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アメフト選手に頻発する脳障害は、魚油で抑制可能か プラセボ対照無作為化比較試験

アメリカンフットボール選手の反復される脳への障害の影響を、魚油サプリメントの摂取により抑制可能かを検討した米国の研究結果が報告された。結果は、非有意ながらEPAやDHAの濃度が神経軸索損傷のバイオマーカーと逆相関する傾向が認められたという。著者らは「サンプルサイズが大きければ有意な結果が得られるのではないか」と述べている。

アメフト選手に頻発する脳障害は、魚油で抑制可能か プラセボ対照無作為化比較試験

脳震盪に至らない頭部衝撃の反復による長期的予後への懸念

サッカーやアメフトなどのハイコンタクトスポーツは脳震盪(しんとう)のリスクが高く、また近年は、脳震盪の診断に至らない程度の衝撃を繰り返すこと(repeated subconcussive head impacts;RSHIs)でも長期的には何らかの影響が生じる可能性が指摘されている。例えばサッカーやアメフト選手では、神経軸索損傷のバイオマーカーであるニューロフィラメント軽鎖(neurofilament light;NfL)の上昇や、炎症反応にかかわるサイトカインのインターロイキン-6(interleukin-6;IL-6)、腫瘍壊死因子-α(tumor necrosis factor-alpha;TNF-a)の上昇も報告されている。2019年には米国スポーツ医学協会(American Society for Sports Medicine;AMSSM)が、RSHIsが長期的な神経学的後遺症のリスクにつながる可能性があるとのコメントを発表している。

一方、動物実験からは、エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid;EPA)やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid;DHA)がRSHIsに伴う神経損傷のダメージを抑制する働きが示されており、ヒトを対象とした研究でもその働きを裏付けるデータがある。

これを背景として本論文の著者らは、DHAとEPAの摂取により、(1)プラセボと比較して血漿DHA・EPA濃度が上昇し、(2)アメフト選手のNfL濃度の上昇を緩和して、(3)IL-6およびTNF濃度を減少させるとの仮定のもと、以下の検討を行った。

38人を計8群に分けてのプラセボ対照無作為化二重盲検試験

被験者は、全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association;NCAA)ディビジョンIに所属する学生アメフト選手から募集された。除外条件として、抗炎症薬・降圧薬・脂質改善薬の服用、魚油またはω-3脂肪酸サプリメントの摂取、週に2サービング以上の魚介類の摂取、怪我の治療中、研究期間中の大会参加予定、および脳震盪の診断が設定されていた。

110人が応募し38人が採用された。この38人を以下の無作為に8群に分け、26週間介入し、介入終了から7週間経過後の33週時点で、介入前からの変動や群間差を検討した。

8群の割り付けについて

まず、全体をDHA+EPA群、プラセボ群、各19人に二分した。

そのうえで、RSHIsリスクを考慮し、各群をスターター(スターティングメンバ―)と非スターターに分け、かつ、ポジションにより高リスク群と低リスク群に分けた。これにより、各群4~5人のグループが8群形成された。

DHA+EPA群には、1日あたりEPAを2,442mg、DHAを1,200mgを週に5日、26週間にわたって摂取してもらった。プラセボ群には外観からは区別のつかないプラセボ(オレイン酸とリノール酸)を同様に摂取してもらった。

介入期間中に9人が脱落したため、最終的な解析は、各群3~5人、計29人で実施された。

サンプル数を増やした今後の研究に期待

26週間の介入期間中、EPA+DHA群のEPAおよびDHAレベルは、プラセボ群に比較し有意に高値で推移した。介入終了7週間後の33週時点では有意差はなかった。

神経軸索損傷のバイオマーカー(NfL)は、RSHIsリスクの高低で有意差

神経軸索損傷のバイオマーカーであるニューロフィラメント軽鎖(NfL)は、EPA+DHA群、プラセボ群の双方で、経時的に有意に上昇しており、どの時点でも群間差は非有意だった。

一方、RSHIsリスクの高低で比較すると、スターターは経時的にNfLレベルが有意に上昇したのに対して、非スターターでは経時的な変化が非有意であり、26週時点で群間に有意差が認められた(p=0.0086)。また、高リスクポジションの選手は経時的にNfLレベルが有意に上昇したのに対して、低リスクポジションの選手では経時的な変化が非有意だった。ただし、ポジションによる比較では、どの時点でも群間差は非有意だった。

インターロイキン-6(IL-6)は、治療割付けによる群間差は非有意だった。一方、非スターターは経時的に上昇し、17週時点ではスターターとの間に有意差がみられた。またRSHIsリスクの高低で比較すると、17週時点ではリスクが低いポジション群のほうが有意に高値だった。

腫瘍壊死因子-α(TNF-α)に関しては、時間および治療割付けによる有意差がなかった。

EPA+DHAレベルが高い選手のほうが、NfLが低い傾向

被験者全員のデータを統合して、EPA+DHAとNfLレベルの相関を検討した結果、17週時点(r=-0.42,p=0.17)と26週時点(r=-0.44,p=0.15)で、非有意ながら両者が逆相関する傾向が認められた。つまり、EPA+DHAレベルが高いことが、神経軸索損傷のダメージが低いことと関連する可能性が考えられた。

著者らは、「より大きなサンプルサイズで検討すれば、統計的に有意な結果が示される可能性がある」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Fish Oil on Biomarkers of Axonal Injury and Inflammation in American Football Players: A Placebo-Controlled Randomized Controlled Trial」。〔Nutrients. 2022 May 20;14(10):2139〕
原文はこちら(MDPI)

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