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成人の牛乳摂取量が、男性では高齢期の握力の高さと関連 英国で1946年生まれの人を追跡調査

男性では、成人期の牛乳摂取量が多いほど、交絡因子を調整後にも、高齢期に入ってからの握力が高いことと有意に関連しているとするデータが報告された。第二次世界大戦終了後間もない、1946年に英国で生まれた人を対象に続けられている追跡調査から明らかになった。なお、女性では明確な関連がみられなかったという。

成人の牛乳摂取量が、男性では高齢期の握力の高さと関連 英国で1946年生まれの人を追跡調査

成人期のタンパク質摂取量と高齢期の筋力を前向き縦断研究で検討

牛乳は健康的な食品の代表的な存在として古くから広く認識されている。牛乳の主な栄養素であるタンパク質のうちの約2割は消化の速いホエイが占め、約8割は時間をかけて消化されるカゼインであり、それらはタンパク質として単独で、または抵抗運動との組み合わせにより、筋タンパク質の合成を刺激する。また、ホエイタンパクは急速に消化された後、筋タンパク質合成の主な調節因子であるロイシンなどの必須アミノ酸として働く。一方でカゼインタンパクはゆっくりと消化・吸収され、同化反応を長時間維持するように働く可能性がある。

ただし、本論文の著者らによると「驚くべきことながら、成人期の牛乳をはじめとするタンパク質食品の摂取量と、高齢期に入ってからの筋力との関連を、前向きに縦断的追跡をした研究はほとんどない」という。多くは横断的研究または後方視的研究とのことだ。これを背景として著者らは、英国医学研究会議(Medical Research Council)により長期間行われているコホート研究「MRC National Survey of Health and Development」のデータを前向きに解析し、これらの点を検討した。

1946年から継続追跡中のコホート研究のデータを解析

このコホート研究では、1946年にイングランド、ウェールズ、スコットランドの単胎の新生児5,362人を社会階級別に無作為化して登録し、現在に至るまで長期間追跡調査が続けられている。これまでに24回にわたり、健康診断、看護師の家庭訪問、郵送アンケート調査などが行われており、最新の調査は2015年に研究登録者が69歳になった時点で行われた。

食習慣に関しては、参加者が36歳(1982年)、43歳(1989年)、53歳(1999年)、60~64歳(2006~11年)という4機会に、それぞれ5日間の食事日記を用いて把握した。3,126人の参加者が、36歳から60~64歳までに少なくとも1回以上、食事調査を受けていた。

男性において、総牛乳摂取量と握力との間に有意な関連

牛乳摂取量

研究参加者の牛乳摂取量は、36歳時点の調査が最も少なく195.16±119.63g/日、53歳時点の調査が最も多く237.08±141.0g/日だった。性別の比較では、すべての年齢時点で、女性よりも男性の乳タンパク質摂取量のほうが多かった。

全体的に高齢になるに従い、低脂肪乳の摂取量が増加し、全脂肪乳の摂取量は減少していた。成人期全体の平均では、低脂肪乳が121.6±96.2g/日、全脂肪乳が86.6±79.4/日、両者合計(総牛乳摂取量)が205.6±104/日だった。

69歳時点のサルコペニアの有病率と牛乳摂取量との関連

続いて、牛乳摂取量の三分位で全体を3群に分け、69歳時点でのサルコペニアの有病率を、第1三分位群(牛乳摂取量の少ない下位3分の1)を基準に比較検討した。解析に際して、性別、職業、健康状態、BMI、余暇での身体活動量を調整した(年齢は全解析対象者が同年齢であるため調整因子に含めていない)。

その結果、総牛乳摂取量、および全脂肪乳の摂取量の多寡は、サルコペニア有病率との関連がみられなかった。それに対して、低脂肪乳の摂取量との関連では、第2三分位群でサルコペニア有病率の有意な低下が認められた(OR0.59〈95%CI;0.37~0.94〉,p=0.03)。ただし、第3三分位群(低脂肪乳の摂取量の多い上位3分の1)のサルコペニア有病率は、第1三分位群と有意差がなかった。

53~69歳の握力の変化と牛乳摂取量との関連

次に、53~69歳の握力について検討。まず時間効果についてみると、男性、女性いずれについても、加齢にともない握力が低下していた。

牛乳摂取量との関連では、男性において総牛乳摂取量の第3三分位群は第1三分位群より握力が有意に高かった(β=1.82〈95%CI;0.18~3.45〉,p=0.03)。全脂肪乳、低脂肪乳の摂取量の多寡は、握力と有意な関連がなかった。

また、女性に関しては、男性で有意な関連がみられた総牛乳摂取量も含めて、すべて有意な関連がみられなかった。

限定的なエビデンスであり、今後の研究が必要

以上の結果から著者らは、「余暇時間の身体活動量などの交絡因子を調整後にも、成人期の牛乳摂取量が多いことと、高齢期の握力低下やサルコペニアリスクが低いという関連を表す、限定的な結果が得られた。ただし、明確な用量反応性は確認されず、この結果は慎重に解釈する必要がある」と述べている。

また、可能性として、男性は成人期に牛乳を多く飲むほど、高齢期の筋力が高く維持され、低脂肪乳の摂取によりサルコペニアリスクが低下すると言えるが、「さらなる検討が必要」としている。なお、女性では牛乳摂取量との関連が明確でないことに関しては、職業や身体活動量の性差により、筋タンパク合成刺激が男性ほど高くないため、あるいは残余交絡(共変量の経時的な変化の性差)の影響ではないかとの考察が加えられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Milk intake across adulthood and muscle strength decline from mid- to late life: the MRC National Survey of Health and Development」。〔Br J Nutr. 2022 Jul 7;1-12〕
原文はこちら(Cambridge University Press)

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