーズ試行の間に1カ月のウォッシュアウト期間を設けた。1カ月のウォッシュアウト後に、安静時エネルギー消費量、体組成、血液検査値を評価し、定常状態に回復していない場合はさらに2週間をウォッシュアウトにあてた。

なお、摂取エネルギー量は食事記録から把握し、運動による消費エネルギー量は心拍数モニタリングにより把握され、各参加者に運動強度と時間を示したトレーニングスケジュールが指示された。

評価項目について

評価項目は、パフォーマンス関連では、カウンタームーブメントジャンプによる瞬発力、Tテストによる敏捷性、および自転車エルゴメーターによるVO2max、ピークパワー、相対的パワーであり、そのほかに血液検査、および、TFEQ-R18(three factor eating questionnaire-18)により摂食行動の変化、幸福感の評価のためのアンケートを行った。また、早朝勃起についても調査された。

なお、血液検査値の中で有害な影響を表す指標がベースラインから20%以上変化した場合、その時点でその参加者はプロトコル終了とした。

主な結果

参加した12人が全身、フェーズ1(定常状態)、フェーズ2(-25%のLEA)、フェーズ3(-50%のLEA)を終了した。ただし、フェーズ4(-75%のLEA)は、11人は10日以上継続できたものの、全員が14日間継続することができなかった。

各フェーズで認められた主な変化は以下のとおり。

フェーズ2(-25%のLEA)

  • 14日間完了した12人全員で解析。EAは平均22.4±6.3kcal/kgFFM/日。
  • 血液検査では、ヘモグロビンが有意に低下し(p=0.022)、鉄(p=0.0666)とインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1;IGF-1.p=0.077)が非有意ながら低下傾向。
  • パフォーマンス関連では、瞬発力が有意に低下(p=0.001)。
  • 幸福感が有意に低下(p=0.036)。

フェーズ3(-50%のLEA)

  • 14日間完了した12人全員で解析。EAは平均17.3±5.0kcal/kgFFM/日。
  • 体組成関連では下半身の脂肪率が有意に低下(p=0.006)。血液検査ではインスリン様成長因子-1(IGF-1)が非有意ながら低下傾向(p=0.065)。
  • パフォーマンス関連では、ピークパワー(p=0.021)、相対的パワー(p=0.036)、瞬発力(p=0.0001)が有意に低下。
  • 幸福感が有意に低下し(p=0.002)、摂食行動に変化(p=0.020)。

フェーズ4(-75%のLEA)

  • 10日間完了した11人で解析。EAは平均8.82±3.33kcal/kgFFM/日。
  • 体組成関連では、体重(p=0.0001)、体脂肪(p=0.037)の有意な減少、除脂肪体重(FFM)は非有意ながら減少傾向(p=0.069)。血液検査では甲状腺ホルモンのトリヨードチロニン(T3)が有意に低下(p=0.024)、男性ホルモンのテストステロンが非有意ながら低下傾向(p=0.095)。
  • パフォーマンス関連では、ピークパワー(p=0.044)、瞬発力(p=0.0001)が有意に低下。
  • 幸福感が有意に低下し(p=0.0001)、摂食行動(p=0.002)に有意な変化が生じ、認知機能が有意に低下(p=0.028)。

男性持久系アスリートのLEAの閾値は、9~25kcal/kgFFM/日の範囲

これらの結果から明らかになったこととして、著者らは以下の4つのポイントを挙げている。

  1. LEAのカットオフ値は認められず、健康、パフォーマンス、および心理的要因がさまざまなEA値で変化する。
  2. その範囲は、女性アスリートよりもかなり低い値である。
  3. LEAの評価法として、ベースラインからのテストステロンとIGF-1の変動の組み合わせが有用な可能性がある。
  4. LEAは、身体的健康状態よりも先に精神状態やパフォーマンスに影響があると思われる。

また、EA低下が深刻であるほど、より多くのパラメーターがより早く影響を受け、パフォーマンス関連ではまず瞬発力が影響を受けて、その後、持久力が低下するとしている。ただし、個人差が大きいことも強調している。

幸福感の把握に関連して早朝勃起について質問していたが、デリケートな個人情報のためか明確な回答が得られず、有意な変化を検出できなかった。この点に関しては、今後の検討では、質問内容を性的欲求の程度に変更するなどの工夫が必要だとしている。

結論には、「男性持久系アスリートは、女性よりもEAの減少に対して回復力が高いことが確認された。男性アスリートのLEAの閾値は、女性アスリートに提案された閾値よりも低いと考えられ、9~25kcal/kgFFM/日の範囲を推奨する」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Reducing energy availability in male endurance athletes: a randomized trial with a three-step energy reduction」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2022 May 25;19(1):179-195〕
原文はこちら(Informa UK)

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