男性アマチュアランナーの運動パラドックスは食事スタイルで説明できる可能性 骨代謝からの検討
男性アマチュア長距離ランナーの食習慣と骨代謝、骨密度のデータを基に統計解析を行った研究から、健康的でない食習慣のランナーほどトレーニングでの走行距離が長く、骨形成マーカーや骨密度が低いという結果が得られたという。論文の著者らは運動量が多いアマチュアアスリートでみられる健康状態の悪化、いわゆる「運動パラドックス」のメカニズムの一端を示すものと述べている。
男性の長距離アマチュアランナーのRED-Sという問題
ジョギングやマラソン、トレイルランなどのランニングの人気は世界的に高まっている。今回紹介する研究が行われたポーランドでも、アマチュアランナーの数が過去10年で3倍に増加したという。
ランニングを含む運動は基本的に健康に資するものだが、程度次第でもある。疫学研究からは、ランニング強度と死亡リスクは逆J字の関連にあるとされ、心血管死や全死亡のリスク低下は、程よい強度のランニングで認められ、過度の強度ではメリットが相殺される傾向がある。
とくに長距離ランニングの場合、骨の健康が問題になりやすい。長距離ランナーはスプリントランナーよりも骨密度が有意に低いと報告されている。このような問題は女性アスリートのトライアド(三主徴)として比較的よく研究されている。ただし女性ランナーと同様に男性の長距離ランナーでも、RED-S(relative energy deficiency in sports.スポーツによる相対的なエネルギー不足)が問題になることがある。
本論文の研究者らは、男性長距離アマチュアアスリートの骨密度や骨代謝回転マーカーと食事スタイルとの関連を、クラスター分析によって検討した。
クラスター分析で対象を二分し傾向を比較
検討対象者は、ポーランド国内で実施されたマラソン大会の参加者や、ソーシャルメディアグループから募集された。適格条件は、年齢20~49歳、ランニング経験が3年以上、過去に1回はマラソン大会に参加していること、何らかの薬剤やサプリメントを服用していないこと、フルタイム勤務の有職者であること。126人が応募し、53人が適格と判断され研究に参加した。
参加者全体の平均年齢は39.07±6.32歳、BMI24.2±2.27、体脂肪率21.00±4.07%であり、月平均走行距離は227±92kmで、75%が5年以上の経験を有していた。
対象者全員に対して、二重エネルギーX線吸収測定(DXA)法により骨密度を計測し、骨吸収マーカーのⅠ型コラーゲンC末端テロペプチド(cTX)、骨形成マーカーのアミノ末端プロペプチド(PINP)を測定、および食物摂取頻度調査とライフスタイル調査など行った。
これらの情報に基づき、k-means分析というクラスター分析を実施した結果、以下の二つにクラスター化できることがわかった。二つのクラスターとは、「食習慣があまり健康的でなく、トレーニング量が過度で、骨密度が低下している群(クラスター1)」33人と、「食習慣が健康的で、トレーニング量は適度で、骨密度が低下していない群(クラスター2)」の20人。
クラスター1と2のトレーニング量などの比較
クラスター1とクラスター2を比較すると、年齢、BMI、体脂肪率、教育歴、トレーニング以外での身体活動量には有意差がなかった。
一方、月平均走行距離はクラスター1が263±89km、クラスター2が169±66kmであり(p=0.00)、ランニング歴5年以上の割合が同順に84%、60%(p=0.04)と有意差が存在した。また、有意水準には至らなかったが、自己申告による経済状況が、クラスター1は「平均的」が64%、「平均以上」が36%であるのに対して、クラスター2は「平均的」が35%、「平均以上」が65%であり、後者のほうがやや経済的余裕のある状況だった(平均以下は両群ともに0%)。
クラスター1と2の食事摂取頻度の比較
食事摂取頻度調査から、以下の食品について、1日あたり摂取頻度に有意差がみられた。
野菜はクラスター1が0.85±0.56に対してクラスター2は1.23±0.68(p=0.03)、缶詰肉は同順に0.02±0.03、0.01±0.02(p=0.04)、バターは0.58±0.70、1.03±0.87(p=0.04)、フレッシュチーズ・カード製品0.30±0.27、0.51±0.34(p=0.02)。なお、ハードチーズの摂取量は有意差がなかった(p=0.67)。また、全粒穀物はクラスター2の摂取頻度が高かったが、群間差はわずかに有意水準に至らなかった(p=0.06)。
健康的な食事スタイルであることを表すスコア(pro-healthy dietary index;pHDI-10)にも有意差が存在した(24.98±9.51 vs 31.54±9.57,p=0.02)。ただし、非健康的な食事スタイルであることを表すスコア(non-healthy diet index;nHDI-14)は有意差がなかった(19.31±6.90 vs 20.11±5.64,p=0.64)。
クラスター1と2の骨密度や骨代謝マーカーの比較
大腿骨頸部の骨密度(Zスコア)は、クラスター1が0.10±0.78、クラスター2が1.0±40.94で後者のほうが有意に高かった(p=0.00)。大腿骨転子部やワード三角の骨密度も、クラスター2のほうが有意に高値だった(いずれもp=0.00)。
骨代謝マーカーに関しては、骨吸収マーカー(cTX)は有意差がなかったが(0.28±0.11 vs 0.33±0.19ng/mL,p=0.58)、骨形成マーカーのアミノ末端プロペプチド(PINP)はクラスター2のほうが有意に高値だった(61.60±19.58 vs 75.87±27.60ng/mL,p=0.05)。
なお、骨代謝回転に関与するビタミンDのレベルは有意差がなかった(30.58±11.27 vs 27.99±8.12ng/mL,p=0.49)。
著者によると、本研究はアマチュア長距離ランナーの骨の健康への懸念を、食事スタイルと関連づけて検討した初の研究という。結果として、ランニング歴が長くてトレーニングでの走行距離が長いアマチュアアスリートは、食事スタイルが健康的でなく、骨密度が低下していた。
このことから、「長期にわたる過度の身体活動が、アマチュアマラソンランナーの骨の健康に悪影響を与える可能性がある『運動パラドックス』という考え方を支持する結果が得られた」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary-Lifestyle Patterns Associated with Bone Turnover Markers, and Bone Mineral Density in Adult Male Distance Amateur Runners—A Cross-Sectional Study」。〔Nutrients. 2022 May 13;14(10):2048〕
原文はこちら(MDPI)