中学校の運動部活動を学校単位から地域単位へ スポーツ庁検討会議が提言
中学校の運動部活動を従来の学校単位から地域単位へ移行することを骨子とする、「運動部活動の地域移行に関する検討会議」による提言がこのほどまとめられ、スポーツ庁長官に手渡された。少子化が進行するなかでも将来にわたり我が国の子どもたちがスポーツに継続して親しむことができる機会を確保し、同時に学校の働き方改革を推進し学校教育の質向上も目指すという。要旨を抜粋して紹介する。
提言の背景:少子化などにより学校運動部活動の維持が困難に
中学校での運動部活動は、生徒がスポーツに親しむ機会を確保し、異年齢との交流の中で生徒同士や教師との人間関係の構築を図ったり、生徒自身が自己肯定感を高めたりするなどの教育的意義だけでなく、参加生徒の状況把握や意欲向上、問題行動の発生抑制などの意義からも推進されてきた。
一方、近年は持続可能性という面で厳しさを増している。例えば、日本の総人口が減少局面に入り中学校生徒数の減少が加速化しつつあり、その地域間格差も広がっている。また、競技経験のない教師が運動部活動を指導せざるを得ないこと、休日も含めた運動部活動の指導や大会への引率、運営への参画が求められる点など、教師にとって大きな業務負担となっている。他方、地域のスポーツ団体や指導者、施設などの資源と学校との連携・協働が十分ではない。
このような状況を背景に、部活動を学校単位から地域単位の取り組みへと変えていくことが「運動部活動の地域移行に関する検討会議」により検討されてきた。その検討を経て、委員間において一定の共通認識が得られたことから、このたび検討会議としての提言が取りまとめられた。
改革の方向性:休日の部活動の地域以降を令和5年度から推進
改革の方向性としては、まず、休日の運動部活動から段階的に地域移行していくことを基本とするとしている。目標時期は、令和5年度の開始から3年後の令和7年度末が目途と記されている。
次に、平日の運動部活動の地域移行は、できるところから取り組むという。この間に、ガイドラインの改訂、地方公共団体における推進計画の策定・実施、公的な支援により、地域におけるスポーツ機会の確保、生徒の多様なニーズに合った活動機会の充実、地域のスポーツ団体等と学校との連携・協働の推進を押し進める。改革推進に際しては、「複数の道筋」「多様な方法」があることを強く意識するとしている。
課題への対応:7領域の課題
課題への対応として、以下の7つの課題と対応策が述べられている。なお、この提言の内容は公立中学校で実施されることを想定しているが、国立や私立の中学校等でも、学校等の実情に応じて積極的に取り組むことが望ましいとしている。
新たなスポーツ環境
地域の実情に応じ、多様なスポーツ団体等が実施主体。特定種目だけでなく、生徒の状況に適した機会を確保。
スポーツ団体等
先進的に取り組んでいる事例をまとめ提供。必要な予算の確保やスポーツくじのtotoによる助成を含む多様な財源確保の検討。
スポーツ指導者
指導者資格の取得や研修の実施の促進。部活動指導員の活用、教師等の兼職兼業、人材バンク。指導者の確保のための支援方策の検討。
スポーツ施設
学校体育施設活用にかかわる協議会の設置、ルールの策定。スポーツ団体等に管理を委託。
大会
大会主催者に対し、地域のスポーツ団体等の参加も認めるよう要請。地域のスポーツ団体等も参加できる大会に対して支援。
会費や保険
困窮する家庭へのスポーツにかかる費用の支援方策の検討。スポーツ安全保険が、災害共済給付と同程度の補償となるよう要請。
学習指導要領等
部活動の課題や留意事項等について通知、学習指導要領解説の見直し、次期改訂時の見直しに向けた検討。部活動等から伺える個性や意欲・能力を、入試全体を通じ多面的に評価。教師の採用で部活動指導の能力等を過度に評価していれば見直す。スポーツ指導者の質・量の確保方策
提言では、上記7領域それぞれについて、考えられる施策がより詳細に述べられている。ここでは、「スポーツ指導者」の項で述べられていることを紹介する。
スポーツ指導者についての「現状と課題」は、専門性や資質を有する指導者の量を確保する必要があり、教師等のなかには専門的な知識や技量、指導経験があって地域でのスポーツ指導を強く希望する者もいるとまとめられている。
「求められる対応」としては、「指導者資格の取得や研修の実施の促進。日本スポーツ協会は、競技団体等が主催する大会において、公認スポーツ指導者資格の取得を義務付け」。「部活動指導員の活用や、教師等による兼職兼業、企業・クラブチームや大学からの指導者の派遣、地域のスポーツ団体等と連携した人材バンクの設置など。指導者の確保(適切な対価の支払い等)のための国の支援方策の検討」。「希望する教師が円滑に兼職兼業の許可を得られるよう、国は許可の対象となり得る例を周知するとともに、教育委員会は兼職兼業の運用に係る考え方等を整理」と掲げられている。
関連情報
運動部活動の地域移行に関する検討会議提言について(スポーツ庁)