個人競技と団体競技で性格特性や競技不安は異なるか? タイの大学生アスリートでの検討
大学生アスリートの性格特性や競技不安の程度を、性別や行っている競技との関連で解析した結果が報告された。個人競技と団体競技とで比較した場合、競技不安は個人競技アスリートのほうが強いが、性格特性には顕著な差はみられないとのことだ。また、神経症傾向はすべての学生アスリートの競技不安の有意な予測因子だという。タイ発の報告であり、著者らは「この種の研究はこれまで欧米諸国を中心に行われており、アジア地域ではほとんど行われていなかった」としている。
アスリートの不安と性格特性に関するアジア発の報告
多くのアスリートは、不安がパフォーマンスを低下させると考えており、その結果、実際に成績がそのようになる可能性がある。不安のレベルは、それを認知することや時間や状況によって変わり、競技会参加中にも劇的に変化する。不安は、心拍数や呼吸数の増加、発汗、筋肉の震えなどを介して直接的・間接的に生理学的影響を及ぼし、また、不快感、コミュニケーションの問題などの行動の変化を引き起こす可能性がある。よってアスリートが上手に不安に対処できなかった場合、パフォーマンスに悪影響が及ぶ。
このような不安と関連があるとされる性格特性については現在、ビッグファイブ理論による解釈がコンセンサスとなっている。欧米を中心とする先進諸国では、アスリートの性格特性をビッグファイブ理論に基づき分析し、パフォーマンスに影響を与える不安との関連の研究が行われ多くの知見が蓄積されている。しかし、今回紹介する論文の著者らのフィールドであるタイでは、この領域の研究がまだほとんど行われていないという。
このような状況を背景として本論文の著者らは、タイの大学生アスリートを対象とする調査を行った。
調査対象と調査項目について
調査対象は同国の2020年の大学スポーツ大会(Thailand University Games)に参加した、18~25歳の大学生アスリート237人(男性134人、女性103人)。行っている競技は、個人競技の陸上、射撃、乗馬、柔道、水泳、フェンシング、ゴルフ、テコンドー、空手、テニス、バドミントン、卓球などに114名(48.10%)、団体競技のサッカー、フットサル、バレーボール、ビーチバレーボール、セパタクロウ、バスケットボール、ボート、ラグビーなどに123人(51.90%)が参加していた。競技歴は5.16±3.15年だった。
性格特性は、精神医学領域で用いられている「ビッグファイブ理論」に基づき、神経症傾向、外向性、開放性、協調性、勤勉性という5因子で評価した。このうち、神経症傾向とは、情緒不安定性や自己意識に対する脆弱性を指す。
不安については、スポーツ競技不安テスト(sport competitive anxiety test;SCAT)を用いて評価した。SCATは15項目(うち5項目はバイアスリスクを抑制するためのもの)で構成されており、回答は「競技前は不安/落ち着いている」などの質問に対して、そのように感じる頻度を3段階で回答し、その結果をスコア化する。
性格特性の一部と競技不安が有意に関連
解析対象アスリート全体の平均は、神経症傾向が3.16±0.60、外向性が2.69±0.55、開放性が2.96±0.33、協調性が2.56±0.53、勤勉性が2.56±0.55であり、競技不安は21.32±3.79だった。
女性よりも男性のほうが強調性が高いという、先行研究とは異なる結果
これらの評価結果について論文ではまず、個人競技と団体競技、および性別で比較検討している。
その結果、性格特性についてはいずれの指標も、個人競技と団体競技のアスリートとの間に有意な群間差はみられなかった。ただし、協調性に関しては、個人競技アスリートが2.49±0.54であるのに対して団体競技アスリートは2.62±0.53であり、群間差は有意でないながら団体競技アスリートのほうが高い傾向があった(p=0.07)。
一方、競技不安は個人競技アスリートが21.88±3.73であるのに対して団体競技アスリートは20.88±3.80であり、個人競技アスリートのほうが有意に高かった(p=0.03)。
性別で比較すると、性格特性のうち協調性は、女性2.48±0.54、男性2.62±0.53であり、男性アスリートのほうが有意に高かった(p=0.04)。欧米諸国で行われた研究では、女性アスリートのほうが協調性が高いことが示されている。先行研究との不一致について、「文化の違いが原因ではないか。タイの男性はオープンマインドであり考えすぎることがなく、他者と良好な関係を保つ傾向がある」と論文中に考察が述べられている。
競技不安に関しては、女性が22.40±3.45であり、これは男性の20.49±3.85よりも有意に高かった(p<0.001)。
神経症傾向が競技不安に独立して関連し、団体競技では協調性が保護的に作用
相関分析の結果、開放性を除く4つの性格特性と競技不安との間に有意な相関が認められた。それらを説明変数、競技不安を目的変数とする重回帰分析の結果、神経症傾向(全アスリートでβ=-0.52、個人競技アスリートでβ=-0.55、団体競技アスリートでβ=-0.56.いずれもp<0.001)が、競技不安を強める独立した因子として抽出された。
これとは反対に団体競技アスリートでは、強調性が競技不安を抑制する独立した因子として抽出された(β=0.36,p<0.001)。
性格特性は全アスリートの競技不安の22%、個人競技アスリートの競技不安の29%、団体競技アスリートの競技不安の22%を説明可能と計算された。
以上を基に著者らは、結論を以下のようにまとめている。
「個人競技アスリートは団体競技アスリートに比較して有意に高いレベルの競技不安を持っていることが明らかになった。ただし、性格特性は両群で類似していた。性別の影響については、競技不安と性格特性の協調性に有意な差異が認められた。また、性格特性は競技不安と有意に相関していたが、独立して関連していたのは神経症傾向のみであり、その関与も限定的なものであった」。
文献情報
原題のタイトルは、「Personality characteristics and competitive anxiety in individual and team athletes」。〔PLoS One. 2022 Jan 14;17(1):e0262486〕
原文はこちら(PLOS)