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SDGsな食事の実現には、全粒穀類の摂取を増やし、清涼・アルコール飲料と肉類の削減が必要

日本人集団において、より持続可能性が高い食事を実現するための方向性が示された。清涼・アルコール飲料、牛肉・豚肉・加工肉、調味料類、砂糖・菓子類の摂取量は削減し、その一方で、全粒穀類、乳製品、豆・種実類、果物類、鶏肉の摂取量の増加が必要だという。東京大学などの研究グループの研究によるもので、「British Journal of Nutrition」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

SDGsな食事の実現には、全粒穀類の摂取を増やし、清涼・アルコール飲料と肉類の削減が必要

発表者によると、本研究は日本人を対象に、栄養学的な食事の質、食事の金銭的コスト、食事に由来する温室効果ガスの排出、文化的受容性などの複数の要素が最適化されるよう考慮した食事のあり方を示した、初めての研究とのこと。「本研究で示された食事のあり方は、地球の生態学的環境と人々の健康を両立する食システムの実現に向けた、最初のステップになると期待される」としている。

発表の概要:現状に即した最良の対策を探る研究

東京大学とオランダのワーゲニンゲン大学、同国国立公衆衛生環境研究所の研究グループは、日本人集団において、現在の食事よりも持続可能性が高い最適化された食事のあり方(食品群の組み合わせ)を示した。

食品の生産によって生じる温室効果ガス排出量は、世界全体の温室効果ガス排出量の3分の1を占めると言われている。食事に関連して生じる温室効果ガス排出量が最小になり、かつ、人々の健康を両立する食事および食システムへの変換は喫緊の課題。

欧米の先行研究では、主に数理最適化法を用いて、食事由来の温室効果ガス排出量が小さく、かつ栄養学的にも適切なものとなる、最適化された食品の摂取パターンを計算してきている。しかし、数理最適化法では、食品を単位として食品の摂取パターンを計算するため、非現実的な食品の組み合わせが生じる可能性がある。

そこで本研究では、過去に実施された、日本人成人369人を対象とした食事データに対して包絡分析法を応用し、栄養学的な食事の質の向上に加えて、食事の金銭的コストと食事に由来する温室効果ガスの排出量が最小になり、かつ文化的にも受容可能な食品の組み合わせを算出した。

その結果、見いだされた組み合わせは、現在の食事と比べ、清涼・アルコール飲料、牛肉・豚肉・加工肉、調味料類、砂糖・菓子類の摂取量が少なく、全粒穀類、乳製品、豆・種実類、果物類、鶏肉の摂取量が多いものとなっていた。包絡分析法を用いたことで、栄養学的な食事の質の向上といった目標を達成しつつ、現在の食事により近い食品の組み合わせが示されている。

本研究で示された食事のあり方は、地球の生態学的環境と人々の健康を両立する食システムの実現に向けた、最初のステップになり得るという。

発表内容の詳細:栄養、コスト、文化、環境の最適化バランス

研究の背景:先行研究における問題点

食品の生産によって生じる温室効果ガス排出量は、世界全体の温室効果ガス排出量の3分の1を占めると言われており、温室効果ガス排出量が最小になり、かつ、人々の健康を両立する食事および食システムへの変換は、人類の眼前に迫っている課題。欧米における複数の先行研究では数理最適化法を用いて、文化的に受容可能かつ栄養学的に適切で、食事の金銭的コストと食事由来の温室効果ガス排出量が最小となる食品の摂取パターン(食品の組み合わせ)を探索しているが、その手法では非現実的な食品の組み合わせが生じ得るという限界がある。

これに対して本研究では、近年、ワーゲニンゲン大学の研究チームによって提案された包絡分析食事モデルを用いて、現在日本人で摂取されている食品の組み合わせに基づく、代替的な食品の摂取パターンを求めた。

研究内容

研究に用いたデータは、20~69歳の日本人男女396人から得られた、非連続4日間の食事記録※1の1日平均のデータ。対象者の食事の食品構成を、エネルギー摂取量を標準化したうえで比較するため、摂取量データの信頼度が極端に低いと判定された23人を除外し、369人のデータを用いた。

※1 非連続4日間の食事記録:対象者に、調査日に摂取した食事の献立と材料、材料の重量をすべて記録してもらう方法。

まず、包絡分析食事モデルを用いて対象者の摂取パターンを多次元的に比較し、摂取量の多いことが好ましい食品(野菜、果物、全粒穀類、豆類、種実類、魚介類、乳製品)の摂取量に対して、摂取量の少ないことが好ましい食品(Red meat類※2、精製された穀類、清涼飲料類、アルコール飲料類)の摂取量が少ない摂取パターンの男性74人、女性71人を抽出。

※2 Red meat類:ここでは、牛肉、豚肉、加工肉類と定義。

次に、残りの男性110人、女性114人の摂取パターンが、摂取量の多い/少ないことが好ましい食品の摂取量について改善されるよう、前述の男性74人、女性71人の摂取パターンを組み合わせて、代替の摂取パターンを算出した(例、対象者AとBの摂取パターンを4:6の比で足し合わせ、対象者Cの摂取パターンの代替とする)。

組み合わせの算出に際して、次の4つの要素すべてが達成されるモデルを設定した。①文化的受容可能性が最大(現在の食事と、算出された食事の摂取量の変化の差が最小)、②食事の栄養学的な適切さ(18種類の栄養素を用いて判定)が最大、③食事の金銭的コスト(各種食品の小売価格データベースと食品摂取量をもとに算出)が最小、④食事由来の温室効果ガス排出量が最小。

そして、モデルに従って計算された摂取パターンと、現在の食事の摂取パターンを比較した。なお、前述の男性74人、女性71人の摂取パターンは、現在の食事と変わらないものとした。

その結果、見いだされた食事の摂取パターンは、現在の食事と比べて、清涼・アルコール飲料、牛肉・豚肉・加工肉、調味料類、砂糖・菓子類の摂取量が少なく、全粒穀類、乳製品、豆・種実類、果物類、鶏肉の摂取量が多いものとなっていた。モデルに従って計算された摂取パターンでは、現在の食事と比べて食事の栄養学的な適切さが高く(男性で8%、女性で10%)、その一方、金銭的コストと食事由来の温室効果ガス排出量は低くなった(それぞれ、男性で6%と13%、女性で2%と10%)。

以上から、摂取パターンを変えることで、複数の条件と両立して、食事由来の温室効果ガス排出量を10%程度削減し得ることが示された。

図1 最適化された食品の摂取パターンにおける食品の摂取量と現在の食品の摂取量の比較

最適化された食品の摂取パターンにおける食品の摂取量と現在の食品の摂取量の比較

(出典:東京大学)

社会的意義

研究グループによると、本研究で示された食事のあり方は、地球の生態学的環境と人々の健康を両立する食システムの実現に向けた、最初のステップになると期待されるという。

ただし、本研究の対象者は日本人の代表的な集団ではないうえ、食事調査も一季節(冬)のみであるため、複数の季節の食事データを含んだ、より代表性が高いデータを用いた、さらなる研究が必要であり、また、示された食品の摂取パターンを実現する具体的な方策を探る研究も必要だと述べている。

プレスリリース

日本人における持続可能な食事の実現には、全粒穀類の摂取量の増加と清涼・アルコール飲料、牛肉・豚肉・加工肉の摂取量の削減が必要~温室効果ガス排出、栄養素、食費、文化的受容性を考慮したモデル分析~(東京大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Exploring culturally acceptable, nutritious, affordable, and low climatic impact diet for Japanese diets: Proof of concept of applying a new modelling approach using Data Envelopment Analysis」。〔Br J Nutr. 2022 Jan 13;1-44〕
原文はこちら(Cambridge University Press)

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