アスリートの安静時呼吸機能がパフォーマンスに関連? スポーツ外傷予防への応用も期待 立命館大学
国内約二千人のアスリートを対象に実施した疫学調査の結果、約9割が安静時に非効率的呼吸パターン(胸式呼吸)を有していたことがわかった。立命館大学の研究グループの研究によるもので、研究の成果が「Journal of Strength and Conditioning Research」に論文掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。研究者らは「呼吸パターンに着目したスポーツ外傷・障害の予防戦略構築に繋がることが期待される」としている。
研究の概要
呼吸パターンは、アスリートのさまざまな筋骨格系疾患や精神状態と密接に関係する。しかし、安静時の呼吸パターンを評価したすべてのアスリートの約90%が、非効率的呼吸パターンを有していた。効率的(横隔膜呼吸)パターンであったアスリートは、約9%のみだった。この結果から、スポーツ外傷・障害予防や運動パフォーマンス向上において、安静時の呼吸パターンをスクリーニングすることの重要性が示唆された。
研究の背景:アスリートの呼吸機能は十分に研究されていない
近年、安静時の非効率的呼吸パターンなどを含む呼吸機能不全が、腰痛症などの筋骨格系疾患の関連要因であることが明らかになっている。加えて、呼吸機能は運動機能や動作パターン、精神的・心理的状態と密接に関係することが報告されている。適切な呼吸パターンの獲得は、心身の緊張とリラックスのバランスを整え、運動パフォーマンスの向上および心身への負荷を軽減することにつながる入り口と考えられている。そのため、アスリートの身体的・精神的な健康の維持に関して、呼吸機能の重要性が注目されている。
これまでに、喘息などの呼吸器系疾患を有する患者における非効率的呼吸パターンの割合は報告されているが、アスリートにおける呼吸パターンの評価を検討した研究は多くはない。そこで、本研究では、安静呼吸時の呼吸パターン評価法である「Hi-Loテスト」を用いて、アスリートにおける非効率的呼吸パターンと効率的呼吸パターンの割合について調査した。
研究内容:二千人近いアスリートの大半が非効率な呼吸パターン
本研究の対象は、さまざまな競技・年齢層・地域のアスリート、1,933人。Hi-Loテストを用いて安静時の呼吸パターンを評価した。
Hi-Lo テストでは、立位姿勢の対象者の右手を胸部に、左手を腹部に置き、安静呼吸中の胸部および腹部に置かれている手の動きを視診することで、呼吸パターンを評価した。このHi-Loテストの結果から、アスリートの呼吸パターンを効率的呼吸パターンと非効率的呼吸パターンに分類。
その結果、効率的パターンを有するアスリートは、全体の約9%(182人)にとどまった。一方、全体の約90%(1,751人)が非効率的呼吸パターンを有していたことから、非効率的呼吸パターンを示すアスリートが多数を占めていることがわかった。
今後の展開と社会へのインパクト
本研究の結果は、アスリートの健康管理やトレーニングにおいて、呼吸パターンに着目することの重要性を示すものとなった。
呼吸機能の低下によって、酸素の脳への供給が妨げられるため、脳は疲弊して心身の状態をうまくコントロールすることができなくなってしまう。大多数のアスリートが非効率的な呼吸パターンを有しているということは、安静時であっても心身が絶えず緊張または興奮状態にあり、疲労が蓄積しやすくなっている可能性が考えられる。
また、適切な呼吸は脊椎や体幹部の安定性に貢献するため、呼吸機能を改善することによって、運動パフォーマンスにも好影響を及ぼす可能性も想定される。
本研究の結果から、アスリートの呼吸パターンを評価したうえで、呼吸を活用したエクササイズをトレーニングやコンディショニングに取り入れることの必要性が示唆された。今後、非効率的呼吸パターンがスポーツ外傷・障害の発生率とパフォーマンスに及ぼす影響や、呼吸パターン改善のトレーニング効果を検証していくことで、さらなる研究の発展が期待される。
プレスリリース
安静時のアスリートの呼吸機能と運動パフォーマンスには関係性があった!? -呼吸パターンに着目したスポーツ外傷・障害の予防戦略構築に繋がることが期待-(立命館大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Point Prevalence of the Biomechanical Dimension of Dysfunctional Breathing Pattens among Competitive Athletes」。〔J Strength Cond Res. 2022 May 24〕
原文はこちら(National Strength and Conditioning Association)