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低強度運動とタマネギ・ブロッコリーのポリフェノールで、中高齢者の筋肉の質が改善

低強度レジスタンス運動とケルセチン配糖体の摂取を組み合せることで、中高齢者の筋肉の質の一部である筋柔軟性が改善するとする研究結果が報告された。立命館大学、サントリーウエルネス(株)、順天堂大学、国立健康・栄養研究所、八戸学院大学の共同研究グループの研究によるもので、「Frontiers in Nutrition」に論文が掲載されるとともに、立命館大学のサイトにニュースリリースが掲載された。サルコペニアやQOL向上のための対策として期待されるという。

低強度運動とタマネギ・ブロッコリーのポリフェノールで、中高齢者の筋肉の質が改善

研究成果の概要:低強度運動でも筋肉の「質」改善できるか?

中高齢者を対象としたランダム化二重盲検比較試験※1により、低強度レジスタンス運動※2と、タマネギやブロッコリーなどの食品に豊富に含まれるポリフェノールの一種であるケルセチンに糖を合わせたケルセチン配糖体※3との、筋肉の量や質に対する組み合せ効果を検証。その結果、日々ケルセチン配糖体を摂取しながら、週3回のレジスタンス運動を組み合わせることにより、筋肉の「質」の一部である筋柔軟性が改善することが明らかになった。

※1 ランダム化二重盲検比較試験:処置群(本研究ではケルセチン配糖体の低用量あるいは高用量摂取群)と対照群(本研究ではレジスタンス運動のみを実施する群)を無作為に選別し、実施する実験手法。このとき、被験対象者ならびに検査者双方が、処置群と対照群を区別できない状態とする。
※2 レジスタンス運動:筋肉に抵抗・負荷をかける動作を繰り返し実施する運動。
※3 ケルセチン配糖体:溶解性に乏しいケルセチンを糖と組み合わせ、体内への吸収を高めた化合物。

研究の背景:高齢者では高強度運動が困難なことが多い

加齢とともに筋力が低下する加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)では、筋肉の「量」のみならず「質」の低下が課題とされている。研究グループでは先行研究において、筋肉の質の指標の一つとして、筋組織中の細胞外マトリックス※4を反映する筋柔軟性が加齢とともに増加することを明らかにした。さらに、中高齢者に対する低強度レジスタンス運動の効果は強度によって異なり、筋肉の量の改善には低強度のレジスタンス運動でも効果があるものの、量と質の双方の改善には、中強度のレジスタンス運動が必要であることを明らかにした。

※4 細胞外マトリックス:すべての組織や臓器中に存在する、非細胞性の構成成分(コラーゲンや非コラーゲン性糖タンパク質、プロテオグリカン)。

一方で近年では、運動と食品摂取の組み合せがサルコペニアの改善に効果的であると考えられているが、運動と食品摂取の介入研究は少なく、エビデンスが乏しい。とくに、中高齢者が日常生活で実施しやすい低強度な運動と食品の組み合わせや、タンパク質やアミノ酸以外の食品摂取効果の検証は希薄。

そこで、低強度のレジスタンス運動とケルセチン配糖体を組み合せたときの、筋肉の量や質、とくに筋柔軟性に対する効果を、ランダム化二重盲検比較試験により検証した。食品にポリフェノールの一種のケルセチンを用いた理由は、in vivo※5in vitro※6試験において、筋萎縮抑制作用や筋組織中の細胞外マトリックス低下作用が知られているため。

※5 in vivo:「生体内で」というラテン語であるが、主に実験動物などを対象に実施する試験・実験が多い。
※6 in vitro:「試験管内で」というラテン語であるが、主に細胞を対象として実施する試験・実験が多い。

研究の内容:ケルセチン配糖体摂取と低強度運動で筋肉の柔軟性が改善

50~74歳の健康な中高齢者、男女54人を、運動+プラセボ食品群、運動+低用量食品群、運動+高用量食品群の3群にランダムに分けて、24週間の介入を行った。

運動は、下肢を中心とした低強度レジスタンス運動(レッグエクステンション、レッグカール、レッグプレス、チェストプレス。最大挙上重量の40%で14回×3セットを週3回)を行った。

食品は、ケルセチンの吸収性を高めた食品成分のケルセチン配糖体を200mg(低用量)または500mg(高用量)配合したカプセルを使用した。筋柔軟性は、先行研究に準じて、超音波エラストグラフィーを用いて大腿部の柔軟性を評価した。

24週間の介入の結果、運動介入の前後で、筋柔軟性は有意に向上した(図1)。さらに、運動のみと比較しても、低用量ならびに高用量のケルセチン配糖体摂取との組み合わせにより、筋柔軟性は有意に向上した。

以上の結果より、低強度レジスタンス運動とケルセチン配糖体摂取の組み合せが、中高齢者の筋柔軟性を改善することが明らかとなった。

図1 レジスタンス運動と食品の組み合わせによる筋柔軟性の変化
レジスタンス運動と食品の組み合わせによる筋柔軟性の変化
レジスタンス運動のみと比較して、ケルセチン配糖体の摂取とレジスタンス運動を組み合わせることで、筋の柔軟性がより一層向上した。
(出典:立命館大学)

社会的な意義

筋肉の「量」や「質」に対する運動と食品の組み合せに関する介入研究は少なく、とくに強度の低いレジスタンス運動と食品の組み合せ効果に関する研究はほとんどなかった。本研究は低強度の運動と食品の組み合せが、筋肉の「質」の一部である筋柔軟性を改善することを初めて明らかにした。

筋柔軟性の改善は、身体機能や足関節の可動域に影響することが知られていることから、サルコペニアや高齢者のQOLの改善に役立つ可能性がある。中高齢者が日常生活で実施しやすい低強度な運動と食品の組み合せが、サルコペニアの有効な対策方法として今後活用されることが期待される。

関連情報

【世界初】 低強度の運動とタマネギ・ブロッコリーなどのポリフェノールを含む食品摂取の組合せで、中高齢者の筋肉の質の一部「筋柔軟性」が改善することを解明―サルコペニアやQOL 向上の有効な対策として期待―(立命館大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Quercetin Glycoside Supplementation Combined With Low-Intensity Resistance Training on Muscle Quantity and Stiffness: A Randomized, Controlled Trial」。〔Front Nutr. 2022 Jul 6;9:912217〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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