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ドーピング違反アスリートは競技パフォーマンスが有意に高い 男子重量挙げデータの解析

ドーピング規則違反と認定された男子重量挙げ選手の成績は、違反認定を受けていない選手の成績よりも高く、群間差が有意であるとする研究結果が報告された。論文の著者らは、パフォーマンスデータを解析することで、疑わしいアスリートを積極的にドーピングテストの対象にするといった対策が有効ではないかと提案している。韓国とカナダの研究者による報告。

ドーピング違反アスリートは競技パフォーマンスが有意に高い 男子重量挙げデータの解析

パフォーマンスの変化を追跡しやすい重量挙げ選手での検討

ドーピング行為に対しては年々対策が強化されてきている。ただし、世界中のアスリート全員を常時スクリーニングすることは不可能であり、サンプル調査とならざるを得ない。よって、ドーピング規則違反と認定されていないアスリートが全員、ドーピングをしていないとは、残念ながら結論付けることはできない。

かつて、ドーピング対策を強化した直後にある競技のアスリートのパフォーマンスが全体的に低下しことが報告されている。また、エリスロポエチン製剤(赤血球を増やす薬剤で貧血治療などに用いられる)が開発された直後、当時はその使用を検出する技術がなかったこともあり、ランナーのパフォーマンスが急に上昇したことがあった。

このような状況を背景として本論文の研究者は、逆に、パフォーマンスを評価することをドーピング対策につなげられないかとの仮説を立てた。つまり、ドーピング行為をしているがまだ見つかっていない選手と、ドーピングをしていない選手との間に、もしパフォーマンスの差があるのであれば、不自然なハイパフォーマンスのアスリートは、ドーピング検査の頻度を増やすなどの対策を立てられるのではないかとのアイデアだ。

研究対象は重量挙げの選手とした。これは、ドーピング違反件数が比較的多く、かつ、パフォーマンスを重量(kg)で定量的に評価可能であるため。

ドーピング違反認定を受けた選手の成績は確かに高い

解析データは、国際ウエイトリフティング連盟(International Weightlifting Federation;IWF)のWebサイトに公開されている1998~2020年の情報を用いた。この間に、ドーピング違反の認定を受けた選手289人、違反認定を受けていない選手2万6,740人のデータを解析可能だった。

全体での解析結果

選手の体重を横軸、成績を縦軸とする散布図を描くと、ドーピング違反認定をされた選手の成績は、同じ体重の違反認定を受けていない選手よりも高い位置にプロットされた。

例えば、成績の上位1%以内に、ドーピング違反認定を受けた289人のうち2.1%(6人)が存在していた。同様に、成績の上位1~5%には14.5%(42人)、上位5~10%にも14.5%(42人)が存在していた。以下、上位10~25%は29.1%(84人)、上位25~50%は18.7%(54人)。

反対に、下位にあたる90~100%には、ドーピング違反認定をされた選手はわずか2.8%(8人)しか存在しなかった。75〜90%も4.5%(13人)であり、50~75%は13.9%(40人)と少数だった。

30代後半でパフォーマンスに20%強の差

年齢とパフォーマンスの関係を解析すると、ドーピング違反認定を受けた選手も受けていない選手も、ともに15~25歳にかけて成績が大きく上昇していた。その成績の変化率は、前者が15.2%、後者は18.7%だった。

ドーピング違反認定をされていない選手は、20代前半まで急速にパフォーマンスが向上し、26歳前後でピークに達して30代に入ると低下していた。一方、ドーピング違反認定を受けた選手も20代前半まで同様の傾向がみられたが、その後にパフォーマンスが低下せず、30代に入ってからも向上する傾向があった。

結果として、両群のパフォーマンスの差は30代後半で最大化し、20.6%の差が認められた(違反認定されていない選手の合計重量の平均が292.0kgに対して、違反認定された選手は352.3kg)。

体重階級では96kg級で最大の差

次に、体重階級別にみると、ドーピング違反認定を受けた選手と受けていない選手とのパフォーマンスの差が最も大きい階級は96kg級であり、成績の差は18.6%だった(前記と同順に310.1 vs 367.8kg)。

また、年齢と体重階級を掛け合わせて解析すると、15~19歳の67kg級で18.4%という最大の差が認められた(253.9 vs 300.8kg)。

パフォーマンスを基にドーピング検査を強化するという提案

以上の結果から著者は結論として以下のようにポイントをまとめている。

  1. 年齢や体重階級にかかわりなく、すべてのカテゴリーでドーピング違反認定を受けたアスリートが存在した
  2. パフォーマンスの上位選手の中には、ドーピング違反認定を受けたアスリートの割合が高かった
  3. 15~19歳および20~24歳では、109kg超級を除くすべての体重カテゴリーで、ドーピング違反認定を受けた選手と受けていない選手とのパフォーマンスに有意差が認められた
  4. よって、パフォーマンスデータを解析することにより、疑わしいアスリートをドーピングテストの対象にするという対策が可能と考えられる

文献情報

原題のタイトルは、「Importance of weightlifting performance analysis in anti-doping」。〔PLoS One. 2022 Feb 4;17(2):e0263398〕
原文はこちら(PLOS)

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